3-17 外界

「ジェロア、後でウィリアムに声をかけてやってくれ。ああ見えて、あいつはなかなか立ち直りが早い。お前の励ましがあれば、すぐに元気を取りもどすだろう」


「ああ。執務室からの外出許可が続けば、な。カキド、外はどうなんだ?」


 ジェラールの問いに、カキドは、くわえていたスプーンを口でもてあそびながら、器用にも返事をする。


「んー……。まあ、良くはないね。と言っても、火の都フラメリアの状況が魔術師にとって良かったことなんてないじゃない? 『緋の轍』の動向がちょっと気になるけど、今のところ、食料の方も問題なさそうだし……」


 彼女は少し言いよどんでから、「僕が、ジェロアを執務室から出してあげてもいいかな、と思える程度」と締めくくった。



 火の都フラメリア支部の食料や物資の仕入れは、カキドが中心になって行っている。


 支部拠点と外部との橋渡し役であるカキドは、外部の者――商魂たくましい一般民や、連合属でない魔術師も含まれるかもしれない――とのやり取りを通じ、食料を入手するためのパイプを作り上げていた。


 この七年間、外界から隔絶された火の都フラメリア支部の者たちが飢え死にせずに済んだのは、まったくカキドの手腕のおかげだった。



 カキドは、火の都フラメリア支部の誰より外界を知っている。

 その彼女が、支部を取りまく状況を良いとも悪いとも言い切らないのは、〈一般民も一枚岩ではない〉ことを示唆しているようで、ジェラールは眉をひそめる。


「それなら安全じゃないか。よかったな、ジェロア」


 ライナルトの方は、カキドの言葉を額面通りに受け取っていた。

 カキドの心配性は、ライナルトもよく知っている。そのカキドが出てもいいと言うならそうなのだろう――というのが、ライナルトの見解のようだ。

 

 カキドは、ライナルトに共感するように微笑んでみせた。しかし、その微笑みはすぐ憂鬱な色に塗り替えられてしまう。


「言っておくけど、僕が心配なのは別のところなんだよね。そりゃあ、この拠点だって人の出入りが激しい場所じゃないよ? だけどさ、それにしても気が抜けすぎっていうか――」

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