第97話 共謀


『ふむ……けったいな話だな……』


 ラインから一部始終を聞いて、不思議そうにヨミが白い髭をしごきながら首を捻って悩んでいる。

 

『そんな真似を太宰府でするなんて……おかしくないか? 』


 トーノも不思議そうにシャチのようなダンディな顔に困惑の表情を浮かべている。

 だが、トヨタマが思い出したように説明する。


『ウルメはアカシにも言い寄ってたから、それもあるんじゃない? 』


 それを聞いて全員が納得した。

 

 ヒロツグが瞬に

 ウルメがアカシに


 それぞれ横恋慕していたのだ。

 そしてどっちも振られていた。


 ラインが飽きれながらも頼む。


「トーノも頼む。あいつらの本拠なら常時30騎程度だ。トーノとヨミが行けばどうにかなるレベルだと思う」

『まあなぁ……』

『俺は良いぞ。刀和の事だからどうせ行きたいんだろ? 』

「うん。確かに行きたいからありがたいんだけど良いの? 」


 ヨミのあっさりした口調に少し不思議に感じる刀和。


(ありがたいのはありがたいんだけど……)


 ヨミの対応に不可思議なものを感じる刀和。


 初めて会ったときからそうなのだが、やけに刀和の事を良く知っているのだ。

 何かとごく自然に刀和に合わせてくれるし、 その上、瞬ともしっかり合わせてくる。


(なんか遥か昔からの旧友みたいな態度なんだよなぁ……)


 それが嫌なわけでは無いし、むしろありがたいと言える。

 だが、明らかに不自然なのだ。

 そして、同じように不自然さを感じる男が居た。


『おめぇ変わったなぁ……前は『面倒くせぇから行かねー』って言ってたのに……』

 

 旧知の友? でもあるトーノも不思議そうにしている。

 だが、ヨミは飄々と答える。


『お前らが勝手に出撃しただけだろ? 』

『まあ、そうなんだが……』


 イマイチ納得しかねるトーノ。

 刀和はラインに尋ねる。


(こういうことって結構多いの? )

(トーノの話じゃ、よくやってたみたいだな。前の相棒と一緒にどこそこの盗賊を倒したとかやってたらしいぞ? )

(そうなんだ……)


 二人のひそひそ話を聞いてヨミが答える。


『都じゃ何やるにしてもチンタラしてるからなぁ……盗賊一人倒すのに被害が拡大してても、チンタラ会議ばっかりしてたんだよ。呆れてこいつらが先に行ってとっとと倒したってわけさ』

『北面武士として都を荒らす不届き物は許せんからなぁ……』


 いつの時代もやらなければいけないことを後回しにするのが政治家である。

 とはいえ、簡単に決められないことが多いのも事実である。


 一見、簡単に見えて実際にやるとなると色々なしがらみで身動きが取れないことを多々あるのだ。


 ちなみに北面武士とは神皇直轄の近衛部隊である。

 トーノはラインに尋ねる。


『ヒムカのウマカイってのはどの程度なんだ? 』

「豪族としては大きな豪族で最大で二百騎近い軍を出したこともある。だから町を守るのは20~30騎程度だろう」 


 兵力の換算は晶霊の人口と関係する。

 大体だが、最大兵力は晶霊の25%ほどが出せる限界で、常時兵力はその半分。

 さらにその半分以上は領内をパトロールしているので普段は一割の20騎前後の兵力しか居ない。


 丁度リューグは最大兵力の一割の五人が町を守っていたのと一緒である。

 とはいえ、町の大きさにも比例するので単純な比較はできないのだが。


『20騎か……俺とヨミにお前達四人居ればなんとなるかぁ? 』


 ちょっとだけ自信が無いトーノ。

 とはいえ、何とかなるとは思っているようだ。

 実は刀和もそんな風に考えていた。


(この前の時はあっという間に四〇騎以上切ってた……)


 その気になればヨミ一騎でもどうにかできるのだろうがそこは戦争である。

 最小兵力で倒せるからと言ってそれに頼るようではアホとしか言いようがない。

 一騎当千を揃えれば少ない人数の最小コストで戦えるからお得♪ は馬鹿な司令官の考えである。


 ここでトヨタマが言った。


『あたしも行っていいかしら? 』

「そう言ってくれると思ったよ。あたいも行くよ! 」

 

 意気揚々と答える二人。

 トヨタマがイラッとした声で言った。


『あのやろうは前に『アカシに比べてお前ブスだな』とか言ってたから一発かましたいの』

「あたしもヒロツグには散々『アバズレ』呼ばわりされたから殴りたいんだ」

 

 二人とも完全な私怨で言い放つ。

 とはいえ、この二人の事だから仲間を助けたいのが本心だろう。

 あきれ顔になるヨミ。


『そこら中に敵作る奴なんだなぁ……』

『寝取り王にだけは言われたくないと思うぞ? 』

『俺も種まき王にだけは言われたくねぇよ』


 さらっとディスるトーノに言い返すヨミであった。


 だが、全員気付いていなかったが、それを裏で聞いている者が居た。


「………………」


 アカシだった。

 アカシは低木の茂みに隠れて様子を窺っていた。

 アカシは何も言わずにそのまま体を翻して去っていった。


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