45.普段怒らないって思ってる人が本気で怒ると怖い

私、ウィンドガル王国の第1王子のカイン・ウィンドガルは呆然とその場で固まってしまっていた。私の教育係が見たら、王族がそんな呆然と突っ立ってはいけませんと諌めるだろうが、正直、今のこの現場を見たらそうなってしまっても無理はないと思う。現に、私と一緒について来た、私の弟に、私の婚約者の義理の弟、私の幼馴染も同じように固まっている。


何故、私達がこのように固まってしまっているのかと言うと、きっかけとしては、ステインローズ家の従者が、私の婚約者の姉が手作りしたらしいサンドウィッチを地面に落とすようなマネをした事が始まりだった。

その瞬間、私の婚約者から今までに見たことがないような怒りのオーラが立ち昇り、私達全員がそのオーラに気づいて後退り固まってしまったのだ。


しかし、その怒りのオーラに気づいていないステインローズの従者達は、私の婚約者の姉から、私の婚約者を守ろう近づこうとするが、その手を、私の婚約者の手で弾かれてしまう。


「貴方達は一体何をしたのですか?」


それは、普段の彼女からは想像も出来ないような冷たい冷たい一言だった。ここにきて、ようやくステインローズ家の従者達は、自分の主人の1人がものすごく激怒しているのに気づいたようである。


「わ……!私達は……!」


「アリー様をお助けしようと……!?」


ステインローズ家の従者達は、彼女の怒りを浴びながらも、必死でしどろもどろに弁明をする。


「助ける?お姉様が私の為に作ってくださった物をダメにしてまうのが?」


しかし、その弁明だけでは彼女の怒りは収まらず、怒りのオーラはますます立ち昇り、声もだんだん冷徹なものになっていく。


「し……しかし……!あの方は……!アリー様を疎んでいらっしゃいますので……!!」


「そんなくだらない噂を鵜呑みにしてお姉様が作ってくださった物をダメにしたと言うんですかッ!!!」


ステインローズ家の従者達の言い訳に、ついに彼女は声を荒げて、怒りをぶつけた。その彼女の怒りに、恐怖で足が竦み、何も言えなくなってしまうステインローズ家の従者達。

そしてそれは、私達も同じだった。一歩間違えたら私達があそこにいる従者達と同じ目にあってたかもしれないからだ。私達も、あの従者達と同じ考えを抱き、あのサンドウィッチを破棄しなくてはと思い行動しようとしたが、それを私の弟のヴァンが止めてくれたのだ。もし、ヴァンが止めていなかったらと思うと背筋がゾッとする。


しかし、彼女が自分の姉を敬愛していたのは分かっていた。私達と話をしている時も、話す事の大半……いや8割が姉の話であった。だから、彼女は姉を害したら決して許しはしないだろうと思っていたが、まさかここまでとは……


「アリー。おやめなさい」


と、そんな彼女の怒りをおさめたのは、彼女の姉であった。私達も驚いたが、彼女はもっと驚いたのか、先程までの怒りのオーラが完全に消え去っていた。


「お姉様!?ですが!この者達は……!?」


「彼らは何も悪くないわ。彼らは彼らの仕事をしただけよ。今回は私が考えなしだったのが悪いのよ」


彼女は姉の言葉に更に何か言おうとするも、彼女の姉は、それ以上は聞く気はないと、今度はステインローズ家の従者達の方を向く。


「あなた達はすぐに屋敷に戻りなさい。本当はあなた達にアリーを屋敷まで送りとどけてほしいけれど、それは難しそうだし……代わりに……」


彼女の姉は今度は私達がいる方に振り向いた。思わず私達はドキッとなった。まさか……!?気づかれていたのか……!?


「カイン王子!ヴァン王子!グラン様!ケイン!そこにいらっしゃいますよね?アリーを屋敷まで送ってください!」


どうやら本当に気づいていたようである。私達はバツの悪い表情を浮かべて出て、彼女の姉に言われた通り、彼女の傍まで歩み寄る。


「私はちょっと野暮用を済ませてから屋敷に戻ります。皆様。御機嫌よう」


そう言って、彼女の姉は淑女のポーズをしてその場を立ち去って行った。残された私達はしばらく固まっていたが、とにかく、言われた通り彼女を屋敷まで送りとどけようと思ったところで気づく。


いつのまにか、彼女と私の弟のヴァンがこの場にいなくなっていた……

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