第210話 わかってる
楽しそうに食べている連中が居る中で最悪の夕餉を食べている連中も居た。
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
ラインとそのお付きの4人は黙々と御飯を食べている。
ラインはまだ晶霊士なので、大して美味しいものを食べてはいない。
いつもは刀和や瞬の御相伴にあずかれるのだが、刀和達も呼びにくいので呼べなかったのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
仏頂面のまま黙々と食べるライン。
すぐに食べ終えてごろんと寝転がる。
お付きの四人は困り顔だ。
「若。そろそろ気持ちを入れ替えなさい。今までいい加減過ぎたのがこうやって表に出たのですぞ?」
ふて寝するラインの後ろから声を掛ける髭面のお兄さんことサダカゲ。
それに対してぶっきらぼうに答えるライン。
「うっせーな。わかってるよ……」
そう言って鼻毛を抜くライン。
明らかに聞いていない態度に困り果てるサダカゲ。
「若。そうやって不貞腐れていても良いことは無いわよ? 仲間から取り残されていくだけよ?」
「・・・・・・・・・・・」
狐目のキツイお姉さんスエムが厳しい声を上げる。
この二人は見た目通り厳しい性格をしているのでこの若武者の行く末を真面目に憂いている。
だが、そんな二人を尻目にラインは黙ったままだ。
そんな二人の後ろで狸顔のほんわかお姉さんアミと太っちょ坊主のキンタがひそひそ話をしている。
(若はへそを曲げると長いからねぇ~)
(調子が良いときはイケイケなのに……)
こちらはこちらで困り顔になる。
このメンバーを引っ張るのはやはりサダカゲとスエムの二人なのだ。
サダカゲとスエムがラインを厳しく律し、アミとキンタが尻馬に乗る。
こんな風に後押しする奴が多いからこそ上手く行っていたのである。
「若! いい加減にしなさい! トーノ様を何だと思ってるのですか!」
ぎり……
それを聞いて歯ぎしりをするライン。
だが、サダカゲは尚も言葉を連ねる。
「勘当寸前の若を拾い上げて助けてくれたのがトーノ様でしょう! そのトーノ様の恩義に報いようともせず、安穏と自堕落に生きた結果でしょう! 受けた恩義に胡坐をかいた自分を恥ずかしいとは思いませぬか!」
ぎりりっ
さらに歯ぎしりしながらもふて寝を続けるライン。
するとスエムも声を荒げた。
「そんなことやってたらみんなに追い抜かれて寂しい思いするだけよ! その悔しさをばねに立ち上がって見せなさい!」
そう言って攻めるスエム。
この時点で完全にラインはキレた。
「だぁぁぁぁぁぁ!!!! うるせぇ! やってられっか!」
そう言ってラインは畳を蹴って蔀へと突っ込んで……
バンッ!
体当たりで開いてそのまま外へと出る!
「「若ッ!」」
慌てて追いかけようとする二人だが、すぐに見えなくなるライン。
溜息を吐いて部屋へ戻る二人。
「わかっていただけないのだろうか……」
サダカゲは悲しそうに俯く。
「全く……ガキじゃないんだから、やることやれっての!」
もっと辛辣なことを言うスエム。
それを聞いてほんわか姉さんのアミは困り顔になる。
「スエムも言い過ぎだよう……若が一番堪えているのにそこをわかってあげないと……」
「そんな言い訳が戦場で通じると思う?」
「むぅ……」
スエムの言葉にアミも困り顔だ。
「晶霊に頼り切るような相棒は三流と言われてるでしょ? トーノ様が非凡な晶霊だからこそ甘えが許されないのよ?」
スエムの言葉ももっともで、そもそもトーノはラインの父親ミツヨリを相棒としていた。
ミツヨリとトーノは晶霊将としての力も発揮して、都でも五本の指に入るほどの侍として君臨し続けたカマクラ団でも有数の剛の者である。
ラインは言わば、そういった優秀な人材の「能力」を受け継ぐことを期待されているのだ。
「現カマクラ団セーワ家の頭領の候補はモチトモ=オニム、ヨシュア=アクゲンタ、ヨシカナ=コマオ、そして、若の4人……」
この中で一番遅れを取っているのが晶霊将になれていないラインである。
しかもそれだけではない。
サダカゲは沈鬱な表情で唸る。
「トーノ様は相棒を変えるのだろうか……」
実はこの中で相棒を変えることが許されるのがトーノである。
他のメンバーは才能あふれる『人間の』若手である。
晶霊自身も若い晶霊で共に晶霊将としての才覚にも恵まれた。
だが、トーノは逆である。
トーノは元鎮守府将軍という実績があり、トーノが次期頭領の資格を持っており、相棒は誰でも良いのである。
こうなるとラインの方は「要らない」と判断されかねないのだ。
キンタが心配そうに唸る。
「若は頭領になるつもりは無いのかな……」
不安そうなキンタの頭をなでなでするアミ。
「だいじょうぶだよう。若はきっと立ち上がってくれるよ」
「そうだと良いけど……」
アミの根拠のない言葉にスエムは不安そうにぼやいた。
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