第23話 夢の実現へ、紙媒体でなく、ネットで情報発信

 講演の依頼を私が断ると、諦める人が多い中、諦めずに「講演とは違う提案」を再提示する人も少なくない。


 講演とは違う提案とは、例えば、子育てカフェで1時間だけ対談やインタビューを行い、その様子をネット上に動画で配信するものがある。この提案であれば、私が束縛される時間は移動時間ゼロを含めて、たったの1時間で済む。しかも、このネット上に動画で配信する方法は、有名な出版社が刊行する紙の雑誌に掲載されるよりも、閲覧者が格段に多いらしい。


 多いらしい、という推測的な表現の理由は、対談やインタビューを私へ提案する有名人やネットニュース編集者から聞いた話だから。彼ら曰く「もはや紙媒体は、オワコン(人気も価値も無くなり、終わったコンテンツ)。特に、有名な出版社が刊行する紙の雑誌は昔なら数十万部も売れて、雑誌に掲載されることは権威・名誉でさえあった。しかし、現在は売上部数が激減して、掲載されても読む人が少ないので効果・反響は低い」


 このような現状を有名人やネットニュース編集者から教えてもらった私は、とりあえず数回、彼らの提案に乗ってみることにした。


 最初に乗った提案は、日本イクメン協会の会長である安西徹さんとの対談である。この対談は、日本最大の動画サイト「ユアチューブ」で動画配信される上、日本最大のポータルサイト「ヤッホー」で記事配信される、という。


 日本イクメン協会は2007年に、安西さんがヤッホーに勤務する傍ら、38歳のときに立ち上げたNPOである。安西さんと私は、大手企業で働きながら、30歳代のときにNPOを立ち上げて代表に就く等、共通項が多い。


 安西さんの経歴を彼から聞いたとき、私は自分の経歴に近い安西さんに親近感を抱き、今年50歳を迎える大先輩の安西さんから色々の体験や知恵を吸収したい、と思った。


 そこで、子育てカフェの営業時間終了後に行う「公開される対談」が終わったら、子育てカフェで、2人きりで飲みたい、と私は安西さんへ打診してみた。安西さんから「実は山口さんに頼みごとがあるから、対談後に2人きりで飲みたい、と思っていた」と快諾を得た。


 安西さんと私の対談は、安西さんから提案があった6日後の夕方6時から始まった。対談のタイトルは、安西さんの希望で「イクメンの今昔と、未来は私たちがつくる」に決まった。


 対談は、イクメンという言葉が生まれる経緯を安西さんが語ることから始まる。


 イクメンという言葉は今でこそ、すっかり定着しているが、実は安西さんが2007年に日本イクメン協会を立ち上げるときに作った造語である。つまり「育児を積極的に率先して楽しんで行う男性・パパ」を、イクメンと呼び、イクメンを日本に増やす活動を行うNPO団体として、安西さんは日本イクメン協会を立ち上げた。

 2007年当時、育児は女性・ママだけで行い、男性・パパは外で働いて稼ぐ、という家庭内の分業が当たり前な時代だった。この家庭内の分業は、男性にとっても、女性にとっても、悲劇である。女性・ママは育児を一人で抱え込み、出産後は外での仕事やキャリアは諦めることを当然視された。また、家で育児と家事を孤軍奮闘し続けると、ストレスもたまる。

 一方の男性・パパは、育児や家事を理由に「休暇取得、残業をしないで早く帰宅」はできないのは当たり前とされた。

 安西さんは、この「日本の常識は、世界では非常識」である日本を改革しようと決意する。ヤッホーに勤務していた安西さんは、改革の実現には先ず「日本の常識は、世界では非常識」である現状を問題提起して話題にすることが重要と考える。そこで、イクメンという造語をつくると同時に、日本イクメン協会を設立する。ヤッホーによるネットニュースを活用しながら、安西は精力的な活動を展開する。NPO設立から3年後の2010年に、イクメンは流行語大賞に選ばれた。

 イクメンが流行語大賞に選ばれた2010年から「男性・パパは、育児を積極的に率先して楽しんで行うべき」という世論が形成され始めた。

 この世論形成は、男性と女性の双方に「働き方改革」という大きな効果をもたらした。

 男性は育児を行うのに、休暇が取得しやすくなり、残業しない働き方が普及する。

 女性は育児を一人で抱え込まず、出産後も外で働きやすくなった。


 ここまで、今年50歳を迎える安西さんが2007年から2010年頃の過去を語った。司会役を務めるネットニュース編集者が今度は、今年34歳を迎える私へ今を語ってほしい、という。


 私が大学を卒業して、角紅に入社した2007年は、まさに安西さんが日本イクメン協会を立ち上げた年である。私が入社した2007年頃は、まだ古い時代の働き方が横行していた。しかし、それから数年の間に、働き方は劇的に改革されたと実感する。この働き方改革に、安西さんが立ち上げた日本イクメン協会の活動が大きく寄与していることを、私は恥ずかしながら今日の対談で初めて知った。本日の対談が公開されることを通して、安西さんたちが築いてくれた素晴らしい過去を多くの人に知ってほしいと願う。

 その一方で、小さな子供を育児中の女性と男性の働き方は、まだまだ改革すべき余地が大きい。自分の経験で言えば、小さな子供はママとずっと一緒にいたいから、保育園に子供に預ける働き方は限界がある。小さな子供とママが同じ空間で働く方法として、在宅勤務は望ましい。しかし、サービス業など在宅勤務ができない職種も多い。働く方法の改革に加えて、働く時間・日数の改革も必要だ。小さな子供をもつ女性に理想の働く時間・日数を聞いた調査によると、週3日くらいが最も多い。


 そこで私たちは、子育てカフェを立ち上げた。子育てカフェはコンセプトとして「働きたいけど働けない子育て中のママに、子どもと一緒に働く方法と、居心地の良い居場所、の両方を創造する。そんな素敵な店がある地域に住みたいね」を掲げた。


 このコンセプトは、6人のママ友による協働で実現できる。6人のママ友は交代で週に1日、日替わり店長になる。週に2日はサブで店員になる。すると、店は常に3人で回すことができて、週3日の勤務という理想の働き方を実現できる。

 今日の対談タイトルは「イクメンの今昔と、未来は私たちがつくる」なので、僭越ながら私から、未来の働き方を一つ提案したい。


 在宅勤務という働く場所や方法の改革、週3日の勤務という働く時間の改革は、小さな子供をもつ女性に限らず、私たち働き盛り世代の男性や、高齢者も求めている、と思う。


 例えば、私は角紅に勤めている。角紅には「20%ルール、社内ビジネスプランコンテスト」という先進的な働き方の制度がある。だから、今から1年くらいは角紅に所属しながら、子育てカフェという場所を拠点に、起業的な働き方が実践できる。このような働き方を始めて、まだ日が浅いけれど、安西さんのような素敵な人で出会える等、私は本当に恵まれていて、幸せを実感している。私は子育てカフェを成功させて、多くの人に私のような働き方をしてほしい、と考えている。


 私が未来を語ったことを受けて、司会役が安西さんへ対談のまとめを含めて、未来を語るように促す。安西さんは次のように対談を締めくくった。


 山口さんが話してくれた働き方改革に共感するし、日本の未来に最も求められる改革だと思う。その実現には、この働き方改革を実践しながら普及していくキーマンが必要で、山口さんにその役割を期待したい。

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