131.マグダエル公爵家
部屋にいたエリザベス様は以前お会いした時のような雰囲気は無くなっていた。髪の毛の件もあるけど、お会いした時に感じた禍々しい負の感情の塊は無くなり、どこか穏やかな雰囲気ですらあった。まぁ、アレは「私」が取り憑いていたからだけど……
「あの……エリザベス様……その髪は……?」
とりあえず私は気になる点を聞いたら、エリザベス様は苦笑を浮かべて、髪の毛を一房触り
「様はもういらないのだけど……そうね……元々髪の色は茶色だったの。カイン王子が綺麗な金髪だから、その隣に並び立てるようにと、お父様に命じられて金に染めたの。長さについては数日前に切ったの。国外から出たら、色々旅すりつもりだったから、長いと邪魔になりそうだったし……」
私の疑問に淡々と答えるエリザベス様。やっぱり、あの時とは違い、最早エリザベス様の語る言葉から、怨嗟の念は漏れていない。
「色の方はともかく、髪の毛切るのはもったいないって言ったんだけどね。せっかく綺麗に伸ばしてたのに……まぁ、その髪型も可愛いんだけどね」
ヴィオル様が軽く溜息をついてそう言った。それを受けたエリザベス様は苦笑を浮かべ、「ありがとうございます」と言った。
「あの……エリザベス様……」
「だから、もう公爵の人間だから様付けしなくて大丈夫ですよ」
「えっと……それじゃあ……エリザベスさん……その……今でも私や……アリーを恨んでますか……?」
私がエリザベスさんにそう尋ねると、エリザベスさんは少し困った顔をして……
「そう……ね……10歳以降の記憶は本当に朧気で、アリー様に対する憎しみの感情に支配された感じしかなかった。けど、10歳の……カイン王子様達の誕生日パーティーの時、私が最初に感じたのは嫉妬ではないわね……信じてもらえないかもしれないけど……」
嫉妬ではない?どういう事なのかしら?あの時、エリザベスさんは、カイン王子と踊るアリーを邪魔したり、アリーを野盗に襲わせるようなマネをしたのだけれど……それらの行為は嫉妬からによるものじゃないって事?
「それを語る上で、まずはマグダエル公爵家がどういう家なのか話さないといけないわね……」
エリザベスさんは少し悲しそうな表情を浮かべながらも、淡々とマグダエル公爵家について語り始めた。
マグダエル公爵家は、良くも悪くも優秀な古い考えの貴族らしい。使える者だけを重宝し、使えなくなった者は捨てる。そういう考えで、ずっと公爵家という家を存続させてきたらしい。
「だから、お父様には沢山の側室がいたわ。優秀な跡取りや、他の貴族に嫁がせる令嬢を産ませる為に……私のお母さんもその内の1人だった……」
そして、その母親から1人の娘が誕生した。どこかの貴族に嫁がせる為、優秀な貴族令嬢に育てる予定だったのだが、リアンナ王妃がその年に双子の王子を出産し、状況は一変した。
「私を次の王妃にと……幼い頃から私に王妃教育が始まったわ。髪の毛の色も、王族は金髪や銀髪が多いから、王室に入るなら金髪がいいだろうって無理矢理染められたわ」
「別に金や銀の髪が王家の条件じゃないのにね〜」
ヴィオル様が呆れたような溜息をついてそう呟いた。それを聞いたエリザベスさんは苦笑を浮かべた。
「とにかく、私を王妃にしたかったんでしょうね。散々王妃教育を叩きこまれ、カイン王子様達とも何度も会い、なんとか私の顔を売り込んでいった時、あのカイン王子様達の10歳の誕生日パーティーが私の心を変えてしまいました」
あの10歳の誕生日パーティーの時、どう考えてもアリーに目がいってるカイン王子達を見て、エリザベスさんは焦ったらしい。
「私はマグダエル家がどういう家かよく知っていた。使えなくなった者は本当に切り捨ててしまう。現に、私を産んだ母も、私以降誰も産めなかった事から、他の側室達の侍女……いえ……アレはもう……奴隷ですね……そんな扱いをされてる母を見ていたから……私は……母と同じように捨てられるのが怖かった……だから……私は卑怯と呼ばれるような手段を使ってでも、カイン王子様とアリー様を引き裂こうとした……」
悲痛な表情を浮かべてそう答えるエリザベス様。卑怯な手段とは、ダンスの邪魔や野盗に襲わせた件だろう。まぁ、ダンスはともかく、野盗の件は私が阻止したのだけれど……
「けど、所詮そんな付け焼刃な手段が通用する訳がなく、結局カイン王子様とアリー様の婚約が決まり、どうしよう……このままだと私も切り捨てられてしまう……そんな恐怖が私を支配し、気づいたらアリー様への憎しみに変わり、その後は……朧気にしか覚えていません……」
そうか……今あるものがアリーによって無くなってしまう……それは「私」によく似ていた……だから、エリザベスさんはソレの器に選ばれたのね……
だとしたら……やっぱりエリザベスさんは被害者も同然だ……なんとか出来ないかしら……
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