第14話 にじげんめのじゅぎょう


 オトのいやらしい笑みに寒気を感じる瞬。


「いやぁ……ちょっとお願いがあってさぁ……」


 揉み手しながらオトが言っていることに恐怖を感じた瞬。


「な、なにを……」

「実はちょっっっっとだけトワを借りたいんだぁ……」


 オトの言葉に訝しむ瞬だが、すぐに何のことか思い至った。

 考えてみれば、いくら亀を助けたとはいえ、優しすぎたのだ。

 裏があってもおかしくはない。


(人身売買とかもありうるんだ! )


 今更ながら治安の良さを考慮しなかったことを後悔する瞬。

 人が良すぎと思わなければいけなかったのだ。


(失敗した! )


 自身の警戒心の無さに後悔する瞬。

 そんな瞬にオトは顔を赤くしながら声を上げた。


「あのさ……チュラとトワがエッチするところを見せて欲しいんだ……」

「……………………………………………………へっ? 」

 

 思いもよらぬ提案にきょとんとする瞬。


(えっ? 人身売買とかではなく、エッチ? どういうこと? )


 訳がわからずに混乱していると、チュラが声を上げた。


「姫様。そのような言い方ではわかりませんよ。シュン様が困っております」

「ああ、そうだよなぁ……………………ええっとどうやって言えばいいんだろ? 」


 困り果てるオト。

 それに対して瞬は頭が混乱していた。


(なんでチュラさんと刀和がエッチを? ひょっとしてチュラさんが気に入っていたとか? )


 艶然と微笑むチュラさんを見て訝しむ瞬。


 年上とは言え、チュラさんは贔屓目で言っても美人だろう。

 成熟した女の魅力にあふれており、仕草の一つ一つに色気を感じる女性で、胸も大き目で体も柔らかそうな色っぽい感じの女性だ。


 そんなチュラさんが悪戯っぽく笑う。


「そんな変な意味では無いのです。シュン様は男女の営みはご存知ですか? 」

「そりゃまあ……………………知ってるけど……………………」


 最後の言葉がしりすぼみがちになる瞬。

 だが、チュラは微笑みながらさらに尋ねる。


「実際にしているところを見たことは? 」

「それも……………………一応あるけどぉ……………………」


 どんどん声が小さくなる瞬。

 実は友人の天沼と一緒にこっそりAVを見てた。

 すると、チュラが優しく言った。


「オト姫様はそれを見たことが無いのです」

「……………………ひょっとして性教育のために貸しだせってこと!? 」


 ようやく言われたことが分かる瞬。


 当り前だが、ビデオの無い時代では性教育はどうやっていたか?


 平たく言うと近所の草むらでやっているところを見せていたのだ。


 では、貴族になるとどうやっていたか?


 実は乳母が教えていたのだが、男の子なら直接手ほどき出来るのだが、女の子だと直接手ほどきすると純潔が消えてしまうので、色々問題があったのだ。


 そのため、絵で教える、人形で教えるなどの色んな方法を編み出していたのだが、一番教えやすいのは直接見せることである。

 オトが恥ずかしそうに言う。


「実は入内(にゅうだい)することが決まったんだけど、もし天子様に求められたときに、何も知らないわけにはいかなくてさ……………………それで丁度見せてくれる人を探していた所だったんだ……」

「……『入内』? 」


 不思議そうに尋ねる瞬。

 すると、チュラが説明してくれる。


「天子様とその家族の身の回りの世話をするために内裏に入ることです。表向きは貴族の子女に宮廷の作法を教えたり、身の回りの世話をさせるのが目的ですが……平たく言えば側室候補です」

「ああ、なるほど……」


 ようやく状況が分かってきた瞬。


 入内とは側室の候補となる娘を天子様が住まう内裏に入れることを差す。


 これは天子様にどんな娘かわかってもらうためのやり方で、正室は政略が入り混じるので簡単に決まらないが、天子様も人間ゆえに政治的な理由だけで腰を振りたいわけでは無い。

 そのためにも側室は好みで選んでいたのが現実だ。


 とはいえ、その側室がそのまま正室に変わることもあるので二号さん以下と言っても侮れない。

 平たく言えば天子様の側室候補になったので、性教育をする必要が出てきたのだ。


「そんなわけでトワ様を少々お借りしたいのですね」

「いや……それはその……」


 チュラの言葉に困り果てる瞬。

 

(まあ、別に良いっちゃ良いんだけどねぇ……)


 刀和は別に瞬のものでは無いし、男の子なら純潔の喪失などむしろウェルカムだろう。

 だから、何の問題も無いと言えば無い。

 だが……


(なんかモヤモヤすんのよねぇ! )


 別に問題は無いのだが、何故かイラッとする瞬。

 すると、オトが少しだけにやっと笑った。


「良いじゃないか! 彼氏でもなんでもないんだろ? 」

「いや……そうなん……だけどぉ……」


 どんどんしりすぼみになる瞬。

 あまりに渋るのでチュラがこう言った。


「私のテクニックを一緒に見て勉強しても良いんですよ? 」

「……じゃあ…………お願いします……」


 消極的ながらも賛成の意を示した瞬を見て、オトとチュラはハイタッチを決めた!


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