6-2 魔石

 編みかごの中には、ジェラールが執務室で使っている明かり――魔術を込めた石、『魔石』の元となる、魔術と相性のいいくず石が積み上げられている。



 ジェラールは、かごの中のくず石を二つ拾い上げると、それらを打ち合わせた。

 片方のくず石が割れ、真っ二つになると、割れ目から光がこぼれ出す。とはいえ、魔術のこめられていないくず石の光は弱く、手元を照らすのが限界だ。


 ジェラールは、ルーン列を唱え、くず石に明かりの魔術を込めた。くず石は魔石となり、放つ光も、周囲を淡く照らせる程度に大きくなる。



 この暗がりでは、光の属性を持つ妖精を集めることが難しい。本来は光の妖精のみを使うところを、火の妖精で補ったせいで、魔石はわずかに発熱していた。


 ジェラールは、魔石を手のひらで転がし、その独特な温かさを楽しみながら、薄ぼんやりと照らされた周囲を見回す。

 


 左側には、大きな薬棚がそびえていた。

 低い天井と天板を一体化させた薬棚は、そう広くない部屋をコの字型に区切る壁ともなっている。

 ジェラールのいる入り口付近は、コの字の一端だ。


 薬棚の前面には、小さな引き出しが隙間なく配置されている。それら全てに、薬草の葉や種、あるいは小瓶に封じられた何かの液体、はたまた見分けのつかない粉などが、何百種類と収められていた。


 引き出しの一つ一つに彫り込まれた番号は、目の見えないリャンが、それらを見分けるために彫ったものだ。



 右側の壁を見れば、干した薬草らしきものが吊り下げられている。その足元に、薬を作るための道具が、背の低い棚にまとめて並べられていた。



 火の都フラメリア支部養護部長であり、支部随一の治癒術師、リャン。


 彼は、魔術と薬学を組み合わせ、治癒魔術の効力をより高める技に関して言えば、都世界にも十人といない技術の持ち主だった。

 あちこちを渡り歩いていたキースがそう評したのだから、間違いないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る