7-4 調査要請

 『灰の霧』だけではない。『空の破片』についても、現時点でわかっていることはあまりに少なかった。



 『空の破片』について、樹の都アルベリア本部は、各支部から調査隊を編成し、正体の解明に努めるよう求めていた。


 しかし、火の都フラメリア支部には、実益に結びつかない調査をしている余裕などなかった。

 最低限の人員で、かつ一般民に気づかれないよう調査を行うとなれば、支部で得られる情報も、ごくわずかにとどまることだろう。


 樹の都アルベリア本部が、各支部から集まった情報を開示するとも限らないのもあって、ジェラールは本部の要請に応じなかった。



 他支部は、それぞれに本部の要請に応じたらしい。すると、魔術師連合の内で最も『空の破片』に関する情報を持っていないのは、火の都フラメリア支部だということになる。


 ジェラールはそれをどうとも思っていなかった――支部員の生活には関わりがなかったため――が、拠点を一歩出たところまでその脅威が迫っているとなると、まったく放置してもいられない話だ。


「カキド、『空の破片』って見たことあるか」


「もちろん。最近じゃ、どこででも見られるよ。怖がって、誰も近づこうとしないけど。青くて、透き通ってて、近くで見ると巨大な宝石みたいだよ。風が吹くと、表面が液体みたいに波立つんだ」


 〈液体があんなふうに形を保てるはずがないから、魔術的な力を持ってるものなんだろうね〉――カキドが付けくわえた一言に、ジェラールはぴんと来るものを感じた。



 火の都フラメリアは、他の都に比べて、魔術的資源に乏しい。


 例外である宝石も、一般民が採掘し、多くを他の都に輸出してしまうため、支部にはまるで回ってこない。質の悪いくず石を大事に使わなければならないのも、そのせいだ。

 当然、新たなタンクを見つけるのも簡単ではない。


 だが、『空の破片』なら、火の都フラメリアにもある。一つ一つが巨大な上に、いくつも存在するのだ。

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