94.バカ……バルカス皇子の断罪

ここは、王城の謁見の間。そこには、縄でグルグルに縛られて兵士によって無理矢理跪かされてるバカ皇子がいた。私達はそんなバカ皇子を見下ろす形で陛下の座る椅子の近くに立っている。ほら、私一応契約とはいえヴァン王子の婚約者だから。

そして、バカ皇子はアスラン陛下から「面をあげよ」と言われ、面をあげると……その顔は私がボコボコに殴った腫れや痣だらけで、自分でやった事なのに思わず吹き出してしまいそうになった。他の王族の皆様も同様だ。アスラン陛下もプルプル肩を震わせながら必死で堪えてるし、ヴィオラルド王女様なんてもう爆笑してない?リアンナ王妃がキッと睨みつけてるが、それでも笑ってるし……かなりいい性格してるわ……王女様……

そして、バカ皇子は私の存在に気づいたのか、キッと私を睨みつけ


「この女だ!この女が龍を呼び寄せて私の顔をこんな風にしたんだ!この女は龍を使って国家転覆を狙ってる!すぐにこの女を捕らえて国家反逆罪と!私への不敬罪で死罪とすべきだ!!」


と、訴えかけてきた。途端、先程笑いかけた空気が一気に冷め、アスラン陛下は冷ややかな目でバカ皇子を見る。


「アンナ・ステインローズ伯爵令嬢がそんな事をして何の得になる。アンナ・ステインローズ伯爵令嬢はすでに我が息子の婚約者だ。龍を従えるなど不可能なチャレンジをするより、息子を利用した方が遥かに簡単だろう」


「そ……それは……!?」


アスラン陛下の言葉にぐぅの音も出ない様子のバカ皇子。まぁ、正直私からしたら、心の底では私の事をどう思ってるか分からない人を操るより、強い者に絶対服従な龍の方が分かりやすくて扱いやすくはあるんだけどね。


「それに……アンナ・ステインローズ伯爵令嬢を国家反逆罪と言うが、貴方の仕出かした事の方が余程国家反逆罪に近いと思うのだが?我が息子の婚約者を攫い、無理矢理自分の物にしようとするなど……場合によってはグランズール帝国とウィンドガル王国の間で戦争が起きていたぞ」


確かに。アリーが連れてかれたら確実にそうなってたでしょうね。バカ皇子はそこまで考えられない程の大バカだったみたいね。


「今回の一件については、アンナ・ステインローズ伯爵令嬢より報告が入っている。貴殿が傭兵団を使い、そこにいるアリー・ステインローズ伯爵令嬢を攫おうとしたのを偶然目撃したアンナ・ステインローズ伯爵令嬢がメイド共に追いかけたが、見つかり、アイアンゴーレム召喚の魔法まで使われ、危険な立場に追い込まれるが、そこにたまたま偶然通りかかった龍が、その騒ぎを見て暴れたくなったのだろうな。次々とアイアンゴーレムを壊して、その余波を受けた傭兵達は全滅。同じく余波を受けた其方から、アリー・ステインローズ伯爵令嬢をメイドと一緒に救出したと」


はい。これが私が作った筋書きです。龍達が目撃されるのはもうどうしようもなかったしね。正直色々な疑問をもたれるかもだけど、これ以外に報告しようがなかったしね。私に聴取をした兵士さんも龍が暴れて私達が無傷なのにすごく不思議そうだったけど、最後には納得してくれた。


「出鱈目だ!?それはその女が出鱈目を言ってるんだ!!?」


はい。その通り。ほぼ出鱈目な報告です。けど、この場に貴方の言葉を信じる人はいませんよ。バカ皇子。


「まだ、そんな事を……アンナ・ステインローズ伯爵令嬢が提出した魔法映写機の記録にはバッチリと其方と傭兵団が繋がってる様子が映し出されているぞ」


「だから……!?それは……!?その女がでっち上げて……!!?」


「提出した魔法映写機の記録だけじゃない。傭兵団も宮廷魔術師の自白魔法により、お前に雇われアリー・ステインローズ伯爵令嬢を攫うように依頼されたと自白したぞ」


「だからそれは……!?全てその女が……!!?」


「見苦しいぞ。バルカス」


すると突然、謁見の間に現れたの1人の執事だった。ん?何でここで執事さんの登場?全員が首を傾げるなか、バルカス皇子が喚く。


「貴様……!兄上に頼まれて雇われただけの執事風情が!?この僕を呼び捨てにするとは!!?」


「やれやれ……声の認識阻害魔法は外したんだからもう分かるはずだろう」


「えっ……声……あっ……!?あぁ……!?貴方は……!?まさか……!!?」


すると、その執事がニヤリと笑い指を鳴らすと、その執事が消え、その場に現れたのは肌の浅黒いかなりのイケメンな青年だ。着てる服が相当な物だと判断出来る。もしかして……この人は……


