14-5 橙
今にももろく崩れそうな自分自身を、自身にとっての〈当たり前〉を守ろうとするウィリアムの心が、理性を差し置いて、うめきを漏らす。
「……魔術がなくなったら、いやだ」
魔術が生まれて以来、都社会は大きく変化したという。
けれども、物心ついてからずっとフラメリア支部で暮らしてきたウィリアムには、社会というものがよくわからなかった。
支部を包む、大きくて重い何か。そこにはおそろしい一般民がいて、兄弟以外の多くの魔術師たちがいて、それぞれの欲望で支部をぎゅうぎゅうと締めつけてくる――それが、ウィリアムの思う〈都社会〉だった。
だから、社会がどうのと聞かれたところで、ウィリアムには答えようがない。
ただ、魔術はウィリアムにとってかけがえのないものだ。ウィリアムだけでなく、
「一般民、君たちの言う
ルーヴェンスの続く問いに、ウィリアムは言葉を詰まらせ、彼を睨んだ。
この問いへの答えは、魔術師であるなら迷うべくもない。
「そんなの、決まってる。僕は、僕たちは――」
そのときだった。ふっと、壁の明かりが消える。
視界が闇に閉ざされると同時に女の悲鳴を聞いたウィリアムは、すぐに簡単なルーン列を唱え、杖先に明かりを灯した。
そうして、声のした方へと歩み寄り、そこに囚われた女たちを目にすると、ぎょっとして声を上げる。
「
「知らなかったのかね?」
「だって……こんなの、誰も認めるわけないよ。
――カーン、カーン、カーン!
それぞれに音階の違う鐘を、続けて三度、打ち鳴らす音。どこかで聞いたようなメロディーに、ウィリアムは弾かれるように顔を上げる。
隠し扉の向こう、エントランスの方からだ。
隠し扉の方へと走り寄り、はしごを登り、隠し扉の向こうに顔を出したウィリアムは……驚きのあまり、目をこすった。
そこにあったのは、ワルターのいるエントランスではなかった。
薄暗く、狭い空間。左右には荷箱が積まれている。目の前は、カーテンに覆われた壁だ。視線をやや上に向ければ、カーテンを透かして、橙色の光がにじんでいるのが見える。
カーテンを少し手前に手繰れば、窓枠に区切られた橙色の光が、壁とカーテンとで形づくられた空間に満ち満ちた。
ウィリアムは、惹きつけられるように、かがやく窓を覗き込む。
浮遊ランタンの群れ――この七年間、一度も見ることのできなかった
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