6-4 最後の患者
ジェラールはこれまで、二日に一度程度の頻度で、リャンの元を訪れていた。これは、リャンを案じているためだけではなかった。
ジェラールは、体の一部に、不安定な箇所を抱えていた。こまめにリャンに診てもらわなければ、それらに不調をきたしかねない。
〈
ブーツを脱ぎ、長ズボンの裾をまくり上げたジェラールは、むき出しの右足をリャンに委ねる。
リャンは、安楽椅子に浅くかけ直してから、ジェラールの右足を持ち上げ、ルーン列を唱えた。リャンの大きな手のひらが、うっすらと青い光を放つ。
青く光る手が自分の右足をなで、具合を確かめる様子を、ジェラールはじっと見つめていた。
治癒術師は、他の魔術師が使わないような魔術を扱う専門職だ。彼らの技は、門外漢であるジェラールの目には、とても興味深く映るのだった。
加えて、現在のリャンが患者として受け入れるのは、ジェラールだけだ。
彼がジェラールを診ているときは、彼の治癒術師らしいところが覗える、数少ない機会でもあった。
少しして、リャンがジェラールの右足から手を離すと、その手に宿っていた光も消えていく。
リャンは、無言のまま、ジェラールの足を床に下ろした。彼が何も言わないということは、特に気になるところはなかった、ということだ。
「痛みは?」
リャンが問いかける。
ジェラールは、執務室にこもっていた間のことを思い返しながら答えた。
「最近は大丈夫だ。もらった痛み止めも、もう使ってない」
「そうか。目の方は」
続けざまに投げかけられた質問に、ジェラールは思わず、左目に手をやる。
そこには異物が――異物であることを忘れていたほどに、違和感なく――埋まっていた。
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