第104話 モブでも強い


 一方で屋敷の外では戦闘が始まっていた。


ザシュッ! キィン! ブシャァ!


 あちこちで血煙が舞う乱戦になる。


 屋敷は曲輪作り故にいくつかの陣地に分かれているが、ヨミとトーノとシマンで1チーム、スエムは斜面を上へと移動して弓で支援しており、残りで1チームとして戦っていたのだが……一方的な展開になっている。



『なんだこいつら! 』『強い! 強すぎる! 』『こっちに来たぁ! 』


 6倍近い晶霊が居るのに逃げまどうウマカイ兵。

 それもそのはずでこちらの8人はいずれも西海有数の実力者である。


 ヨミやトーノはアオウナバラ全域に名を轟かすほどの豪の者で、トーノの部下4人はトーノには劣るものの、東国で最強のカマクラ団セーワ家の精鋭である。


 トヨタマとタマヨリも彼らには劣るものの、近在でも名の知れた戦士だ。


 一見すると50対8はとても勝てないように見えるが、戦略というのはあくまで『大多数』になって意味を為すものである。


 どんなに強い戦士でも一人で千人は倒せないが、優れた戦士は一人で何騎も倒す。


 また、徐々に数が減っていく側と徐々に有利になっていく側とでは勢いが違う。


 古代の少人数での戦いは戦士の強さが戦の強さに直結した理由でもある。


『ほりゃぁ! 』


ザシュ!


 トーノが目の前の晶霊を一人倒すとヨミに叫んだ!


『どうだ! これで8騎目だ! そっちはどうだ! 』

『もう10騎倒してるよ』

『嘘つけ! ちゃんと数えてた! お前はまだ5騎しか倒してない! 』

『何さらっと減らしてんだよ! ちゃんと7騎倒したわ! 』

『お前も嘘ついてたじゃねえか! 』


 軽口叩きながら戦う二人。

 すでにそこまで減らしているのでウマカイ側は敗色濃厚になりつつある。

 すると、口げんかする二人の後ろに急に晶霊が現れた。


ピュスン


『ぐげぇ! 』


 こっそりトーノの後ろにまわろうとした晶霊が矢で喉を撃ち抜かれる。


 ブギュル!


『ごがぁ……』


 同じように後ろから襲おうとした晶霊が胸から大鎌の刃を生えさせて絶命した。


 矢を放ったのはスエム=ウブメで大鎌を振るったのはサダカゲ=シマンである。


 スエムはちょっと小高い山の塙から弓矢で狙い撃ちをしている。

 サダカゲはヨミとトーノの後ろを守っている。


『御二方とも。後ろを狙われがちですよ? 』

『ちゃんと気を配ってるから大丈夫だよ! 』

『相変わらずおっかねぇなぁ! 』 


 むっと返すトーノと陽気に首を竦めるヨミ。

 トーノが言い返す。


『あっちを手伝った方が良いんじゃないか? 』

『あっちはゲンジツナとカイドウマルの二人がついてますから大丈夫です』


 見ればあちらの方はトヨタマとタマヨリが前に出て後ろを二人が守っている。


スパン!


 ゲンジツナの刀が一閃されるとそれだけで晶霊の首が飛ぶ。

 一方でカイドウマルはと言えばデカい斧を振り回すだけの戦い方だが、ひとたび当たれば武器ごと破壊されて胴が二つに分かれる程だ。


『ふぉぉぉぉ!!! さっさとかかってこい! 』


 危ない奴にしか見えないので、必然的に誰も近寄らない。

 一方でトヨタマとタマヨリの二人は一人の晶霊を追いかけている。


『待てウルメ! ブス呼ばわりしたことを後悔させてやる! 』

『ウルメ! お姉さまに手を出した罪を償いなさい! 』


 必死で追いかけるのだが、残念ながらこの中では最弱に当たる二人である。

 ウマカイ兵も二人の方が組みしやすいと気づき、集中攻撃をしている。


 ちなみにヨミとトーノは全員が遠巻きにしているので中々戦わせてもらえない。

 ヨミの中で刀和が不思議そうにする。


(この前と違って向こうは慎重だね? )

(正規兵だから当たり前だ。海賊は失うものが無いから攻めに特化してるが、こいつらは守りに特化してる。強い敵とは無理に戦おうとしない)


 俗にマフィアなどの犯罪組織が弱いのはこの辺にある。

 羊の中で暴れているから強く見えるだけで、狼同士の戦いには弱いのだ。

 真の強者と戦えばすぐにぼろが出る。


 ヨミは辺りの様子を窺う。


『もう勝ちは決まってるな……』


 敵は逃げまどうばかりでヨミ達を倒せない。

 すでに半数以下に減っており、無理に戦わなくても逃げ出している。

 どう考えても勝てると判断した所でヨミはあるものが目に入った。


『やべ……』


 アカシが単騎で奥へと進んでしまい、後ろから攻撃されていた。


『うぐぅ! はぁ……はぁ……』


 辛そうに傷を庇いながら奥へと向かうアカシ。

 見れば手に一人の男を掴んでいる。


『シュンはどこ! 』

「あ、あの建物の奥です! 」

『奥? 』

「はい! 崖に横穴を掘って牢屋にしてます! 」

『わかったわ! 』

 

 そう言って男を放り捨てて建物の前に来たアカシは……


グシャァ!


 建物を壊し始めた。

 ヨミは呆れて呟く。


(無茶苦茶やるなぁ……)

(そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 早く助けに行こう! )

(へいへい)


 刀和に言われて、ヨミは慌ててアカシの救援に向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る