第120話 落ち武者
一方、その東国フサ国では……
『はぁ……はぁ……』
「大丈夫かタキヤシャ! 」
満身創痍の角の生えた晶霊に必死で語り掛けるサツキ。
語り掛けるサツキ自身もかなり負傷している。
『何とか……逃げ切れたわね……』
「ああ! だからゆっくり休め! 」
二人は先ほどまでソーマの町を守るために必死で戦っていた。
だが、敵のあまりの多さになすすべもなくやられてしまった。
何とか逃げ切れたのだが、もはや満身創痍ですぐには動けない。
徐々に息が落ち着くタキヤシャ。
『一体……どうしてあれだけの数を用意したのか……』
タキヤシャが愚痴るのも無理からぬことで圧倒的な数の晶霊になすすべも無かったのだ。
しかもそれだけではない。
サツキも恐ろし気に身を震わせる。
「一体どんな方法使えば……あれだけの数の晶霊将を集めることが出来るんだ? 」
『わからない……何が起きてるのかわからない……』
疲れ切って頭に血が行かない二人。
「……気弾の一斉発射……しかもあの威力から察するに……」
『全員が拡張型の晶霊将ね……』
通常、気弾はパンチ一発程度の攻撃力である。
それが身体を貫通させるほどの威力を持っていた。
それだけの攻撃力を持つのは晶霊将だけでしかない。
その晶霊将が百体近く攻めてきたのだ。
拠点を取り囲み、一方的に長距離からの十字砲火。
「一体どんな方法を使えば……」
そんなことを二人が言っていると声が聞こえた。
『居たぞ! タキヤシャ姫だ! 』
『くそ! 敵か! 』
すぐにサツキをお腹に入れて飛び出そうとするタキヤシャだが、晶霊がすぐさま叫ぶ!
『違います! 味方です! 落ち着いてください! 』
そう言われて上がりかけていたタキヤシャの腰が落ちる。
こう見えてギリギリなのだ。
見つけた晶霊は若武者のようで綺麗な顔をした晶霊だったが貝や亀の甲羅を繋ぎ合わせた鎧を身に着けている。
この世界において鎧を着けるのは相当な高位の晶霊以外では無理だ。
『私はカマクラ団の者です。マサド殿よりの救援要請に従ってはせ参じました』
『良かった……』
ほっとするタキヤシャ。
若武者は落ち着けるように言った。
『私はウシワカと言います。カマクラ団の頭領のご子息シャナオ様の相棒で頭領サデン様の命でお助けにあがりました』
『助かった……』
安堵してそのまま倒れてしまうタキヤシャ。
それを見て慌てる牛若。
『タキヤシャ様! 』
だが、サツキ姫は冷静にタキヤシャの脈を取ったりする。
「……大丈夫。寝てるだけだ」
『良かった……』
ほっとして気が抜けたのだろう。
ウシワカのお腹から一人の少年が出てきた。
こちらもウシワカ同様に綺麗な顔をした少年で男でもはっとさせるほどの美貌であった。
「ご無事ですかサツキ姫! 」
少年がサツキ姫の元へと泳いで向かってきた。
それ見てちょっとだけ眉を顰めるサツキ姫。
(……こんなひどい顔の時に来なくても……)
いきなり現れた美少年にこんな状態でもドギマギするサツキ姫。
今のサツキはボロボロであまり見られたくない姿だ。
とりあえず、そんな気持ちを悟られないように冷静に答えたサツキ姫。
「私はだいひょうふです」
「……サツキ姫? 」
「か、噛んだだけです! 大丈夫です! 」
「それは重畳」
ほっとする少年。
そして、しばしの間沈黙が訪れる。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
(な、なんか話さないと! )
何とか話そうと気になっていた事を聞くサツキ姫。
「救援部隊がもう来ているんですね? 」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それを聞いて黙り込む少年。
それを見て沈痛な面持ちで答えるウシワカ。
『実は……救援に向かった小団は全滅しました……』
「……えっ? 」
言われたことが理解できずに呆けてしまうサツキ姫。
カマクラ団と言えばここらでは最強の武士団である。
マサドもここだけは喧嘩したがらず、良好な関係を築いていた。
そのカマクラ団がなすすべもなくやられたのだ。
それぐらい彼らは強かった。
「生き残ったのは……僕とウシワカだけです」
泣きそうな顔で天を見上げて呻く少年。
「やつらは一体何者なんですか? 」
その言葉に答える者は居なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます