第64話 士は求められる所へ行く


 一方、その頃……


 酒に酔って寝ているヨミを起こそうと刀和が顔を叩く。


「起きろ! 起きろって! 」

『ぐごぉー! ぐごがぁぁぁぁ!!! 』


 恐ろしくうるさいいびきをかくヨミ。

 あまりのうるささに顔を顰める刀和。


「だーめだこりゃ……」


 するとトヨタマが笑って答える。


『ほっといても良いわよ。そのぐらいじゃ晶霊は風邪引かないわ』

「そうですね」

 

 諦めて辺りを見渡す刀和。


 太宰府の庭で行われた宴会はもう終わっており、全員が帰ったか、太宰府庁で寝ている。

 

 ここらあたりでは最も大きな拠点ゆえに太宰府だけでも100騎近い晶霊を休ませることが出来る。

 通常は50騎前後の晶霊が詰めているだけに太宰府は広く、晶霊用の寝床も他よりは広めである。

 トヨタマが言った。


『元々、ここに泊まる予定だったんだから別にいいわよ』


 実際、各国の有力者の晶霊もここで寝泊まりしているので迷惑なようには見えなかった。


(まあ、いっか……)


「それより、俺たちも休もうぜ。もうくたくただよ……」


 疲れた声のオト。

 今回の功労者だけに質問攻めにあっていた。

 西海の人々にとって刀和はよくわからない人間なので、必然的にオトへと話が集中する。

 だが、刀和にも全く話が無かったわけでは無い。


「そっちもなんか色んな話が来て困ってたじゃん」

「う~ん……まあねぇ……」


 渋い顔の刀和。


「何を話してたん? 」

「うちの娘をどう思いますかって……」

「早速引き抜きかぁ……」


 渋面になるオト。

 

 今の刀和は黄衣の剣士ヨミが求めていた『相棒』である。


 元々、強い上に相棒まで出来たら最強と言われていたヨミだけに、刀和ごと引き抜きたいという人ばかりだった。


『有名税よ。しばらくはあしらい方を学ぶことね』

「うーん……」


 困り顔の刀和。

 腹芸が苦手なのだ。


「ま、そのうち慣れるさ」


 気楽に言うオト。

 すると、ヨミが急に声を上げた。


『しょうがねぇなぁ……手伝ってやるよ……』


 ヨミが寝言でぼやいている。

 それを聞いて苦笑する刀和。


「何を手伝うんだよ? 」

『合体する口実でしょ? 』


 トヨタマの言葉を聞いて苦笑する刀和。

 残念ながらそんな風にしか聞こえない。


『お礼は後にしな。さっさと行くぞ……』

「どんな夢見てるんだよ……」


 苦笑する刀和。

 そして、あることを思い出す。


「そう言えば官位を与えるって言ってたけど、どういう意味だろ? 」


 現代人である刀和には官位の意味がぴんと来ないのだ。

 ところがオトも不思議そうな顔をした。


「簡単に言えばお上の仕事に就くって意味だけど……うちはすでにオヤジが太宰府に勤務してるし、あたいまで行くとリューグは誰が見るのかって話しになるんだけど……」

「……要するに? 」

「太宰府で軍人として働くことになると思うけど……リューグはどうするんだろ? 」


 空白地になってしまうので、どうするのかが問題になる。


(親父が知らないはずが無いし、何考えてるんだろ? )


 困り顔になるオト。

 刀和はちょっとだけ苦笑して、ヨミの方を見た。

 するとヨミはぼそっと呟いた。


『刀和……刀和……』


 目に涙を浮かべて刀和の名前を連呼するヨミ。

 刀和はその言葉で何となく察した。


(よくわかんないけど……僕が必要なんだな……)


 この世界に来て必要とされなかった男を彼だけが求めた。


(士は求められる所へ行く……か……)


 人は自分を必要とする者の所へ行く。

 それが、地獄のような場所であろうと、人は共に歩く者無しで生きられないのだ。


 刀和はすっと泳いでヨミの所へ行き、涙を拭ってやる。


「これからもよろしく」


 ヨミの寝顔は穏やかになり、すやすやと寝入った。


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