そして…ユックリ湯船に浸かりたい
ギリアさんと別れ、やがて辿り着いたティルスガルの街。
あの後は本当に何事も…あったと言えば、
恋敵がいなくなったことを悟ったのかギルと名付けられた馬の足取りが軽快で、
予想よりも早く到着出来た。ポジティブな事象だけである。
道中は気を晴らす為か、あれからは殆どリアが手綱を握っていたのだが…
リア『大丈夫?疲れたでしょう…ここからは私があなたごと馬車を運ぶわぁ…』
ギル『なぁに大丈夫さ!君は心の傷を癒やすのが先さぁ…!』
…なんて会話をするように時々キラキラした目で見つめ合ってて気持ち悪いと思ったことは忘れてしまおう。
この街はクルセイト程観光地っぽさは無いが、至って普通の街のようだ。
馬車を厩舎に預け、離れるまでは名残惜しそうにしていたリアが三歩歩けば食べ物の事を考えるように、
ギルの方もこういった建物に預けられた後は沢山の餌が待っている事がわかっているのだろう。
お互いに見向きもしなくなる様は…もう慣れた。
とりあえずはこの街のギルドに到着の報告と登録だ。
そうしておくことで、他の街のギルドに届いたご指名の依頼なども受けることが出来るようになったりするのだ。
…指名なんて滅多に無いけどな。
そう言えば…担当の魔法職の方々も頭の中で、
(お願い精霊さん!これから言うことを~~~~へ伝えて♪)
…なんて呟いているのだろうか…?
そのあたりはセンシティブな内容が含まれてそうなので気にしてはダメだな…。
出入り禁止になっちゃうぞ☆
俺「この街、ライゴールさんとサラシェさんは良く来るんですか?」
ライ「いや、よく…という程ではないですが…たまに仕事で。
ギルドや店の場所くらいなら案内出来ますよ。」
俺「それは助かります!お願いできますか?」
ライ「お安い御用です。喜んで♪」
と、言うわけで歩いて十分ほどの場所に有るギルドへ案内して貰ったのだが、
思いの外、道が入り組んでて慣れていないとすぐに迷いそうな街並みだ…。
建物の中も他に比べて広い方ではあるが、時刻も時刻…ひと仕事終えた冒険者達が物の換金やクエストの報酬を受け取って夜の街へ繰り出そうと集まって来ている。
こりゃ…さっさと終わらせて宿探しも急いだほうが良さそうだな…。
俺「ライゴールさんも例の荷物はギルドへ?」
ライ「いや、コレは個人的な依頼なので直接ですね。」
俺「では…割と混んでるので申し訳ないんですけど…
ウチの女性陣と今日の宿の方、お願いできませんか?」
ライ「もちろん。
今回の恩返しもまだですからね!
最高の宿を手配して置きますよ♪」
俺「あ…程々の予算でお願いします…はは…。」
ライ「大丈夫、少しは顔がきくんですよ。」
と、笑顔を残してライゴールさんは、外で待っている皆の元へ向かった。
もちろん俺はまだコチラの字の読み書きが出来ないので書紀としてエイナを残し、
俺と二人でココに残る。
エイナ「ね~アサヒ~、ボクは何すればいいのさー?」
人が多い為、跳ね回ったりくるくる回ったり出来ないエイナはエネルギーのやり場に困ってウズウズしている。
俺「じゃ、とりあえず…登録…とか、
そういった意味の言葉が書いてある所は有るかい?」
と、背中側から脇の下に手を入れて見やすいように持ち上げてやる。
暫くキョロキョロして…
エイナ「あ、あった!多分アレだよ!」
目線の先には殆ど人が居ない区画がある。
そうか、この時間から登録に来るなんてそうそういるもんじゃない。
これならすぐに終わりそうだ。
その窓口に行き、一応話を聞くと間違いなさそうだ。
一通りの説明を受け、書類はエイナに書いてもらう。
全員の名前を書く所が有るらしいのだが…
そう言えばあの二人のフルネームを知らない…。
窓口で事情を話すと、記入出来るところまでで登録は済ませておくので空欄は明日にでも来て追加してくれればいい…とのことだ。
後方の盛り上がりを考えると、一人でも早くあちらのヘルプに回りたいのだろう…。
朝のうちにでも来てさっさと済ませてしまおう。
やっと外に出ることの出来たエイナは建物前の広いスペースをフルに使ってくるくる回ったり飛び跳ねたりしているが…その場にいる人や通行人からは邪魔がられる事もなく、ただただ微笑ましいという笑顔で眺められている…。
可愛いが正義なのだとしたら、この世界の正義は狂っている。
みなさん、その子は露出狂のサイコパスですよ~…。
…とは言え義兄としては誇らしくもあり…。
さて、
ライゴールさんとの連絡手段が無い!と気づくのはその数分後である!
途方にくれていると…
サラ「アサヒさーーん!」
と、声の方を見るとサラシェさんが手を振りながらコチラに駆けてくる!
助かった!
…綺麗な奥さんだなぁ…ライゴールさん、羨ましい!
案内されて辿り着いたのは、とても高級なホテルのような建物だった。
エイナ「うわー、綺麗だね!
すごいね~♪」
俺「はぁ~~、こんな所俺達じゃとても泊まれませんよ…。」
エイナ「そ、そうだね、
ボクは村で泊まった部屋や馬車で寝るのも楽しくて好きだよ♪
アサヒがいれば何処だって天国だよーー。」
「よーー。」の最後が少し下向きだ。
物分りの良い…不憫な子!!
サラ「ふふ…大丈夫です。
ここ、私達の昔からの友人がやってるところなんですよ。
大きな部屋は無理ですが、いくつか部屋も空いているそうなんで…
今日の話をしたら、ぜひ使って欲しいと言ってくれまして。
いかがです?」
「情けは人の為ならず」という言葉の本当の意味を体感する。
人助けはしておくもんだ!
俺「でも…流石にタダというのも気が引けますよ。」
サラ「では、一泊の予算はどれくらいで考えていらっしゃいました?」
パッと指で数を表すと…
サラ「ではコレで…話を通しておきますから、
気兼ねなくユックリして行ってください♪」
と、その半分の数を提示してくれる!
ここはお言葉に甘えておくのがいいだろう。
俺「じゃ、お願いします。
後でその方にも御礼が言いたいのですが…。」
サラ「あら…彼はとても忙しくて、仕事で出ちゃったんですよ…。
タイミングよく戻ってきたら紹介しますね。
さぁ、食事の準備も出来てます。
皆さんお待ちですよ。行きましょう♪」
そうか、どのみち断るなんて出来なかったな…。
ウチの女王達は今頃また『待て!』をくらっているのだ。
俺の食事に釘が入る前に急いだ方が良さそうだ。
エイナ「アサヒ…どうするの?」
俺「大丈夫だよ。とても安くして貰えたからココに泊まろう。
ゴハンだってさ。行こう!」
と手を差し伸べると、陰っていた顔がパァっと光ってその手に飛びついてくる。
エイナ「ねーねー、お風呂もあるのかなぁ?」
サラ「ありますよ~。大っきな共同も、小さいですけどお部屋にも♪」
エイナ「わぁい♪
アサヒ!後で一緒に入ろうね~~♪」
俺「はいはい。
それよりまずはゴハンを残さず食べるんだよ~。」
食堂への道中サラシェさんは、そのやり取りを微笑ましくも少し怪訝そうな視線で見ている…あぁ…
俺「あ、サラシェさん…この子、男の子。」
エイナ「おつかれちん♪」
サラ「あら☆」
そして……出来れば一人でユックリ湯船に浸かりたいなぁ…と、思うのだった。
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