第124話 礼儀作法
その頃、刀和は何をしていたのか?
「うーん……」
ぐにょぐにょ
身体を色々と動かしてこんがらがっている。
小柄で太っている刀和は見た目通り運動神経があまり良くない。
そのせいで言われた通りに体を動かそうとしているのだが、何故か無意味に空中で一回転してしまう。
無重力故に足場が無いに等しいので扱いが難しいのだ。
いつもの琥珀色の
それを見ているのは野性的な顔立ちの精悍な青年で名をラインと言う。
最近、刀和と仲良くしている友人で、彼自身は『北面武士』と呼ばれる皇族の近衛師団にも所属していたほどの男で、この西海太宰府でも有数の侍である。
彼は家紋の付いた
そんな彼がいつもの猛々しい顔を困り顔に変えていた。
「そんな調子で朝廷に入ったらどうすんだよ? 」
どう教えようか迷っているレベルだった。
ラインはふわりと宙に泳ぐとゆっくりと畳すれすれを泳ぎ始めてそのまま土下座の姿勢になる。
「神皇陛下にお会いする際にはこうやって礼をする。それが陛下に対するもっとも一般的な礼だから」
「う、うん……」
そう言って同じように低空を泳ごうとする刀和だが……
トン……トン……
たびたび畳に手を付いて泳ぎ、そのまま土下座に入ろうとして……
クルン♪
前転してしまう。
それを見て深いため息を吐くライン。
今やっているのは宮廷作法の手習いである。
今も昔も礼儀作法は色々ややこしい。
単純な所作だけでなく、着て良い服とダメな服があるのだ。
刀和は武官に当たるので文官よりはルーズだが、それでも色々細かい作法はある。
刀和は仏頂面で答える。
「ねえ、僕は武官だから難しいことは親王殿下たちがやれば良いんじゃ……」
「ダメだって! お前は『黄衣の剣士ヨミ』の相棒だぞ? 絶対に神皇陛下からも呼ばれるから! 最低限の礼儀を知らないとまずいって! 」
刀和がこうやって礼儀作法を覚えようとするのにも訳があり、ツツカワ親王が近々任期を終えて皇都ヤオエへ戻ることが決まったのだ。
その際に瞬と刀和、オトの三人がツツカワ親王の『直臣』として入ることになった。
要約すると、今までは『オトの部下』として太宰府で活動していたのが、これからは『ツツカワ親王の部下』 になる。
どう違うのかと言われれば、ツツカワ親王の部下になるとツツカワ親王と共に歩むことになるのだ。
もっとも、刀和だけでなく、他に数名が直臣となることが決まり、ツツカワ親王はそれらと共に皇都へ戻ることになる。
ラインが困り顔のままザンバラ髪をかきながら言った。
「そんなことじゃ先が思いやられるぞ? 向こうで恥をかくぞ? 」
「そういうラインの方こそどうなんだよ? もうすぐ皇都ヤオエに行くんだろ?」
「俺は元々向こうに居たから全部覚えてるの! 」
「うぐ……」
言い返す方法が無くて言葉に詰まる刀和。
実はラインの方は別口で皇都に戻ることが決まっている。
北面武士の父親から戻るように通達が来ていたのだ。
ところが、ラインの付き人である髭面強面の青年サダカゲが厳しい顔になる。
「若も人のことは言えませんぞ? 散々父上に叱られたでしょうが? 」
「うぐ……」
どうやら彼も見た目通り礼儀作法は苦手のようだ。
サダカゲはふぅっとため息一つ。
「とはいえ、一息付けましょう。こうやっていても上手くはなりませぬ」
「はい……」
しょぼんとして刀和は目の前の巻物を見る。
宮廷の礼儀作法が書いてある巻物で一つ一つを読んでいく。
(本当に小難しいよなぁ……)
細かい作法に悩む刀和。
すると、一つだけ妙な文言に気が付いた。
(うん? 『スード』? )
スードという礼儀作法について書かれてあるのだが……今一つよくわからなかった。
(ええと……スードは良き戦友となりうる友同士でやることであり、これを行うことで再会を誓うものである)
と書かれてあり、それ以上に細かいことは書かれていない。
(なんだろこれ? )
他にも読んでいくが今一つわからないので首を傾げる刀和。
しょうがないので刀和は尋ねてみることにした。
「すんません。このスードってのは何ですか? 」
それを聞いてサダカゲは少しだけ嬉しそうな顔になり、ラインもちょっと嬉しそうになる。
「おっ? トワもスードをやってみたくなったのか? 」
「うーん……まあ、そんなところかな? 」
「ふむ……では次はスードを教えましょうか? 」
「お願いします」
そう言って礼儀作法の授業が再開した。
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