第27話 クロールと息継ぎ

何かを持ち運ぶのにリュックのように背中に背負う方式が使われることは多い。なので持ち運ぶものが身体の一部であったとしても、それを背中側にした方が動きやすいというのも理屈ではわかる。そして身体の前後がほぼ対称で、どちらでも前にできる大球人ならば、胸というある程度の重さがあるものが背後に来るように身体の向きを設定するということにも合理性はある。

とまあ理屈ではそうなのだけど、女性の膨らんだ胸が背中側にあるというのを実際に目にすると、なんともいえない違和感がある。


初級グループとはいっても全く泳げないわけでもないようで、順番にバタ足で泳いでいく。息継ぎができずに途中で立ってしまったり、顔をまげて鼻が上向きになるようにしても水をかぶってしまいやはり立ってしまう子もいた。大球人は鼻が顔の横についてるので息継ぎは楽そうだけど、それでも出来ない子はいるわけだ。タニタの息継ぎは顔を曲げるというよりは頭全体を水面から出すようなやり方だったが、それでも途中で立たずに端まで行けたので泳げる方なのだろう。タニタの次が僕の番だ。


授業が始まる前の自由時間に少し練習しておいたのがよかったのか、特に問題なく泳ぐことができた。息継ぎというよりは顔を少し曲げた位置にして、鼻が真上ではないが水面よりも出ている状態にしたので呼吸も楽だった。

ただ隣を泳いでいる中級や上級グループを見ると、頭を動かして息継ぎをするのが標準のようだ。鼻を出したままの方が楽なのにと思ったけど、地球のクロールでも息継ぎの体制のまま泳いだりはしないので、そういうものなのかも。


2回目はバタ足だけでもいいけど出来る人は腕も使ってみてということなので、息継ぎをする泳ぎ方にした。ほとんど地球のクロールと同じで、バタ足と腕をまわして泳ぐ。息継ぎのときは顔を横に上げればいいのだけど、クロールのときの習慣で少し後ろを向く感じになってしまう。


「カンカはもう大丈夫そうだから、バンバ先生の方に行きなさい。」


レイレ先生にそう言われたので、反対側のプールサイドに移動する。タニタがこっちを見てバイバイというように小さく手を振ったので、同じく小さく振り返す。

バンバ先生にあいさつして、プールサイドに近い中級グループの列に並ぶ。プールの中央付近で泳いでるのが上級で、ドンドとかはそこで水しぶきをはねあげながら豪快に泳いでいた。

ドンドはクロールだったが他の泳ぎもやってる人もいて、平泳ぎとバタフライの中間みたいな泳法だった。手はそろえて動かすけど平泳ぎみたいに身体の横ではなくクロールみたいに身体の下の方を通す感じ。足はドルフィンキックに似てバタフライ的だけど身体はバタフライほど上下しないし、水もそれほど跳ね上がっていない。

ライラもバタフライ風の泳ぎをやっていた。泳ぐスピードはそれほどではないが、手の先からつま先まできれいに伸びているフォームでほとんど水しぶきをあげないですすんでるのはドンドと対照的だった。


泳ぎ終わったライラはプールサイドを歩いて戻ってくる。バンバ先生が声をかけていたが、特に直すところもないようでフォームを褒めていた。中級グループには改善点などを説明してる。一人で2グループを同時に見てるのだから大変だ。


「こっちに来たんだ。」


順番を待っている僕の近くでライラが声をかけてきた。ここで泳ぎのフォームを褒めてもまた怒らせてしまうかなと思ったので、とっさに、


「こんど泳ぎを教えてよ。」


と言ってみた。


「んー、いいよー。」


ライラはそう答えると上級グループの列の方に行って並んだ。昨日の散歩で少し怒らせてしまったけど、とりあえずもう怒ってはいないみたいだ。僕が一時転生している間に人間関係が悪くなってしまったら身体を貸してくれたカンカに申し訳ないので、少し安心した。


順番が来たので泳ぐ。どうしても息継ぎをするときに横ではなく斜め後ろ方向に顔を上げてしまい、これはバンバ先生にも指摘された。地球のクロールとだいたい同じなので、どうしてもそっちのやり方にひきずられてしまう。



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登場生物まとめ


カンカ:僕の一時転生を受け入れてくれた男の子。

ライラ:カンカの幼馴染。眼鏡っ子。水泳は得意みたい。

タニタ:カンカの左隣に座ってる女子。無口。泳ぎは苦手?

ドンド:カンカの右隣の男子。運動が得意で泳ぎも得意。

レイレ:カンカのクラスの教師。

バンバ:隣のクラスの教師。

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