「リ……!?リチャード兄上ぇ……!!?」


あぁ……やっぱりバカ皇子の関係者か……しかも、バカ皇子の兄って事はもしかして……


「リチャード皇太子。グランズール帝国の次期皇帝陛下と名高いお方ですね〜」


傍に控えていたキョウカがボソリと私にそう説明してくれた。うわぁ……めっちゃ偉い人じゃん……そんな人がわざわざ認識阻害魔法使ってバカ皇子の執事になった理由ってもしかして……


「何故……!?何故リチャード兄上がここに!!?お父様の病気の為!?国で政務を取り仕切ってるはずでは!!?」


「あぁ、アレは全部お前を騙す嘘だ。父上は元気だよ。アレは後100年は生きかねないな」


「なっ!?何故そのような嘘を!!?」


「それはもちろん。お前に最後のチャンスを与えてやったのさ」


「最後の……チャンス……?」


バカ皇子は分からずに首を傾げていたが、私は察してしまった。何故他国のこのような催しに、こんな問題を起こしかねないバカだけを寄越したのかを……


「お前がこのウィンドガル王国建国祭で、皇族らしい振る舞いをすれば、これからもちゃんと皇子として扱うつもりでいた。が、お前は見事にその最後のチャンスを潰したな。他国の婚約者を口説いただけで飽き足らず、その婚約者まで攫おうとするとはな……」


「お待ちください!?リチャード兄上!?これは……!?」


「俺がお前の行いを見ていなかったとでも?」


リチャード皇太子にそう言われ、もはやバカ皇子は何も言えなくなった。そして、リチャード皇太子はアスラン陛下の前に進み出て


「アスラン陛下。このバカの不始末はこちらでケジメをつけたいがよろしいでしょうか?」


「……構わない。貴方達の国の者だ。リチャード皇太子にお任せする」


「ありがとうございます」


リチャード皇太子はアスラン陛下の許可をもらい、恭しくアスラン陛下に一礼すると、今度はバカ皇子を見て


「バルカス……お前はもう皇室とは何ら関係のない人間だ。お前は今日から最下層の住人として暮らすがいい」


「なっ!?お待ちください!?兄上!!?ご慈悲を!!?」


「さっき言った。お前は最早皇室とは何ら関わりがない人間だとな」


これはいわゆる縁切りというやつね。バカ皇子……いやもう皇子じゃないくてただのバカか……そのバカは泣いてリチャード皇太子に縋るも、あっさり払いのけられてしまう。


「おいおい。リチャード。本当にそんな軽い罪でいいのかよ。戦争引き起こしかけた奴だぜ。市中引き回して死罪にするのが妥当だろ」


が、そんなリチャード皇太子の判断に意を唱えたのはライアット様だった。獣人は罪を犯した者に凄く厳しいって聞いたけど、本当にそうみたいね。


「今まで皇室で甘やかされて育ったコイツが、何の身一つだけで何の金銭補助もなく、最下層で生きられると思うか?」


うん。絶対に無理だ。まともに生活すら出来ないだろうな……。


「それに、最下層にはコイツに慰み者にされ、傷をつけられたせいで最下層に落ちるしかなかった女達が沢山いる。我々が手を出さずとも、その女達が喜んでコイツを始末するだろうさ」


リチャード皇太子は軽く溜息をついてそう言った。うわぁ〜……それは普通に死罪にされるよりキツイかも……なんせ、自分が痛めつけた者達に、今度は自分が痛めつけられる訳だし……


「さて、お前達。さっさとそのバカを最下層に送り込んでやれ」


「兄上!?お待ちを!?どうか私にご慈悲を!!?」


リチャード皇太子の護衛の騎士2人に引きずらるように退室するバカ。最後までみっともなく喚いていたけれど、これで完全にバカのひと騒動は終着した。

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