15-7 抵抗
考えるほど、この場にいる異物の存在が、偶然とは思えなくなってくる。
ライナルトは、疑わしく思っていることを隠しもせず、ルーヴェンスの方に目を向けた。
そもそもルーヴェンスは、
魔術に対する独特な思想からしても、一般民と利害関係でつながっている可能性は排除できない。
「何やら疑われているようだがね。私がこの場に居合わせたのは、単なる運の悪い偶然だ」
「……そうだといいがな」
ルーヴェンスの言葉の真偽を確かめている暇はなかった。支部内の他の空間が無事であるか、確かめなければならない。
もちろん、最悪の事態も、想定に入れて。杖を握るワルターの拳をなでてから、ライナルトは力なく立ち上がった。
◆
エントランスから廊下へ。広間を通り抜け、廊下空間を挟み、部屋から廊下へ、廊下からまた部屋へ。
ライナルトは、ウィリアムを連れ、支部の奥深くに設置されているタンクを目指す――ものの、その道のりは楽なものではなかった。
ひとつ先に進もうとするごとに、外部からの操作を拒む転移魔術をいじらなければならない。魔術を稼働させるために必要な魔力もばかにならなかった。
単純な肉体の疲弊に、気の狂わんばかりの現実が追い打ちをかける。
孤立し、無防備になった空間に取り残された支部員たちは、ただ困惑していることもあったが、戦いのさなかにいることも、すでに傷つき、あるいはこと切れていたこともあった。
敵はやはり、手当たり次第に魔術師を探しているのではない。何らかの根拠をして、支部に属する空間がその場所にあると知ったうえで攻撃してきている。
そうであれば、なおさら、タンクの復旧を急がなければならない。だがそれは、傷ついた兄弟たちを、一時的とはいえ見放すことを意味していた。
ライナルトが姿を見せると、兄弟たちは一様に、安堵したような顔をする。そんな彼らに、絶望的な状況で、ただ耐えることを強いるしかなかった。
いつからか、靴底が地面に貼りつく感触がしている。
どこかで踏んだ血が、主の体から離れまいとするように、ライナルトの歩みにささやかな抵抗をしているのだった。
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