96.ついに直接対峙します

私はエリザベス公爵令嬢に促され、対面に位置するソファに座る。


「キョウカ。久しぶりね」


「はい。お久しぶりです。エリザベス様」


エリザベス公爵令嬢は、まずは私の近くに控えていたキョウカに挨拶を交わす。あっ、もう長年私の専属みたいに感じてたけど、キョウカは私の前はエリザベス公爵令嬢に仕えてたんだったわ……すっかり忘れてたわ……。


「そちらでは楽しくやってるのかしら?」


「えぇ、それはもう♡」


ちょっ!?うっとりした表情でコッチ見るな!?誤解されるでしょうが!!?


「キョウカ。悪いんだけどエリザベス公爵令嬢と2人っきりで話をしたいから下がってくれる」


「えっ?ですが……」


私の言葉に戸惑いを見せるキョウカ。恐らく、何か起きた時の為に対応したいのだろう。主に私が暴れた時の為に。


「サクラ。下がりなさい。私もアンナ・ステインローズ伯爵令嬢と2人でお話がしたいから」


「……かしこまりました」


サクラと呼ばれたメイドが、エリザベス公爵令嬢にそう言われ、若干不服そうな表情を見せながらも、素直に従い退室した。

そして、向こうのメイドが退室した以上、キョウカも同じ事をしない訳にもいかず……


「扉の外側で待機してますから何か起きたらすぐ来ますからね〜」


キョウカは私にそう言い残して退室した。

さて、これでこの部屋には私とエリザベス公爵令嬢の2人だけになった。


「……私はエリザベス公爵令嬢のように、貴族としての教養がなくて、腹の探り合いとか苦手なので率直に言わせてもらいます。あのバカ……バルカス皇子に傭兵団を雇うように指示したのは貴方ですね?」


私がハッキリとエリザベス公爵令嬢にそう言うと、エリザベス公爵令嬢は愉快そうに笑った。


「本当に率直に聞いてきたわね。何故そう思ったのか根拠を聞かせてもらえるかしら?」


エリザベス公爵令嬢は本当に楽しそうに笑いながらそう尋ねてきた。


「まぁ、1番に疑問に感じたのが……バカ……バルカス皇子がここまでの計画を立てられるはずがないと思ったからです」


私はバカ皇子が今回の主犯と分かった時に1番に感じた疑問がこれだ。

あのバカ皇子はバカっぽいから、あれだけの大それた計画を立てられるとは考えにくい。恐らく、裏に誰か計画を促した人物がいると私は考えていた。それに……


「あのバカ……バルカス皇子が用意した傭兵団が、王城に侵入してアリーを拉致出来たのも不自然です。彼らもプロではあるでしょうが、流石に王城に侵入して目的の人物を拉致するとなると……詳しい王城の地図が必要のはずです」


そう。もう一つの問題はそこだ。傭兵団達は侵入経路の地図をバカ皇子に用意してもらったと言ってるが、そんな物を他国の、しかも問題ばかり要注意人物に渡すだろうか?答えは否だ。だから、誰かがその地図をバカ皇子に渡したに違いない。


「なるほど。つまり、バルカス皇子に傭兵団を雇うように言って、王城の地図をバルカス皇子に渡したのが私だと貴方は思ってるのね」


「はい。その通りです」


「何故私だと思うのかしら?」


エリザベス公爵令嬢は愉快そうな表情を崩さない。もしかしたら、私が私がエリザベス公爵令嬢を追い詰めるのを楽しんでるのかもしれない……敵の思い通りに動くのは癪だが、ここは思い通りにいかせてもらおう。


「簡単です。王城の地図なんてそう簡単に手に入るもんじゃない。私もアリーも王子様の婚約者という立場ですが、王城の地図は頂いてません。故に、王城の地図を持ってるとしたら……」


「王家の方々。代々王家の古くから仕える三大公爵家と五大侯爵家は持ってるでしょうね。後は、貴方のお父様……アルフ・ステインローズ伯爵なら持ってそうね……」


エリザベス公爵令嬢が楽しそうに笑いながらそう付け加えてくれる。って、やっぱりお父様……王城の地図隠し持ってるのね……私のお父様本当に何者なのかしら……?


