第141話 南海出兵
ナイシノスが西海太宰に来てから一か月後
刀和達はツツカワ親王の付き添いである場所へと向かって行った。
ズシン……ズシン……
総勢で50騎前後の晶霊たちがある場所へ向かって歩いている。
この数の晶霊が歩いているのは中々圧巻だが、今回は別に戦いに行くわけでは無い。
歩きながらヨミは嫌そうにぼやく。
『どうせ遠出するなら派手にドンパチやりたかったぜ……』
嫌そうにぼやくヨミだが、隣にいるナイシノスがニヤニヤと笑う。
『あらそうなの? 早く言ってくれれば私が夜にドンパチしてあげるのに? 』
『そんなにドタバタした合体は嫌だ』
ジト目でナイシノスを睨むヨミ。
その横に居るトーノも苦笑する。
『武士たるもの、民を守るのも仕事だ。都市の復興も立派な仕事だぞ?』
実は今回の遠征は復興支援が目的だったりする。
読者の方々も忘れていると思うが、南海のイヨ国は第一章のボスだった海賊スミトに襲われて壊滅状態なのだ。
南海太宰の要請を受けてツツカワ親王が直臣50騎を連れてイヨ国へと向かっている。
同じ武士でも得意不得意があるように、戦だけが取り柄のヨミにはめんどくさい仕事である。
そんな三騎の様子を数歩遅れてアカシ、トヨタマ、タマヨリ、フキアエズが並んで話をしている。
『おっさんたちは呑気なものですわ』
『本当。いい気なもんだねぇ……』
タマヨリとフキアエズが口々にぼやく。
二騎とも下働きが多いので戦場の花にならない分、割に合わない仕事を回されている。
一方で微妙な顔になっているのがアカシとトヨタマの幹部組である。
『良い気なもんねぇ……こっちは胃に穴が開きそうなのに……』
『本当よねぇ……』
二騎の顔が暗くなるのも仕方がない。
何しろ南海太宰は『訳アリ』の人物だからだ。
二人の肩に座って瞬とオトが話している。
「……元『神皇』?……上皇陛下ってこと? 」
「そういうこと……だから今回の出兵は普通で終わらないよ……」
苦々しい顔のオト。
「ツツカワ殿下のお話によると、元々ウス上皇自体は善政を敷こうとしたらしいんだけどね。タカツカサとコノエの良家が好き放題やってたんまり稼いだらしいよ……」
「善政を敷こうとする王様と汚職をやりたい大臣かぁ……」
わかりやすい構図に嫌な顔をする瞬。
オトは話を続ける。
「結局、あらゆるツケだけを払わされて辞める羽目になった神皇陛下でね。朝廷に対して相当恨みに思ってるみたいよ? だから今上神皇の9男とはいえ、ツツカワ親王に救援を求めたのは何か意味があるのかもしれない」
「ややこしいわねぇ……」
自分を追い出した神皇の息子に救援を呼び掛けするのだから、気持ちのいい話ではない。
何らかの陰謀が隠れていると思った方が良い。
瞬は困り顔で辺りを見渡す。
全員がツツカワ親王の直属の軍だが、この軍には一つだけ問題がある。
(全員が陰謀とは無縁のタイプなのよねぇ……)
陰湿な人間が居ないのはありがたいが、それは陰謀が下手と言っているようなものだ。
こちらから仕掛けないにしても、陰謀を避けるぐらいの知恵が回るタイプが居て欲しい所である。
瞬は故郷の仲間を思い浮かべる。
(陰謀とか強いのは圭人かな? あと、英吾もトリッキーなタイプだし……)
かつての友人で一番クレバーだった圭人は口が達者で人を騙すのを得意としていた。
特にギャンブルなどで騙すのを得意としており、人を騙すことに特化していた。
瞬達のグループは先生に目をつけられていたりしたが、彼だけはそこから対象外だった。
(英吾は先生からの陰湿ないじめを払いのけていたし……)
父親が自衛官の英吾は先生の目の敵にされており、散々虐められたが、それでもさらっと払いのけていた。
(特に『人の心』を動かすのに長けてたわね……奮い立たせたり、逆にプライドへし折ったり……)
そのせいで上級生からも目をつけられるほどの悪ガキではあったが不思議と憎めない性格だった。
(……意外と刀和は陰湿な手段には強いのよねぇ……)
瞬が思い出すのは自分がクラスでハブられていた時の事だった。
サッカー部のイケメン君と野球部の主将の告白を断ったのが原因で『調子に乗っている』とハブられたのだが……
(……主犯を見つけて厳しく言いつけたみたいなのよね……)
それがきっかけでいじめは自然消滅したのだが、その時のことは今でも覚えている。
(せっちゃんよりも仲良くやってのに……
一緒に水泳部で頑張った仲間を思い出す瞬。
もっともこの事件が原因で転校していったのだが。
(イケメン君が好きだったからそんな真似したって聞いたけど……)
真実は闇の中へと消えてしまったのでわからないし、イチイチこだわるほど瞬は陰湿ではない。
だが、顔には出ていたようだ。
「大丈夫だって! 何とかなるって! 」
軽い声で笑うオト。
それを聞いて瞬も笑う。
「ま、大丈夫でしょ? 」
「そうだよ! 問題ないって! 」
そう言ってから元気を出す二人だった。
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