89.触れてはならないモノ

アンナ・ステインローズは未だに怒っていた。


「あぁ〜!やっぱりあのバカ皇子!一発殴りたいわ!」


「バカ皇子じゃなくて、バルカス皇子ですよ。グランズール帝国の第2皇子ですから、殴ったら国際問題になりますよ〜」


キョウカは聞いてないんだろうなぁ〜と思いつつも、やんわりと指摘する。


「はぁ〜……それにしても……なんかあのバカ皇子がバカやらかしそうで心配だわ……やっぱり私がアリーの部屋の見張りを……!」


アンナが部屋を出てアリーの部屋に行きそうになるのをキョウカが前に出て止める。


「ダメですよ〜。お嬢様。アリー様だって一人になりたい時ぐらいありますし、あまり過保護が過ぎて嫌われても知りませんよ〜」


「うぐっ……!?」


アンナは「過保護」と「嫌われる」のワードに反応して思わず足を止める。彼女にも過保護過ぎる自覚はあるのだ。


そうでなくても、キョウカがアンナを止める理由はあった。それは、キョウカはアリーの恋心の芽生えを察していた。

いつものように、アリーがアンナを見つめる時、いつもならお姉様を見守らなきゃという義務感のような視線だったのが、最近はただ、ぼ〜っとまるで恋する乙女が好きな人を見つめるような目でアンナを見ている事が多い。気づいてないのはアンナだけで、ヒエンとレイカもその変化には気づいていた。

なので、今回ライアットに恋心を指摘されたらアリーが動揺しているのを察していたキョウカは、しばらくは一人にさせた方がいいと考えていた。ヒエンとレイカもそれは同様で、だからアリーが退室させる為に言った伝言の命令も素直に聞き入れたのだ。まぁ、正直3人からすれば今までのアレでまだ恋心の自覚がなかった事に驚きなのだが……


「うぅ〜……!でも!やっぱり……!」


「お姉様!ちょっと過保護過ぎです!そんなお姉様は嫌いです!」


「ぐはぁ……!?」


やたらと上手いキョウカのアリーの声マネに、相当な心のダメージを受けたアンナはその場で崩れ落ちる。すると、アリーに伝言という名の一人きりにさせて欲しいという頼みを聞き入れたヒエンとレイカがアンナの部屋にやって来た。


「ちょっ!?ヒエン!?レイカ!?何であなた達がここにいるのよ!?アリーについてなさいってあれ程言ったじゃないの!!?」


「お嬢様に頼まれてアンナ様へ伝言を」


「まぁ、それは建前で、本音は一人になりたいというものでしょうが……」


ヒエンとレイカがこちらに来た事情を説明する。


「伝言なんて明日でもいいわよ!?早く貴方達はアリーの部屋に……」


「お嬢様。女の子は誰だって一人になりたい時はありますよ」


「あまり過保護が過ぎますと嫌われますよ」


「過保護過ぎるお姉様なんて大嫌いです!!」


「ぐはほぉ……!!?」


ヒエンとレイカの指摘に、キョウカのアリーの声マネコンボを食らい、吐血するかのようなダメージをくらうアンナ。

アンナは気分を変える為、ヨロヨロとした足取りのまま窓を開けてベランダに出る。まだ季節は夏だが、夜風は心地よい冷たせで、アンナは受けたダメージが回復していってるような気になっていた。そして、アンナが何気なしに下を見ると、複数の男達が布に巻かれた何かを運んでいた。


それは、チラッと一瞬だったがアンナは見た。布に巻かれていた人物を。アンナの部屋は王城の三階の場所。普通の人間がその人物を認識出来るはずはない。


が、アンナだからこそそれを認識出来た。布に巻かれて運ばれているのが自分の最愛の妹である事に……


だから、アンナは迷う事なく飛び降り地面に着地し男達を追う。


「キョウカ!!!」


「はいはい。ヒエンとレイカにはこの事をアルフ様や国王陛下に伝えてくるように言いましたよ!」


アンナに遅れて飛び降りたキョウカがすぐにアンナに近づいてそう言った。流石は性癖以外は完璧なメイドである。そんなキョウカにアンナはある物を渡す。


「これは最新版の魔法映写機よ。犯行の映像や音声も録音出来るはずだから。これで奴らの犯行の一部始終を撮りなさい。ただし、アイツらに手を出すのは禁止よ。アイツら……私が始末するから」


アンナはそう言ってキョウカのお尻をいつものように叩いたつもりだったのだが……


「ひゃいん……♡かひこまりましたぁん……♡」


物凄く蕩けたような表情になり、腰がビクンビクンと何度も震えてるキョウカを見て、ちょっと強めに叩いてしまったかとも思ったが、すぐにアンナよりも先に行って男達を追いかけていくキョウカを見てすぐに気持ちを切り替える。


アンナ・ステインローズは激怒していた。しかし、あまりの怒りが逆に彼女を冷静にさせていた。


「布にくるまれていたアリーは無傷だった。あの男達は軽装に見えてかなりの武器を持ってたし、動きも素人じゃない。恐らくはそれなりに有名な傭兵団が、誰かに大金で雇われたに違いない……」


あの一瞬の出来事だけで、アンナはそこまで見抜いていた。


「待ってなさい……雇われて行動を起こした奴らも……雇った奴も……みんなまとめて地獄を見せてあげるわ……」


アンナはいつにない冷笑を浮かべてそう言った。


アンナ・ステインローズは激怒していた。そして、男達は触れてはいけないモノ、アンナ・ステインローズの怒りに触れてしまった。


彼らは知る事になるだろう……アンナ・ステインローズという名の地獄を……

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