第30話 異世界のマンガ
「じゃあ、これ。」
タニタから渡されたタプレットには、そのマンガ「片目のアイリア」の表紙がすでに表示されていた。図書館には紙の本もあったけど、電子書籍も普及しているようだ。教科書も電子化されているし。
表紙は立ち姿の女の子が描いてあり、身体をひねってこちらを振り返っている構図だ。
「へえ。」
地球のマンガだったらなんてことないポーズだけど、前後に目がある大球人は基本的に振り返ったりはしない。なので意外さと、片目だというアイリアの特徴を印象付ける表紙だ。
ページを送って読んでいく。学校や自宅の机に表示させてるときとページのめくり方は同じだから読むのに問題はない。
話は連作短編みたいな形式だ。第一話の「片目のアイリア」では人口の少ない地方の町で、初等学校生のユイユの視点で話が進む。
ユイユの通う学校に、アイリアという転校生がやってくる。ユイユの隣の席になったアイリアの見た目は少し変わっていた。ユイユのように髪を左右に振り分けるのではなく、長い髪をそのまま顔の後ろ側に下ろしていた。それでは後ろ側が見えにくいのではと聞くと、アイリアは自分は片方の目が見えないのだと答える。
ユイユとアイリアはだんだん仲良くなっていく。ある日ユイユはアイリアの髪型をまねてみる。アイリアが後ろを振り返る時に髪がふわっとなるのを見て素敵だと思ったからなのだけど、アイリアには自分と同じ髪型にはしない方がいいと言われる。
喧嘩別れをするようになって一人で道を歩いていたユイユは、何者かに車で誘拐されてしまう。町外れの廃倉庫に連れて来られたユイユは、自分がアイリアに間違われてさらわれたことに気が付く。
その後、アイリアがユイユを助けにきて一件落着なのだけど、アイリアはどこかに行ってしまうというのが1話のあらすじた。
第二話「追われるアイリア」ではケガをしたアイリアが森の中で倒れているところから始まる。アイリアが目をさますと森の中の山小屋のような家の中で、そこに住む老夫婦が助けてくれたことがわかる。しばらくベッドから出られないアイリアは小さかった頃の夢を見る。夢の中のアイリアは森みたいなところで遊んでいるときに木の枝に髪を絡ませてしまうのだけど、それを誰かにとってもらう。
これがタニタの言ってたプールでの僕とライラのと同じマンガのシーンなのだろうけど、先の話が気になったのでそのまま読み続ける。
ベッドから降りられるようになったアイリアは、小屋の近くを歩き回れるようになるが、そこからは急激に回復する。あるシーンでは、周囲の草木から生命エネルギーを集めているような描写がされていた。またエネルギーをとりすぎたせいかしおれかけた花に、エネルギーを返すかのようなシーンも。髪に隠された後ろの目が光ると、しおれかけた花が元気になっている。
ここでいったん話は終わり、3話に続いている。
気になる続きを読もうとしたところへ、タニタが入ってきた。飲み物などを持ってきてくれたのだ。それを無視して読み続けるのもどうかと思ったので、いったんタブレットを置く。
「どうぞ。」
タニタがお茶とお菓子をすすめてくる。僕が持ってきたのも皿に盛られていた。
「ありがとう。」
そういってお茶をひと口飲み、お菓子に手を伸ばす。
「どのくらい読んだ?」
「まだ2話までだけど、アイリアの髪が木の枝に絡まるのは出てきてたね。」
「そう、じゃあもういいの。」
「いや、最後まで読むよ。続きが気になるし。面白いマンガだね。」
「んー、私もそう思う。でも意外。」
この意外と言うのはカンカがそういうマンガを読むのが意外ということか。確かに部屋には紙でも電子版でも本やマンガは無かったからあまり読まないのだろう。
でも僕は読むのだ。自分で買ったり友達に借りたりして読んでいた。今みたいにマンガを読むために友達の家に行ったことも何度もある。まあその友達は男だったけど。
「こっちの世界のマンガは今じゃないと読めないからね。」
僕はそう言い訳して続きを読み始めた。
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登場生物まとめ
カンカ:僕の一時転生を受け入れてくれた男の子。
ライラ:カンカの幼馴染。眼鏡っ子。
タニタ:カンカの左隣に座ってる女子。無口。マンガ好き、かも。
アイリア:マンガ「片目のアイリア」の主人公。
ユイユ:マンガ「片目のアイリア」」の1話に出てくる女の子。
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