第96話 教唆とはそそのかすこと


「本当に大丈夫なの? 」


 刀和はラインの後ろを泳ぎながら尋ねる。


「勝手に出撃して怒られない? 」


 ラインの提案は『勝手に出撃して助けよう』だった。

 普通の軍隊であれば死罪は免れないだろう。


 勝手な行動は軍隊においては厳に許されない。

 下手にそれを許すと各々が勝手に動いて戦術も何もなくなるのだ。


 二人は協力を仰ぐために晶霊たちの修練場に向かって泳いでるのだが、それが軍規違反にならないかと心配しているのだ。


 だが、ラインは笑って答える。


「勝手に出撃しても勝てばいいのよ。勝てば」

「良いのかなぁ? 」


 さらっと無茶なことを言うラインだが、実は大昔はこれが当たり前だった。

 

 現代の軍隊では決して許されないが、大昔は勝てば官軍負ければ賊軍。

 また、通信もままならない昔は現場の指揮官にほぼ委ねる形になるので、大体の憶測で行動するしか無いのだ。

 

 命令通りに動かないのが当たり前なので必然的に後出しで命令することも多い。


 不安そうな刀和に陽気に答えるライン。


「じゃあ、普通に話し合いで帰ってくるのを待つか? その間に色々あってシュンが嫁に行っちゃうこともあるんだぞ? 」


 これも恐ろしい話だがある。

 無理矢理かどわかしておきながら「本人の希望」と言い張るのだ。

 いつの時代も自分勝手な奴は居るのだ。

 それを言われていらっとした顔になる刀和。


「やるよ! 絶対やるから! 」

「それでこそ刀和だ! 」


 嬉しそうに笑うラインだが、二人の後ろをついて行っている4人のお付きは微妙な顔だ。


「また、ライン様の悪い癖が出た……」

「変なところで義侠心出しますからねぇ……」

「おいらは構わないけどね」

「あんたは気楽でいいわねぇ……」


 愚痴りまくっていた。


(ゴメン。迷惑かけて……)


 心の中で謝る刀和。

 そうこうしている内に修練場に辿り着く5人。

 修練場に辿り着いた5人が見たのは……喧嘩しているダンディ中年と片腕の老人だった。


『てめぇのせいで合体出来なかったじゃねぇか! 』

『うるせぇ老いぼれ! ジジイが邪魔したせいで口説けなかったじゃねぇか! 』


 お互いを罵倒しながら竹刀でガンガン叩き合っていた。

 それを見て困り顔になる刀和。


「えーと……なんかゴメン……」

「いや、俺の方こそゴメン……」

「なんで? 」

「今ヨミとやり合ってるのは俺の相棒なんだ……」


 困り顔で答えるライン。

 そんな二人を止めに入るトヨタマ。


『あんたたち止めなさいよ! そんな下らない話で喧嘩しないでよ! 』

『下らねぇとは何だ! 俺にとっては生き甲斐なんだよ! 』

『だったら、さっさとやめて死ねよジジイ! 』

『なんだとてめぇ! 』


 次元の低い争いをする二騎だが、困ったことに二騎とも西海太宰府でも最上位の晶霊でもある。

 あまりに激しい戦の為、誰も止めることが出来ないで居た。


 それを見て刀和が怒鳴った。


「良いから二騎とも喧嘩は止めろ! 」


 その怒声にぴたりと動きが止まる二騎。

 こう見えて刀和の声は怒るとちょっとおっかない。


「大変なことになってるんだ! 喧嘩してる場合じゃない! 」

『『ごめん……』』


 どちらからともなく竹刀を納める二騎。


『なんだかんだ言ってトワは凄いわねえ……』


 感心するトヨタマ。

 すると、オトがいつものヒョウ柄の水干を揺らしながらひらひらと泳いでくる。


「どうしたんだ急に? さっきもなんか『ウルメを知らないか? 』って晶霊が探しに来たけど、なんかあったのか? 」


 怪訝そうに尋ねるオトに刀和がこそっと耳打ちする。


(瞬がウルメに攫われたんだ! )

「ええええええええええっ!!!??? 」


 オトが大声を上げるので全員が何事かと振り向く。

 すると他の晶霊たちも集り始めた。

 ラインが慌てて叫ぶ。


「まずい! 二騎とも一度離れるから付いてきてくれ! 」

『なんだぁ? 』

『なんかあったのか? 』


 不思議そうな二騎を手招きで呼び、一度離れて話すことにした。


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