8-3 未熟な支部長
「話せそうなら、話してくれ。カキドが、どうした?」
「いないんだ、どこにも! 今朝から、誰もあいつの姿を見てない。昨晩出たっきり、帰ってないのかもしれない。多分、俺のせいだ。あいつは……」
ジェラールが言い終える前に、ライナルトが、取り乱したジェラールを抱きしめる。
体がしっかりと触れ合うと、二人の精神も、深いところで『共鳴』した。
ライナルトの心が、ジェラールの痛みの一部を引き受け、なだめる手助けをしてくれる。しだいに、ジェラールの気持ちも落ち着いていく。
「……悪い、ライナルト。助かった」
ジェラールが謝ると、ライナルトは〈気にしていない〉と言うように微笑み、ジェラールの頭をなでた。
ジェラールは、分厚い掌が自分の髪をくしゃくしゃに乱すのを、苦笑いで受け入れる。
十七になっても、カキドやライナルトのジェラールへの態度は、昔とそれほど変わらない。彼らにとっては、ジェラールはいつまでも〈かわいい弟分〉なのだ。
実際、ジェラールはまだ、魔術師としては未熟だ。周りの評価にかかわらず、誰より、ジェラール自身がそう思っていた。
〈魔術師に大事なものは、集中力と冷静さ〉――キースの教えを忘れ、取り乱した後には、その自覚がことさら強くなる。
「カキドが見当たらない。それについて、思い当たる節がある……と。お前が探し回っているということは、執務室にも来ていないんだな」
「ああ。昼まで待ったが、来なかった」
「昼まで待った? 食事は取ったろうな」
ジェラールは、ばつの悪さに、ライナルトから目を背ける。対するライナルトは、ジェラールを叱る代わりに、大きなため息をこぼした。
「……お前は昔から、夢中になると、そればかりだからな。カキドを見つけるのが先か、倒れるのが先か、わかったものじゃない」
魔術の修練に夢中になって休息を忘れ、資料の山に埋もれたまま気を失ったジェラールを、ライナルトは何度となくベッドに運んできた。そんな彼が言うのだから、やけに説得力がある。
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