そして…やり過ぎたのは自覚しています。

俺達は先程から土塊の魔物にマナーと騎士道についての講義を受けている…。


何だこの時間…。


魔物「確かに私には名乗るような名前もない!

   だが!

   初級者にも優しく、心の準備をする時間を持って貰うための演出なのだ!

   わからんのか!?

   先に進めばこの様に色々教えてくれる者など居ない!

   

   『チュートリアル長くてウゼ~…』

   

   とか言ってる奴はいつか大きな壁にぶつかる事になるんだぞ!


   まずこの私を正々堂々と倒し、

   やがて大きな困難にぶつかっても乗り越える自信の第一歩を感じて欲しい!

   そんな優しさを…サクって…サクって済ましちゃダメだろう!!


   そう、こんな風に…サク…って……。」


とりあえず熱弁している魔物の頭上から一刀両断してみた。


再びサラァ…っと、地面に還って行く。


俺「…なんか悪いことしたかなぁ…?」


エイナ「い…良いんじゃないかな?

    戦場で言葉が多いのもボクは苦手だし~…。」


まぁ…何はともあれ、次への扉は開かれたようだ。


俺「先、行こうか…?」


エイナ「そだね~♪」


…流石に後味わるいな…。

この手はちゃんと相手を選んで使おう…。


次の階層に辿り着き、少し雰囲気の変化を感じる。

他の人の気配だ。


サクサク進みすぎたので追いついてしまったか…。


雑魚を片付けてもらった上に追い抜いてしまうのは感じが悪いだろう…。


俺「なぁエイナ、ちょっと休まないか?

  俺は慣れてないからさぁ…頭の中を整理したくてさぁ…。

  時間もまだ有るし…。」


もちろん遊び足りないエイナは先に進みたそうだが…。


エイナ「ん~…ちょっとだよぉ…?」


と、通路の脇にある岩に腰掛けた俺の横にぺたんと座り、

俺の足により掛かる。


…空気だけで伝わる…。

これだけ強く、まだ幼い身でありながらも自然と一切の油断も警戒も怠って居ない事が。

零也先生!

エイナを立派に育てていただき、ありがとうございました!!


キチンと整備されたダンジョン、もちろん初級の上層階であるからなのだろうが、

松明程度だが明かりもキチンと有り、とりあえず購入したガイドブックも読める。

だがヤバイな…明かり系のアイテムをキレイに忘れていた!

受付のお姉さん…気を効かせてよ…。


今の所はまず迷うような複雑な道はないので大丈夫だったが、

この先どうなるかはわからない。

情報だけは…覚えられなくとも、知っておいて損は無い。


俺「ん~、十層越えたら広さが一気に倍以上になるんだな…。

  とりあえず答えは書いてあるけどトラップもあるね。」


しかも横に随時更新中とも書いてある。


エイナ「ね、アサヒ、ちょっとソレ見せてよ♪」


と、手元からガイドブックを奪い取り、

三度ほどパラララっとめくってから俺に返してくれた。


エイナ「アサヒはちゃんとソレを見ながら進むんだよ。

    ボクはもう覚えちゃったから、サポートに徹するからね♪」

  

…ちくしょう、この神スペックめ!


…まぁ、本人がどう感じていたかどうかは問題では無い、

究極の努力があっての結果なんだろうと信じたい。


地獄の修行僧が苦しみながらやるような事を、


『えっ?なにそれすごく楽しそう♪やってみた~い♪』


と、やってみて簡単に出来てしまう…それが天才だ。


嫉妬はしません。全部頼ります♪

しっかりと覚えておいてくれよ…!


とは言え、記載されたマップをよく見てみると…下の方にはまだ情報のないルートも

多く有るようだ。


はっ!…エイナは「覚えた」…と言ったな…!?


気をつけろ俺!

絶対に良からぬことを考えて来るぞ…

なにせ…あの零也とシュミカの弟子だぞコイツは!

意地でも記載されたルートを突き進むのだ!


エイナ「ね~、零也おに……あ、ゴメン!アサヒ!

    …ゴメンね…よくクルセイトのダンジョンにも潜ってたんだよ…。

    懐かしいな…って思ってさぁ…。」


くっそ!

絶対に忘れさせてやるからな!


俺「そうなんだ…。

  その頃はどれぐらい行ったんだい?」


エイナ「ん~…確か…二百…くらいまでは数えたんだけどね…。

    あ、でもあそこは高い所に有るから…

    ここの深さだと五十くらいじゃないかな?」

 

そんなハンディキャップシステムは無いんじゃないかな?


…まぁまぁ…一歩ずつ、一歩ずつだ!


先客の方々も先に進んだようで気配も感じなくなったので腰をあげよう。


俺「じゃあそろそろ行こうか。」


と、立ち上がる。

ガイドブック的にもボスまでは今までと変わらない感じのようだし、

九階層の中ボスまでで練習、十階層のボスでチュートリアルをクリアのような感じだろう。


俺「あ…そう言えば…コレまで何のアイテムも見つけられなかったけど…

  食事代…稼げるのかな…?」


エイナ「大丈夫だよ♪

    ボクはチョコチョコ拾ってるんだよ♪」


と、ずっと持っていた事に気づかなかったが…握っていた手を開いてみせた。

…そこには…土の塊…。

中ボスの残骸か!?


エイナ「一度精霊の力が宿った物にはギフトが残るんだよ。

    だから、

    倒した魔物の一部を持ち帰れば魔法道具の素材になるんだよ。

    この辺りじゃまだまだ逆に邪魔になるだけだからアレだけど…。

    この土は良くアサヒが飲んでるお酒の原料のはずだよ♪」


ビールのようだと思って飲んでたのは泥水だったのか!?


…うん、まあ…美味しく酔えるなら問題ないんですけど…。

てか、そろそろ戻って飲みたいなぁ…。

などと考えていると…今度は後方から人の気配が迫ってくる!


ちょっとゆっくりし過ぎたみたいだ。

後続の人達に迷惑を掛けないように早く進まなければ!


で、やはりあっという間に辿り着いてしまう第九階層…。


初心者向け階層の最後の中ボスにあたる魔物の部屋の扉の前…。

中からはフシュぅ…フシュぅ…という荒い息遣いが聞こえる。


まぁ…順番だからな…。

    

今よりも下の階層では迷うこともあったりで順番も変わることも有るだろうが、

この辺りでは無理に追い越したりしないかぎりは順番は変わりようが無い。




そして…覚悟を決めた俺は、

自らの内面に根付いた、マナーと騎士道精神に則って…扉をノックする。


…すると、扉の向こう側からは地響きのような低い声で…


「ようこそいらっしゃいました…どうぞお入りください…。」    

 

と、快く迎え入れてくれるのである♪


…エイナ様…後はよろしくお願いします!! 

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