第203話 親心、女心


 まあ、結局のところ、話し自体は簡単だった。

 アントの説明にあきれ顔で答えるオト。


「要はあたしが晶霊将じゃないのが親として不憫だったってことね」

「当たり前じゃ。いくら軍師と言えど、部下二人が先に晶霊将になったのだぞ?」


 仏頂面になるアントだが、微妙に刀和や瞬に目を向けない。

 刀和や瞬も原因が自分とわかったので困り顔で目をそらす。


 アントもツツカワ親王の配下に晶霊将が増えるのはありがたいと思っている。

 だが、自分の娘の配下に付けておいた晶霊士二人がそのまま副将的立場になったのだ。

 これは気持ちの良い話では無い。


「それで晶霊士を二人見つけてきたのだよ」

「……まあ、ありがと」


 困り顔になりつつも親の対応に感謝するオト。


「久しぶりに会ったけど、オトも大変ね……」


 そう言ってサツキが苦笑する。

 サツキは吊目をした気の強い少女に見えるがその通りの性格をしている。

 少々どころでなく我が強く、生真面目に押し通すタイプだ。


「サツキも久しぶり! どうしたの急にこっちに来て?」

「色々あってさ……」


 そう言って遠い目をするサツキ。

 それを見て訝しむオト。


「何かあったの?」

「ソーマ家が滅んじゃったの……」

「……えっ?」


 それを聞いて凍り付くオト。

 悔しそうに涙を浮かべながら語るサツキ。


「ミドー家のトーセイって奴が言いがかりをつけて攻めてきて……あっという間にやられちゃった」

「そんな……」


 何とも言えない顔になるオト。

 すると、傍に居た端正な顔立ちの男の子が声を上げる。


「私たちが救援に伺ったのですが、なすすべもなく返り討ちに遭い、援軍を失いました」


 そう言って唇を噛む綺麗な顔の男の子。

 まるで女と見紛うばかりの端正な顔立ちで、オトもちょっと顔が赤くなってしまった。

 何かを期待するように尋ねるオト。


「その子は?」

「カマクラ団セーワ家のシャナオ=セーワ様。私をここまで送ってくれたの」


 そう言ってちょっとだけ顔を赤らめるサツキ。

 それをジト目で見るオト。

 そっとサツキに顔を近づけて小声で話し始めるオト。


(一族滅ぼされたのにやけに明るいと思ったら、そういうカラクリかてめぇ?)

(だって……他に頼れる人いないし……もう、お嫁さんに行くしかないし……)


 そう言って恥ずかしそうに人差し指をちょんちょんするサツキ。

 サツキにしてみると、故郷の家も大事だが、今はまず生活基盤である。

 嘆いていても御飯は食べられない。

 ドライなように感じるが、これも生きるために大事なのだ。


(再興しようと思ってもお婿さんが居ないと駄目じゃん? だからそのぉ……なるべく長旅になって、尚且つ客将として雇ってくれそうなところって言ったらオトの所しか思い浮かばなかったし……)


 困り顔で答えるサツキ。

 この時代の武士は客将と言って他家で食い扶持を貰って指揮官として働く雇われ管理職もある。

 そうでなくても晶霊士であるサツキなら雇ってくれるところも多い。


(つまり、長旅であわよくばあのイケメン君とねんごろになろうと画策して、それがだめでも私のところで雇ってもらえそうだからここに来たってことか?)

(ごめん……)


 半泣きになりながら手を合わせるサツキ。

 打算が多すぎと言いたいところだが、この世界はこれぐらいしぶとくないとやっていけない。

 オトは半眼で尋ねる。


(で、結果は?)

(もう少し胸があれば良かったのかなぁ……)

 

 そう言って自分の薄っぺらい胸を見るサツキ。

 オトも自分の平原のような胸を見て、端正な顔のシャナオを見る。

 丁度、瞬に自己紹介しているところだった。


「わたくし! シャナオ=セーワと言います! よろしくお願いします!」

「あ、はい! よろしくお願いします!」


 明らかに先ほどよりも気合の入った自己紹介をしており、ちらりと瞬の大きな胸へと目が行っていることをオトもサツキも見逃さなかった。


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


 悲しい目で自身の胸を見る二人。


「シュンの乳肉とってつけられないかなぁ?」

「やるなら一緒にやろ?」

「それってとった後、絶対分け前渡さないつもりだろ?」


 互いに睨み合う二人であった。



登場人物紹介


サツキ=ソーマ


 第一章から『結局こいつなんなんだ?』と思われた方も多いが、ようやく本筋で合流しました。

 名前の由来は滝夜叉姫。

 平安時代と言えば将門公の由来は欠かせない!

 実際の五月姫は普通に尼さんとして生涯過ごしたらしいです。

 疑心暗鬼を生ずと言いますが、呪いを感じていたのはやましいところがあった証左だと思う。


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