番外話.アンナ・ステインローズの大暴走

これは、1人のステインローズ伯爵家の新人メイドによって引き起こされた事件である。



私、アンナ・ステインローズはもうすぐ夏休みも終わりに近づくのを感じながらも、いつものように屋敷で家族と一緒に夕飯をいただいていた。

私、なんとなく喉の渇きを感じ、グラスを手に取って、グラスが空になってるのに気づき……


「メルル!悪いんだけど何か飲み物持ってきてもらえるかしら?」


「はい!かしこまりました!」


メルルと呼ばれたメイドは私の頼みを素直に受け入れ、飲み物を取ってくる。

彼女は、このステインローズ伯爵家にやってきた新人メイドである。私を疎ましく思ったりしない従者の1人だったりする。って言うか、最近の従者はそういう人達が増えてきたんだけど、まさか……お父様そういう基準で選んでるんじゃ……

まぁ、とにかく性格は明るくて凄く頑張り屋な良い子なんだが、一つ難点なのが……


「お待たせしま……きゃあぁぁ!!?」


何もない所で何故か躓き、持っていたビンが空中に放り出される。その空中に放り出されたビンを見事にキャッチして、私に渡すキョウカ。うん。流石はキョウカ。ナイスプレイ。


「あぁ!?またやってしまいましたぁ!!?すいません!すいません!!すいません!!」


メルルは涙目になりひたすら頭を下げる。そう。メルルはいわゆる典型的なドジっ子メイドなのだ。皿を割った回数はもう数えるのが面倒な程らしい……普通ならクビものなのだが……


「はっははは!いいじゃないか!楽しいメイドさんで!」


「そうね〜。この娘が来てから屋敷が賑やかになった気がするわ〜」


「お姉様をバカにしないだけ十分合格点です」


と、我が家の重鎮三人がそう言うので未だにメルルはうちのメイドとしてやっていられるのである。って言うか、お母様の賑やかになったって皿が割れた音の事を言ってる?


「もういいわ……慣れたし……次からはなるべく気をつけるように頑張ってね……」


「はい!!ありがとうございます!ありがとうございます!」


メルルが頭を下げてそう言うのを見て、私は軽く溜息をついてメルルが持ってきた飲み物をグラスに注ぎ、口に入れた瞬間に……そこで私の意識は途絶えた。



メルルが持ってきた飲み物を口にしたお姉様がいきなり倒れ、私は驚いてすぐさまお姉様に駆け寄る。幸いにも床に倒れ込む前にキョウカが支えてくれたので、お姉様が傷を負う事態は避けられた。


「メルル!あなた!お姉様に何を飲ませたの!?」


「ひいぃ!?すいません!!すいません!!」


私に叱責され、身を縮こませて謝罪するメルル。その間にお母様やヒエンにレイカがお姉様に駆け寄り、お父様はお姉様が飲んだビンを調べ


「これは……私が食後に飲もうとしたワインだな」


「ワイン……ですか……?」


「どうやら、お酒を一口飲んで酔って眠ってしまったみたいね。まさか、アンナの方が私と同じくお酒に弱いとは思わなかったけど……」


よくお姉様を見てみると、顔を若干赤くして寝息をたてていた。まさか、お姉様ってばお酒にまで弱いなんて……またお姉様弱点多すぎって言われちゃいますよ……


「これは……私の判断ミスですね。あそこにある物にお酒は混じってないのは確認済みだったので、問題ないかと思ってしまいました。申し訳ありません」


キョウカがそう言って謝罪の言葉を述べる。そう言えば……確かにヒエンとレイカもキョウカと一緒にお酒が混じってないのを確認したわよね……という事は……私達全員メルルを見ると


「す!すいません!!すいません!!旦那様にそろそろワインを持ってきてと頼まれましたので、持ってきてつい癖であそこに……」


結局はメルルの所為なのね……思わず全員深い溜息をつく。


「メルル。とりあえず貴方はアンナ様のベッドメイキングを」


「アンナ様の部屋は分かりますよね?」


「はい!もちろん!すぐにやって参ります!」


ヒエンとレイカに指示され退室するメルル。


「それ、私がやった方がよくないですか?メルルにやらすのは心配なんですが……」


キョウカの心配は最もね。けど、ヒエンとレイカは首を横に振る。


「彼女も1人で何か出来るという自信をつけさないといつまでドジ癖がついてしまいます」


「幸いにもベッドメイキングならギリギリ合格ラインなので……」


ヒエンとレイカはそう判断して指示ようである。うん。でも、やっぱり心配だわ。メルルの事だし……屋敷で迷子になってそうだわ……


すると……突然お姉様が起き上がった。


「お姉様!?起きて大丈夫なんですか!?」


しかし、お姉様からの反応はない。おかしい。お姉様なら私が言葉をかけたらすぐに返してくれるのに……そんな私の心配をよそに、お姉様はヒエンをじっと見つめ、そしてトロンとした笑みを浮かべ


