そして…二度目のエピローグ。

某国、とある宮殿のテラスにて、陽の光に照らされて王冠の様に輝く金色の髪を揺らしながらグラスを傾けるその男は、つい先程帰還し跪く配下の者達から一つの報告を受けた。


「…そうか…。アイツは戻らんか…。

 予測はしておったがな…、まぁ良い。

 この度はご苦労であったな。

 お前達ほどの者にこのような雑務を任せてすまない…。」


その言葉を聞いた、そのリスのような獣人の女性魔道士は更に深く頭を下げて答える。


「戦の終わった今、我々ごときに仕事をいただけるだけでも幸せでございます。」 

 

その畏まった態度に照れてしまっている男は耐えかねて…


「いや、やめないか?こ~いうの…身内以外の者がいるのならともかく…。

 むず痒くて仕方ない…。

 ちゃんと民衆の前では考えるから…!」


魔道士は立ち上がり、大きな尻尾を振りながら微笑み掛ける。


「皇帝なんて物になっても、そういう可愛い所…好きですよ、ふふ♪」


「笑うなよ…。兵が見ている…。」


と、返した後…その金髪の孺子(こぞう)であるレイヴン帝国初代皇帝ブレム=レイヴンが、人差し指で前髪をひと巻きした後にかき上げてから空を見上げ…


「愚弟め…お前まで俺の前から居なくなるのか…。

 寂しすぎるではないか…。」


などと呟いている頃、

その金髪の孺子が支配する帝国領内北東部に位置するシーティスカヤ王国の外れにあるゾリス村。

そこの研究施設に彼女は居た。


小振りではあるが、石造りや木造が殆どを占めるこの世界には似合わない近代的な建造物。 


その施設のリビングのソファにダラしなく横たわって放心状態のわがままボディのそばかすメガネの女性。


「あぁぁ…せっかくリア様と再会出来たというのに…

 一発かます事もできずに帰還だなんて…。

 ああ!私は欲求が不満ですよ~!!」


そのユリ-ネル=ソーシャイハが散らかした荷物を二本のおさげ髪をゆらしながらセッセと片付ける白衣を纏った少女は呆れた顔で…


「…ユリーネルお姉様…表現が露骨で下品過ぎますわよ…。

 もう、どうせお洗濯もろくにしなかったんでしょう?」


「正解!

 コロンちゃんは私の事がよくわかるのね~♪」

    

コロンと呼ばれたその少女、コロノラ=バージレモは深く溜息を吐きながら旅行カバンから衣服等を取り出しテーブルに並べる。


「もう!たたみもしないで詰め込んで…お洗濯、手伝ってもらいますからね!」


と、叱られながらもソファの上で左右に転がり続けているユリィは


「え~でも、私が手伝うと余計に仕事が増えるから~…。」


などとヘラヘラしている。

それを聞いたコロンはそうだった…と、再び諦め顔で溜息をつく。


「…あら…、この下着…なんて所にあ…ああ、穴が!!

 ユリーネルお姉さま!

 ななな何をなさったんですの!?」


…ズドンが残した爪痕である。


「そ、そんな所に穴が開いてるなんて知りませんよ~!」


尻だけに。


「ほ…他にも何か…あいたぁっ!!」


旅行カバンの中の何かに触れたコロンはバッと手を引き抜き、

そのままカバンをひっくり返す。

衣服や土産物に混ざって出てきたソレはハンカチに包まれていた。


「コレが…竜の幼生の…?触っただけで…この魔力…。

 てかまだ提出してなかったんですの?!もう!

 コロンは魔力に関する感度を高められてますから…

 触れないんでユリーネルお姉さまがすぐに持って行ってくださいよ!」


ユリィは面倒くさそうにノソノソと起き上がり、


「はぁ~い~。愛してるわよ~、コロンちゃん~♪」


と、ご機嫌を取りながら、ハンカチを開いて数枚の羽を取り出す。


「じゃ、ちょっと先生の部屋に行ってくるわね~。」


と、両手に持った羽をパタパタとさせながら扉に向かおうとすると…


「あ゛いっっだぁーーーぃい!!」


とまたコロンが叫び声を上げる!


「どうしたの~?」


ユリィは困惑しているコロンの側にパタパタと羽を羽ばたかせ、鳥が止まる様にしてしゃがみ込む。


「ユリーネルお姉さま…ちょっとその羽を…」


コロンは手を伸ばしてユリィの持つ羽に恐る恐る触れてみる…。


「…強い刺激はありますけど…全然触れます…。

 じゃあさっきのは……。」


二人はそっとテーブルの上のソレに目を向けた。


「ユリーネルお姉さま…その…そのハンカチで……

 いったい何を拭いたんですの?」


思い出そうと必死に考え込んだユリィが辿り着き、導き出した答えは…


「さぁ?そんなの覚えてないわ~…。」


…考えても無理だから諦めよう、だった。



そして…少し前にようやく一つの戦争が終わり、一時の平和を取り戻したその地にまた何かが起ころうとしている。


ろくでもない何かが。

 


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