第176話 勝利
刀和はヨミのお腹の中で嬉しそうに笑っていた。
「僕も目覚めたんだね……」
『そういうことだ。お前のお陰だな♪』
ヨミも嬉しそうな声で腹話を返す。
刀和は汗だくにはなっていたが、やり遂げた感で一杯だった。
(ようやく一人前になれたんだ……)
嬉しさのあまりに思わず涙が出そうになる。
するとヨミの隣に一騎の晶霊が現れた。
『おめでとうトワ=ヨミ。見事に能力を開花したね』
龍の兜を被った紅い服の女晶霊が優しい声で言った。
するとヨミは訝し気な顔になった。
『だれだぁ?』
『キイツ=バンポ―と言います。今後ともヨロシク』
『そりゃどうも。あんたがキイツ=バンポ―だな。刀和が世話になった』
『いえいえ』
ぶっきらぼうに挨拶を返すヨミと快く返すバンポ―。
(うん?)
その対応に訝しく眉を顰める刀和。
(ヨミは彼のことを知ってるんじゃないの? でも、『知らない』とも言ってたっけ? どういうことだ?)
不思議そうにする刀和だが、反対の隣に何かがにゅるっと現れた。
『このショマダレが。まだ生きておったか』
『あんたこそまだ生きてたのかよ糞ババア』
『貴様に言われとう無いわい! この糞ジジイが!』
ビシィ!
ヨミの後頭部に龍の尻尾の一撃を食らう。
そのやり取りを見て刀和は驚く。
(龍? 龍まで居るんだ……)
刀和が不思議そうな顔をしている。
その龍はにやりと笑う。
『刀和もそこに居るんだろ? あとで話がある』
それを聞いてキョトンとする刀和。
「どういうこと?」
『後で説明する。今は向こうの連中だ』
ヨミはそう言って二人の謎の晶霊を睨み付けた。
『『…………』』
二人の晶霊はこれ以上無理と判断したのか、騎馬武者の馬に二人乗りした。
すると、龍がにゅるんと前に出た!
『逃がすか!』
そう言って口を大きく開くと中から光輝くアウルが出てきた。
出てきたのだが、すぐにその前にヨミが剣で制した。
慌てて口を閉じる龍。
『何だい!』
『アレを見ろ!』
ヨミが逃げようとする二人の後ろを指す。
そこに居たのは前に見たクラゲ晶霊だった。
『はぁい♪ お久しぶり♪』
そう言って投げキスをするクラゲ晶霊。
それを見た龍が顔を顰める。
『アイツも居るのかい?…………めんどくさいねぇ……』
嫌そうに顔を顰める龍だが、同じように嫌そうに顔をしかめたヨミが訂正した。
『一応、別人だよ。ただ、似たような性格してんのと、俺と刀和に懸想してる所は同じだ』
『一番似てほしくない所が似たんだねぇ……』
呆れかえる龍。
(うん? 何だ今のやり取り?)
明らかに違和感があったのだが、それが何なのかよくわからない刀和。
クラゲ晶霊は嬉しそうにお腹から一人の女性を出す。
『どう?どう?可愛いっしょ? 二人ともこっちにおいでよ! この子は君を絶対に大事にしてくれるし、私もヨミをい~~~ぱい!愛しちゃうからきっとたのしいよ!』
そう言って自身の相棒を見せつけるのだが……
「なんだろ?あの変な化粧?」
『やっぱ人間の目で見ても変なんだな?』
「子供がやった落書きみたいになってる」
明らかに化粧に失敗しているのだが、本人は自信満々に胸を張っている。
だが、そんなクラゲ晶霊の頭を謎の晶霊が小突いた。
『馬鹿なことやってないで早く帰るよ』
『ぶぅ!』
嫌そうに化粧に失敗した女性をお腹に入れて手を掲げるクラゲ晶霊。
ブオン
以前の時と同じようにワープホールが出来上がる。
二人が先に入るとクラゲ晶霊はヨミを指さして叫んだ。
『今日は時間が無いから帰るけど、絶対モノにしてやるんだから!』
そう言ってワープホールに入って消える。
『ふう……そういうのは、いらねーっての』
ようやく訪れた静けさに安堵したヨミの肩を龍が叩いた。
『モテるショマダレは辛いねぇ』
『もうショマダレは止めろよ』
ニヤニヤ笑う龍に対して少しだけ嫌そうにヨミはぼやいた。
こうして、トサ国を脅かす謎の化け物退治はおわった。
色んな問題は残ったが……
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