「だけど、これだけなら犯人候補なら沢山いるわよ?何故貴方は私だと言えるのかしら?」


エリザベス公爵令嬢はやはり愉快そうな表情でそう尋ねてきた。分かってるくせにこの態度は少し腹がたつわね……。


「それは……アリーが居なくなったら得をする人物がエリザベス公爵令嬢しかいないからです」


私はハッキリとエリザベス公爵令嬢にそう告げた。


「バカ……バルカス皇子の犯行に、この国の人間が手を貸す理由なんて、アリーが居なくなった方がいいと思ってる人だけですよね?そして、侯爵家以上の身分が高い方でそれに当てはまるのは、エリザベス公爵令嬢しかいません」


そう。侯爵家以上の身分の方で、アリーを疎ましく思ってる人なんて、エリザベス公爵令嬢以外にいなかった。王家はそもそもアリー歓迎ムードだし、侯爵家以上の身分で、王子様方と歳が近い未婚の女性はヴィオル様とエリザベス公爵令嬢だけだ。けど、どう考えてもヴィオル様が王子様方を狙ってるとは思えない。だとしたら、消去法で考えたら、エリザベス公爵令嬢以外に考えられない。


「……ふっ、ふふふふふふふ……!素晴らしいわ!アンナ・ステインローズ伯爵令嬢!流石はキョウカが主として認めただけはあるわね。そうよ。察しの通り私がバルカス皇子を唆したのよ」


やっぱりか……!思わず歯ぎしりをしてしまうが、落ち着け……冷静になれ私……と自分に言い聞かせる。


「……認めるんですね。貴方がやったって」


「えぇ。けれど、無駄よ。私はバルカス皇子を唆し、地図を渡しただけだから、傭兵団とは一切接触してないし、今更バルカス皇子の言葉に聞く耳をもつ人なんていないでしょうし……それに……」


エリザベス公爵令嬢は私に微笑みかけると


「この部屋の盗聴妨害魔法は完璧だから、盗聴魔法を仕掛けても無意味よ」


エリザベス公爵令嬢はキッパリとそう宣言した。ちっ、バレてたのか……いや、念入りに準備していたのか……やけにあっさり白状するからおかしいなとは思ってたけど……


「それよりも……ねぇ、貴方私の同志にならない?」


突如、エリザベス公爵令嬢はそんな提案をしてきた。


「貴方もアリー・ステインローズ伯爵令嬢を疎ましく思ってるのでしょう?私もね……憎いのよ……何もかも奪っていくあの娘が……!」


ようやくここに至ってエリザベス公爵令嬢は表情を変えた。憎々しげな表情に。余程憎いのか、扇子が折れるんじゃないかという勢いで、扇子を握りしめている。


「だから、私達2人でアリー・ステインローズを……ね?いい話でしょ?」


何処がいい話だと思うものの、コレはある意味チャンスでもある。敵の持っている身分というの非常に巨大だ。下手したら王家と同じぐらいの身分。それを叩き潰すなら、あえて懐に潜り込んで叩き潰すのが1番最適な選択肢だろう。


しかし……私は……


「お断りします」


ハッキリとそう答えた。


「……理由を聞いてもいいかしら?」


エリザベス公爵令嬢は無表情でそう尋ねる。だが、その扇子を持つ握りしめた手から怒ってるのがあきらかだ。


「私にとって妹は宝です。その宝物を守りたいと思うのは当然でしょう。では、もう聞くべき事は聞いたので失礼します」


私はそうハッキリと告げて部屋を退室した。

妹の為なら、あえて妹の敵側に紛れて潰す覚悟もあったんだけど……


「やっぱり私……根っからの妹好きね……」


私は苦笑を浮かべ、扉の外側で待機していたキョウカを従え、自分の用意された部屋へと戻って行った……















「いいわ……だったら……貴方もろともアリーを潰してあげるわ……!例え相手が「私」だろうと……!」


エリザベス公爵令嬢はとうとう持っていた扇子を、叩き折りそう言って冷笑を浮かべた。


その冷笑は、知ってる人から見たらこう言うだろう。


悪役令嬢アンナ・ステインローズが浮かべる冷笑に似ていると……

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