第202話 新たな仲間


 慌てて下に降りたウス上皇とツツカワ親王だったが、幸いにも西海から来た一団と言うのは大した話では無かった。


「拝謁頂き嬉しゅうございます」


 そう言ってリューグ郡司アントがウス上皇に拝礼を行う。

 西海から来た一団はアント郡司の連れてきた小団だった。


「わたしもそちに会えてうれしい。甥御が世話になったそうだな」

「とんでもございませぬ。わたくしは臣下として当然のことをしたまででございます」


 そう言って社交辞令をかわす二人。

 しばしの間、雑談をかわす。


 例によってオトが最前列で瞬とひそひそ話す。


(どうしたの急に?)

(いや、あたしも何も聞いてないんだけど……)


 そう言って困った顔になるオト。


(けど?)

(多分だけど、あそこにいるサツキが理由だと思う)


 そう言って小さく指をさすオト。

 その先には一団の中に居る一人の少女を指していた。


 少女は釣り目の険しい顔つきをした少女で明らかにキツイ性格の少女である。

 顔立ちは綺麗なのだが、どちらかと言えば厳しい委員長タイプだろう。


(……あんな子、太宰府に居たっけ?)

(居るわけないよ。関東に居るはずの子だもん)

(関東?)


 ここで言う関東とは、このヨルノース皇国の関東地方で、平たく言えば『関より東』という意味である。

 元々は異民族が住んでいた地域だけあって辺境で、ライン達が居たのもそこである。


(そんな子といつ知り合ったのよ?)

(ほら、前に言ったじゃん? あたいが皇都の武闘会に行ってコテンパンにされた話)

(あーあったわね。そんな話)

(その時に同じようにコテンパンにされてた子)

(……やられた者同士仲良くなったのね)

(そういうこと)


 当時はトヨタマの相棒としてついて行ったオトだが、マカベと言う晶霊にボコボコにされて終わったのだ。


(一緒に練習して再戦を誓いあった仲なんだ)

(へぇー……じゃあ、オトと試合しに来たってこと?)

(ううん。マカベを闇討ちして負かしてやろうって誓い合った)

(……正々堂々と戦おうという発想は無かったの?)


 呆れかえる瞬だが、平然とオトは返す。


(問題は結局ヨミが倒しちゃったから、その約束が宙ぶらりんなんだよな)

(永遠に宙ぶらりんにしときなさい)


 こそこそ話していた二人だが、ウス上皇も本題に入り始めた。


「それで、今日は何の御用ですかな? ツツカワも来た理由をご存じないようですが?」

「おお、そうでございました! 本日来たのはお願いに参ったのです」

「お願い?」


 訝しむウス上皇だが、アントは説明する。


「こちらに居る晶霊は皆、ツツカワ様の臣下……と言うよりも我が娘オトの配下に入りたい者たちです。これより、オトの配下として入ることを許可していただきたいのです」


 アントの言葉に思わず目を丸くするオト。


(全っ然、話しを聞いてないんだけど?)

(いつも頭の上で私らの意見聞かずに話が進むのよねぇ……)


 ぼやく瞬だが、これも仕方が無いのだ。

 人権とか労働者の権利とかそういった概念自体が存在しない時代である。

 下の者の意見は全くと言って良いほど聞いてくれない。


 流石に困り顔になるウス上皇。

 自分と全然関係が無かったのだからしょうがない。

 それから、二騎ばかりの晶霊士が増えた所で大きな問題も無い。


「ふむ……では続きはツツカワの方としてもらいますか? ツツカワ?」

「承知しました」


 ツツカワは苦笑してアントと共に外へと向かった。


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