「まずはヒエン♡」


「えっ……ちょっ!?アンナ様一体何を…………んむぅ〜!!?」


お姉様はヒエンの顔をガシッと掴むと、ヒエンの唇を自分の唇で塞いだ。


「ちょっ!?お姉様!?何をなさってるんですか!?」


しかし、お姉様は私の言葉が聞こえてないのか、しばらくヒエンと口づけを交わし、数十秒後ようやくヒエンを解放する。


「はふぅん……♡」


解放されたヒエンは物凄く蕩けた表情で倒れた。あの若干クールなヒエンがこんな表情をするなんて!!?


「次はレイカに♡キョウカ♡」


「えっ!?」


「はい!?」


レイカとキョウカはお姉様の言葉に驚き目を見開いたが、お姉様の動きに2人が対応出来るはずなく、2人はヒエンと同じ目にあい、そして……


「はわぁん……♡」


「ふわぁん……♡」


解放されたヒエンとキョウカもヒエンと同じように蕩けた表情で倒れる。

これって……もしかして……酔っ払う人の中で、酔うと親しい人にキスをしたくなるタイプがいるって聞いた事があるけれど……まさか……お姉様がそのタイプだなんて……


「ヒエンとレイカはともかくとして、経験ありそうなキョウカですらこのような顔にさせるとは……アンナ……まさかお前はすでにステインローズ家に伝わる舌技を習得しているのか……!?」


「ステインローズ家に伝わる舌技って何ですか!!?」


お父様の解説に思わずそう叫んでしまう私。しかし、お姉様の舌技(?)はまだ止まらない。


「今度は……お母様♡」


「えっ!?ちょっ!?待って!?アン……んむぅ〜!!?」


今度のお姉様の犠牲者に選ばれたのはお母様。抵抗虚しくお姉様の舌技の被害にあい……


「はわあぁぁん……♡」


お母様も他の3メイド同様に蕩けた表情で倒れる。


「クレアぁ!?そんなバカな!?油断もあったとは言え、私で慣れているはずのクレアですらこんな表情にさせるとは!!?」


「そんな事を言ってる場合ですか!!?お父様!!?」


私は思わずお父様にそう叫ぶ。


ガシッ!!


「最後は……アリー♡」


「えっ!?ちょっ!?お姉様!!?」


私の顔をガッシリ掴み、トロンとした表情で私を見つめるお姉様はやたらと可愛らしく美しいんだけど……ちょっ!?近いです!?私の心臓に悪すぎますよ!?お姉様!!?


「えっ……最後って……私は……?」


若干寂しそうに自分を指差すお父様に悪いですが無視させていただきます!


「ねぇ……アリー。私はね……好きな物は後から食べるタイプなの」


はい!それはもうよく知っておりますよ!って言うかそれ!?何の話なんですか!!?


「だから……ね……いただきます♡」


お姉様の顔が私にどんどん接近してくる。えっ!?私!?お姉様に美味しくいただかれるんですか!?私もみんなみたいにお姉様の舌技を……お姉様の舌を堪能しても……思わず、私は唾を飲み込み、目を瞑ってその時を待った。


が、その時は全然やってこなかった……ふと、右肩に重みを感じで目を開けると……


「す〜……す〜……」


お姉様は私の肩を枕に心地よい寝息をたてていた。


「どうやら、酔いが完全に回って眠ってしまったようだな」


お父様が軽く溜息をついてそう言った。私は全身をプルプルと震わせ


「何なんですか!!?それはぁ〜ーーーーーーーー!!?」


お姉様が寝ているにもかかわらず、あらん限りの勢いで私は叫んだ。



翌日、お姉様はこの時の事を全く覚えていなかった。もし、お姉様がコレを知ったらまた死ぬと言い出しかねないので黙っていようと言うのと、今後お姉様にお酒は飲ませないようにするのがステインローズ家の鉄則になった。

ただ、どうしても腹の虫がおさまらない私は、お姉様の部屋にある本全てをホラー物の小説に変えた。





ちなみに、アンナ・ステインローズが大暴れした時のメルルは……


「ひえ〜ん!?ここは何処ですかぁ〜!!?」


アリーの言う通り屋敷内で迷子になっていた。

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