76.やっぱり色々凄いヴィオル・アスカルド侯爵令嬢

「これは……ヴィオル・アスカルド侯爵令嬢様。ご機嫌麗しゅうございます」


お父様がヴィオル・アスカルド侯爵令嬢に恭しく頭を下げ、それに倣うようにお母様も頭を下げる。

なんだろ……私達は伯爵家で、向こうは侯爵家だから、向こうの方が地位が高いのは確かなんだけど、お父様とお母様の対応が、もっと位の高い人にやる対応に見えるのは私だけだろうか?


「ご機嫌よう。お久しぶりです。ステインローズ伯爵夫妻。今日は仕事で来たので堅苦しいのは無しでお願いします」


ヴィオル・アスカルド侯爵令嬢も流石というべき淑女の礼をして、お父様とお母様に応える。それを受け取ったお父様「左様ですか」と言って朗らかに笑った。


「あなた達も……久しぶりね。夏休みも堪能してるかしら?」


「え……えぇ……まぁ……」


ヴィオル・アスカルド侯爵令嬢は今度は微笑を浮かべて私達を見てそう言ったので、私が代表して曖昧な返事を返す。

だって、仕方ないじゃない。最近知ったとは言え、こんな有名人が登場したら動揺するでしょう。アリーですら固まってるし、ケインやリンクスも同じく固まってるし、カイン王子やヴァン王子やグラン様なんて頰を引きつらせて動揺してるし……って言うかこの三人だけ反応が違うと思うのは私だけかしら?


「えっと……アスカルド侯爵様……」


「ヴィオルでいいわ。アスカルド侯爵家とは会う事があるだろうし……なんだったらヴィオルお姉ちゃんって呼んでも構わないわよ♡」


「……ヴィオル様はこちらには仕事で来られたんですか?」


ヴィオルお姉ちゃんは流石に遠慮させてもらった。若干ヴィオル様は不服そうだったけれど、すぐに元の微笑を浮かべて話し始めた。


「そうなのよ。魔法省の職員としての仕事でね。魔法省には夏休みが無くて本当に困っちゃうわね〜」


と、ヴィオル様は溜息混じりでそう答えた。


「どう思いますか?」


「恐らく、さっさと面倒な仕事は終わらせて、海で遊ぶ気満々だろう……」


「あの水着がそれを物語ってますね……」


カイン王子とヴァン王子とグラン様がヒソヒソとそんな話をしていると、そんな3人に近寄る人物が1人……


「あなた達。何か言ったかしら?」


『いえ!?何も言ってません!!?』


3人は声を揃えて首を横に振って否定の言葉を述べる。それにしても……さっきからこの3人の反応……もしかして……


「カイン王子様方はヴィオル様と昔からのお知り合いなのですか?」


「えぇ……その……まぁ……」


「知り合いというか……」


「どう説明すべきか悩ましいですね……」


3人に私がそう尋ねたら、3人から曖昧な返事が返ってきた。それを見たヴィオル様はやれやれと言わんばかりに溜息をついて、3人の代わりに説明してくれた。


「私は仮にも5大侯爵家の1人ですから、昔からカイン王子様方とは仲良くしていただきいたんです。私が歳上だった事もあって、勉強を教えたりもしましたね」


はぁ……なるほどね〜……グラン様は現宰相の息子で、カイン王子やヴァン王子と幼馴染的な親友だったのは知っていたけれど、ヴィオル様もそうだったのね。


「まぁ……確かに勉強を教わりましたが……」


「正直……厳しいと噂の教育係の指導の方がだいぶマシだったな……」


「私は運動が苦手でしたが、あの指導の後なら、剣の稽古の方が天国でしたね……」


何故か3人は遠い目をしてそんな事を言う。


「何か言ったかしら?」


『いえ!?何でもありません!!?』


ヴィオル様が笑顔で3人を見ると、3人は慌てて姿勢を正してそう応える。

なんとなく、この4人の力関係が分かった気がする……ヴィオル様は噂以上に色々凄い人なのかもしれない。


「ところで……ヴィオル様……」


「ヴィオルお姉ちゃんって呼んでくれても……」


「私が姉と呼ぶのはお姉様ただ1人です。それで、ヴィオル様は先程海には入っては危ないとおっしゃってましたが、その仕事と関係があるのですか?」


アリーにキッパリと断言されて若干涙目になるヴィオル様だったが、すぐに立ち直り、アリーの質問に答える。


「えぇ、そうよ。実は、この海に「クラーケン」の目撃情報が入ったの。私の仕事はその「クラーケン」の退治よ」


あぁ……やっぱり……私の事件が起こる予感は見事に的中した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます