外話.きっしーを偲ぶ会

『かんぱ〜い!!!』


私、牧野陽子はきっしーを偲ぶ会という飲み会に参加していた。参加メンバーはきっしーの同級生達が多数。

正直、故人を偲ぶ会で飲み会をするのは不謹慎と思われるかもしれないけれど、きっしーの性格を考えたら下手に暗くなると気をつかうだろうからと、こんな感じの飲み会になっている。


それにしても……きっしーが亡くなってもう数年が経ったのか……今では私ももう高校を卒業して社会人になり、お酒だって飲める歳になった。けれど、きっしーとの会話のきっかけになっていた乙女ゲームだけはあまりやらなくなってしまった。

別に乙女ゲームオタクを卒業した訳じゃない。社会人生活が忙しいのもあるけれど、どうしても乙女ゲームをプレイすると


「まっきー!聞いて聞いて!今日もヒロインの妹が可愛かったんだよ〜!」


と、嬉しそうに乙女ゲームの攻略対象の推しを語るでなく、妹キャラのヒロインの可愛さについて熱く語るあの娘の姿を思い出して、つい手を止めてしまうのだ。

けど、一応きっしーが好みそうな妹キャラのヒロインが主人公の乙女ゲームはクリアするようにしている。いつか、私もきっしーと同じところに行った時に教えてあげる為に……


「それにしても……桐島にもう一度会いたいなぁ〜……」


そう呟いたこの偲ぶ会男性メンバーの中ではイケメンの男に私はムッとなった。

何故なら、私は知っている。彼のせいできっしーが酷いトラウマ持ちになった事に。普段なら私は黙って聞き流していたんだけど、きっしーの事を考えていたのと、お酒を飲んで若干自制心がなくなっていたせいか、私は黙らずにはいられなかった。


「よくそんな事言えるね。って言うか、あんたよくきっしーを偲ぶ会に参加出来たよね。きっしーにトラウマ植え付けた元凶のくせにさ」


私はジト目で彼を睨みそう言い放った。私のその怒りの言葉を聞いた男性メンバー達は全員「マズい!?」という表情になったが、言われた当の本人はキョトンとしていた。それが、ますます私の怒りに火をつけてると知らずに……


「まぁまぁ!せっかくの桐島の偲ぶ会なんだから喧嘩はなしで穏やかにいこうぜ!な!?」


彼の隣に座っていた眼鏡の子がそう言って場を取りなそうとしてくれたが、一度付いてしまった火は簡単に消せなかった。


「幼稚園の頃!あなたがお化け役できっしーを脅かした時に、きっしーが驚いておねしょしたのを笑ったり!小学生の頃!プールの授業で溺れかけたきっしーをうなぎ犬みたいって笑って、あの子を傷つけたんでしょうが!!」


私はついに爆発して、幼稚園の頃と小学生の頃に彼が犯した過ちを暴露した。眼鏡の男性は「あちゃ〜……」と言って額を抑えていたけれどもう遅い。

本当にあの時彼女を慰めるのは大変だった。幼稚園の頃はまだ大丈夫だったけど、小学生の頃は特に酷かった。初恋の相手に言われただけによほどショックだったんだろう。何も食べずに部屋に引きこもっていたらしい。

なんとか、私達が声をかけ、食べて忘れるように進めて、きっしーは暴食をしたが、元から胃が弱かったのか、きっしーは腹痛を引き起こしてしばらくトイレに籠った。しかも、トイレに籠って間に起きる腹痛が、あの時の事を思い起こされ、涙が止まらなくなったらしく、また更に何も食べずに引きこもった。


結局、彼女を救ったのはその当時放送していた「魔法少女、妹」というアニメだ。そのアニメを見たきっしーは……


「妹って凄いのね!私!いつか!妹を幸せに導けるような人になる!」


と、豪語して立派な妹キャラ好きなオタクになった。立ち直れたのはいいんだけど、なんだかなぁ〜……と思わずにはいられない。まぁ、私はその当時は隠れオタクだったから、きっしーというオタク仲間が増えた喜びが無かった訳じゃないけれど……


「本当本当……あん時は大変だったよねぇ〜……」


「あの娘ってばあんたの事が好きだったから余計に言われて傷ついたっぽいし……」


「きっしーってばその後は徹底してプールのない学校探し回ってたしね〜……」


「うちの近くの中学やめて、わざわざ遠い中学受験したのも進学の為じゃないしね〜……」


その当時の事を知る女子メンバーは次々とそう語る。本当……きっしーって私以外にも女の子の友達に慕われてたのよね……あの娘の纏う雰囲気がそうさせるっていうのか……


そして、私は再び元凶である彼を見てギョッとなる。彼はまるで昔のボクシング漫画のあのシーンみたいに真っ白になっていたのだ。


「そうか……俺……脈まであったってのに……自分でその可能性を……ははは……」


そう呟くと、彼はおもむろに立ち上がり窓を開けた。


「ちょっ!?待て!?お前何をする気だ!!?」


「離せ!!俺は死ぬ!死んで桐島に詫びる!!」


「いや!?ここ一階だから!?飛び降りても死なないからな!!?」


それが分かっていても、何をするか分からないからか、男子メンバーは必死に彼を取り押さえていた。

私は訳が分からず混乱していたが、さっき場をとりなしていた眼鏡の男子に尋ねた。


「ねぇ……これは一体なんなの?」


「あぁ……実はあいつ……桐島の事好きなんだよ。今でもずっと」


「はぁ!?嘘でしょ!?」


眼鏡の男子から告げられる衝撃の事実に私は思わず素っ頓狂な叫びを上げてしまう。


「だって……あいつ……きっしーの事をあんな風に笑って……」


「小さい頃の男には好きな娘ほど虐めたいって言う馬鹿な欲求があるんだよ……」


何故か遠い目をしてそう言う眼鏡の男子。だからって、うなぎ犬はないでしょ……。って言うか……


「きっしー長い事引きこもっていた期間あったじゃない。あの時からきっしーの引きこもりの原因みんな話してたじゃない」


「あれ……結局桐島は酷い風邪を拗らせたって言ったろ」


「はぁ!?まさかそれを信じたって言うの!!?」


「いくらそういう欲求があったとは言え、溺れかけた奴にうなぎ犬なんて言っちゃうお馬鹿さんだぞ」


眼鏡男子の言葉に思わず納得してしまった。けどそれなら……


「何で今の今まで真実を話さなかったのよ?きっしーは特にアイツを避けるようなマネまでしてたってのに……」


「言えないよ……あいつは本当にイケメンだから、何人かの女の子に声をかけられた事だってあるのに、それでも一途に桐島だけを想って、避けられても桐島を好きでいるアイツに残酷な事実を教えるなんて……」


眼鏡男子は男子メンバーに取り押さえられ、退場していく彼を哀れみの視線で見つめながらそう答えた。


これ以降、彼がきっしーを偲ぶ会に足を運ぶ事はなくなった。風の噂だと、未だにきっしーの想いが断ち切れずに、誰とも付き合わず童貞のままだと言う……

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