第30話 クレームという現象ではなく、本質から解決策を導く


 安西さんと飲みながら相談にのってもらった日から2日後の午後2時から、子育てカフェは店を閉めて、ママ友6人と私による経営者7人全員が集まる会議を開いた。会議は私のお詫びから始まる。


「この数日間、私の不手際により、皆さん6人の経営者には御迷惑と御心配をおかけしましたことを、お詫び申し上げます。迷惑の現象は、主に2つあります。一つは、視察・取材・講演を依頼する電話とメールが殺到して、私の着信音が鳴りっぱなし状態に陥り、電話とメールに対応できていない、というクレーム。もう一つは、視察・取材で来店する人が多すぎて、本来のお客様が店で寛ぐことができない、入店できない、というクレーム。解決策は、クレーム等の現象からではなく、本質的な原因から導くものです。本質的な原因は、私が多くの仕事を抱えすぎていた、ことにあります。その理由は、皆さんの仕事量が増えないように、という配慮もあります。しかし、私の学習不足による無知が大きい。だから、私はこの数日で猛烈に反省と学習を重ねました。その結果、私が多くの仕事を抱えすぎていたことに起因する課題の解決策の方向性は、仕事を自動化・省略化すべき仕事と、皆さまに任せるべき仕事に分類して、それぞれの新しい方法を確立することです。私からの一方的な押し付けにならないように、皆さんにも事前に課題と解決策を考えて頂き、その内容は由美から聞いています。皆さんが考える課題と解決策を踏まえて、私は解決策を用意してきました。今から、解決策とそれを導く原因とをセットで説明していきます。人の話・クチコミは盲信してはいけません。私の話で疑問に思うことがあれば、すぐに私へ質問やツッコミを入れてください。宜しいですか?」


 私の問いかけに6人は笑顔で「はーい、わかりました」と声を揃える。


「では、最初に皆さんが認識している子育てカフェの課題を皆で共有しましょう。皆さんが認識する課題の上位2つを発表します。最も皆さんから多く指摘された課題は、子育てカフェがホームページ上で公開している私の電話・メールアドレスに連絡が繋がらないというクレーム。次の多い課題は、子育てカフェの現在の集客が、視察や取材が目的のオジサンばかりで、本来のお客様である親子にとって居心地が良くない、行列で入店さえできないというクレーム。この2つの課題の原因は連動していて、実は同じです。つまり、視察・取材・講演の依頼が、電話とメールへ殺到する原因があるから、大切な電話とメールにも対応できない。視察・取材が目的の来店が多いから、大切なお客様をおもてなしできない。原因は同じだから、解決策は簡単に導くことができます。でも、この解決策は実践すると、嫌われる。だから、普通の人は実践できず、疲弊し続けます。その実践が難しい解決策とは、視察・取材・講演の依頼は自動応答にすることです」


「はい、質問です。視察・取材・講演の依頼を自動応答にするって、どんなふうにですか?」と、いつも明るい雅恵さんが最初に質問してくれた。


「自動応答システムは、電話でも構築できます。しかし、顧客はイライラして、店の評判が落ちます。だから、メールフォームでやります。電話の自動応答システムは、人が電話を受ける前に、音声ガイダンスにしたがって、要件の種別を何回か選ばせる方法。ほら、銀行とかのお客様相談室がこの方法を採用していますよね」


「あっ、わかります。銀行とかの電話自動応答システムって、音声ガイダンスを聞いて幾つか選ぶだけで、数分もかかりますよね。私イライラして途中で電話を切ったこと何回もあるんですよ」と、洋子さんが理解を示してくれる。


「そう、電話の自動応答システムって、お客様にとっては、時間がかかりすぎて本当にイライラします。電話番号は形式的に用意しているだけで、電話はかけてくるな、と言っているに等しい。その心は、電話の対応はコスト・時間が、かかりすぎるから極限まで電話対応は自動化・省力化したい、ということです。このような世間の動向から、小さな店は多くが代表電話を持つことを止めています。では、お客さまとの対応は、どう改革しているか? お客さまと店の関係の深さによって、2つに分けます。まず、店との関係が薄い初見客・一見客には、メールフォームやfacebook等で儀礼的・表面的に対応します。そして、店との関係が濃い常連客には、経営者が自分の個人用メールアドレスや電話番号を開示して、個人的・友人的に対応します。子育てカフェも、この2つに分けたシステムへ改革します。つまり、現在は店の代表電話とメールアドレスとして、私の電話とメールアドレスを公開しています。これでは、視察・取材・講演を依頼する電話とメールが殺到して、私の着信音が鳴りっぱなし状態に陥り、大切な電話とメールにも対応できていない問題が生じます。だから、今後は店の代表電話とメールアドレスを持つことは止めます。お客さまとの対応・連絡は先ほど説明した2つの方法を使い分けます。まず、店との関係が薄い初見客や取材・視察の依頼者には、メールフォームだけで対応します。メールフォームを昨日ホームページ上に設置したので、お手元のスマホで見てもらうと、仕組みが分かります。

 問い合わせをする人は最初に、次の5つの区分から、いずれかを選んでから、問い合わせ内容を入力します。視察の依頼、取材の依頼、講演の依頼、顧客としての問い合わせ、子育てカフェで働きたい、の5つです。

 5つのうち、最初の3つ、つまり視察・取材・講演の依頼は、自動応答で次の主旨を伝えるので、誰も対応せずに業務を完全に自動化できます。自動応答の主旨は、次の通りです。

 視察・取材・講演の依頼者は先ず、毎週火曜日の朝9:30に開催する説明会に参加してください。代表の山口亮が講師を務めます。説明会の参加費は資料とワンドリンクのセットでお一人1000円です。説明会は最初、皆さんに共通する関心事を皆で合同に行います。その後、個別の御要望に対応します。

 ここまでが、店との関係が薄い初見客や取材・視察の依頼者への対応です。店との関係が濃い常連客との対応へ進む前に、ここまでで疑問と質問があれば、何でも聞いて下さい」


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