6-8 いつかの未来

 例えば、火の都フラメリア支部のタンクが本部にとって価値のあるものだったとして、キースがタンクのことを樹の都アルベリア本部に報告していなかったとしたら。


 本部への調査委託後、タンクが差し押さえられたとしても、支部としては言い訳のしようもないわけだ。


「内密に進めようにも、樹の都アルベリアでこそこそしてたら、本部に気づかれないはずがないし……。ったく、なんでキースは――」


 そこまで言ったところで、ジェラールは、はっとして口をつぐんだ。

 リャンの前でキースの名を出して、良かったものか? 


「本部に借りを作ると、後が面倒だ。新たなタンクを探すことを考えた方がいい」


 リャンは、変わらず平然としたまま、そう言った。


 応答がしっかりしている上に、多少のことでは取り乱さない――今日の彼は、本当に調子がいいらしい。ひどい時には、会話さえままならないというのに。



 ジェラールは、久しぶりに普通に話ができるのではないかと期待しながら、リャンの提案に口を挟む。


「でもよ、あんなに大きいのはそうそう見つからないと思うぜ。火の都フラメリア内でも、拠点の外では自由に探しものができるわけじゃないだろ」


「今の支部に、あれほどのタンクは不要だ」


 リャンの答えに、ジェラールは眉尻を下げた。

 

 今の支部に、大きなタンクは必要ない。改めて言われずとも、わかっていることだ。

 だが、新たに小さなタンクが用意できたとして、そのタンクがいつまで支部を支えられるだろうか。ジェラールの目には、〈その未来〉がすでに映っていた。


「……なあ、リャン。この支部は、これからまた大きくなっていくんだ。いつかはきっと、キースがいたころみたいになる。俺がそうしてみせるよ。そのために俺は――」


 リャンの顔を見やったところで、ジェラールの言葉が途切れる。

 リャンと瞬間、ジェラールの内側に、耐えがたい感情の波が押し寄せてきたのだった。

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