24.契約婚約(ヴァン王子視点)

俺はあの時、一目見た瞬間に恋に落ちた。自分の双子の兄で、自分よりも王としての才覚を持った兄が、同じ人に惚れてると分かっていながらも……俺の心は……彼女一色に染め上げられていた。


誕生パーティーから数日、俺と双子の兄のカインにはついに婚約者があてがわれた。双子の兄には、俺が一目惚れしたあの娘だ。

そして、俺にはあの娘の双子の姉を……恐らく、ステインローズ伯爵夫妻は、俺の父さんや母さんと親しい間柄らしいから、双子の妹だけ贔屓したらマズイと判断したからだろう。


しかし、正直言えば双子の姉の方はあまり俺の印象にない。俺があの娘ばかりを見ていたせいもあるが……それに、妹への劣等感を抱いていて、妹を毛嫌いしているという噂まである。正直厄介すぎる相手だ。


だが、俺は……このまま気持ちを引きずったまま婚約関係を築いていたら、2人の娘にたいして失礼だと判断し、俺は彼女の姉を呼び出して、婚約を解消してもらえるように頼んだ。

果たしてその反応は……詰め寄られるか……殴られるか……どっちにしろ覚悟を決めて彼女を見た。


が、彼女の反応は無だった。いや、正確に言うと無表情という訳ではないが、真顔でひたらすら何か考えこんでる様子であった。まさか、ショックで固まったとかか?と思い、もう一度声をかけたら、ようやく俺の存在に気づいたかのような顔をして、何故婚約を解消したいのかの理由を聞いてきた。


まぁ、その質問は当然だろうな。俺は好きな人がいるからと素直に答えた。


「その好きな人は私の妹ですか?」


今度はその相手が自分の妹であるか問うてきた。俺はそれを沈黙で返した。彼女が妹を嫌っているのなら、それは言うべきでないと判断したからだ。


が、彼女なんともアッサリと婚約解消を受け入れてくれた。あまりにもアッサリな態度にかなり驚いたが、ただし、それは条件付きという話になり思わず身構えた。今度こそ殴られるか……慰謝料を請求されるか……どっちに転んでも受け入れようと覚悟をした。


が、これまた予想外な条件で、「リリカルスクールに通う一年間までの間は婚約関係を継続してほしい」という条件だった。何故期間を設けるのか?気になって俺がそれを聞いてみると……


「妹は可愛いですよね」


「はぁ?」


いきなりとんでもない発言をされ、思わず固まってしまった。しかも、そこからやたらと妹がいかに可愛いかの語りが始まったので、慌てて俺は止めに入った。これは長く続くと判断したからである。

しかし、聞いていた話と全く違うな……彼女は妹を……あの娘を毛嫌いしていたのでは?むしろこれは……かなり溺愛してるのではないだろうか……


そんな俺の疑問に彼女は淡々と答えた。


曰く、その噂を流したのは自分であり、その理由が妹を毛嫌いしてると思われてる自分を利用しようとして、妹を害する者を成敗する為らしい。

それで、俺との婚約関係を継続したいのもそれの延長線上で、ようは、俺が婚約者ではなく、彼女ばかりに目がいってる姿を見れば、彼女が流布した噂の信憑性がますます高まるからというものだった。


正直……なんとも末恐ろしい女だと思った。妹を守る為なら、自分がキズモノとし罵られても構わないと断言し、もし、妹を害するなら王族すら許さないとも断言した。その目はかなり本気だった。


俺はしばらく考えた。この提案を受けるべきかどうかを。正直、破格な条件ではある。あくまでその期間の間だけ婚約関係を継続すればいいし、その間に、彼女にアタックするのも、彼女の姉である目の前にいる彼女は気にしないだろう。まぁ、妹を害するような事をしたら即粛清されるだろうが……


それに、なんとなくだが目の前の彼女をもう少し知りたいという興味もわいてきた。よって、俺は彼女の提案を受け入れた。

すると、彼女はニッコリ笑って、どこから取り出したのか契約書を取り出し、それにサインするように促してきた。俺は若干呆れたものの、彼女の意に従いサインした。


こうして、俺とアンナ=ステインローズとの契約婚約が成立した。

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