第73話 武士のライン


 そして授業が終わり、一休みに入る。


「ふぇー……」


 変なため息を漏らす刀和。

 日頃は使わない頭を使うので大変なのだ。


「大丈夫ですか?トワ殿」

「あ、はい! 大丈夫です! 」


 隣の女生徒がにっこりと微笑む。

 それだけでなく、他の女生徒たちもふわふわと泳いで集まってきた。


「トワ様。ヨミ殿の相棒をなさるなんて強いんですね? 」

「凄いですわ。わたくしにも色々教えてくださいませ」

「あら? ずるいですわ。私が先に教えてもらう約束だったでしょう? 」

「こういったことは早い者勝ちですわ」

「あ、あのー……ちょっと困るんですけど……」


 刀和はと言えば、早い段階からハニートラップの話を聞いていたので素直に喜べるほどでは無かった。

 とはいえ、そこは男の子なので女の子にちやほやされるのは悪い気はしない。


 困り顔で瞬に助けの目配せをしてみるのだが……


(……超怒ってる! )


 後で理不尽なお仕置きが待ち受けているのに気づき、覚悟する刀和。

 すると声がかかった。


「なあ、トワ。ちょっと俺と勝負しねぇか? 」


ザワッ!


 女生徒の波がささっと分かれて一人の男が近付いてきた。

 野性的な見た目をしており、体もゴツイ体格をしている。


 狩衣を着ているが貴族と言うよりは侍のような見た目である。

 男はにやりと笑って名乗った。


「俺の名はライン。ライン=セーワだ。あのカマクラ団のセーワ家のもんだ」

(カマクラ団? セーワ家? )


 きょとんとする刀和。

 刀和はこの世界の現状はある程度わかったのだが、細かい家格などの問題はわからない。

 そういった腹芸が出来るような性格では無いのだ。

 一方でオトが嫌な顔をした。


「あいつがカマクラ団のライン=トーノか……」

「知っているのかオト? 」

「うむ」


 どこからともなく黒い学生帽っぽい物を被った瞬と同じくどこにあったのかナマズ髭を付けるオト。


「あれ? ここに置いたお盆とひじきが無い? 」


 不思議そうに首をかしげる女生徒が後ろに居るが気にせずに話を続ける二人。


「セーワ家は急速に勢力を増してきた家系で元は神皇の血を引く皇族なんだ」

「そうなの? 」

「うむ」


 ちなみに話している途中で口につけたヒジキが取れたので慌てて付けなおすオト。


「今はスミヨシ系のカマクラ団にくっつく形で晶霊の軍団を引っ張っている一族だから、バリバリの武闘派で知られている」

「じゃあ、戦闘に特化した武士家系なんだ? 」

「うむ」


 ちなみに瞬の方は帽子代わりのお盆がすぐに取れてフワフワするので手で押さえている。

 

「特にあのラインってのはセーワ家きっての暴れん坊でな。手の打ちようが無いから中央から追い出されて西海に来たんだ」

「げっ! じゃあ、たちが悪いんだ! 」

「そうだ」


 何度も取れるので諦めてヒジキを取るオトとお盆を外して元に戻す瞬。

 そうこうしているうちに向こうも話がまとまったようだ。


「はあ……どうも……」

「お前はヨミの相棒になったんだってなぁ? 」

「はあ……」

「どれぐらい強いか試してやるよ! おいお前ら! あれ持ってこい! 」

「「「「へい! 」」」」


 取り巻きらしき4人の男女が現れて何やら持ってきた。

 ついでに廊下までお盆を探しに行った女生徒がお盆とヒジキが戻っているのをみて首をかしげている。


 取り巻きが用意したのは変な取っ手が付いたお盆である。

 そこにどんっとラインが腕を乗せる。


「腕相撲しようぜ」


 ラインにそう言われて刀和は盛大に嫌な顔をした。


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