3-16 コンプレックス
ウィリアムも、
ただ、十をいくつか超えていることは確かだ。
いつ〈月の夢〉を見てもおかしくないはずだが、いまだ、ウィリアムに
ウィリアム自身が気に病んでいたことを、あのワルターに指摘されて、どれほどみじめだっただろうか。
そうでなくとも、ウィリアムの気性からして、努力で補えない弱みほど情けない気持ちにさせられるものはないだろう。
今回だけでなく、ウィリアムとワルターの間には、何かとトラブルが多い。
班の編制を変えさせるのは、ジェラールの立場なら難しくないことだ。ウィリアムをワルターと引き離すよう、ライナルトに一声かければいい。
だが、当のウィリアムが、それを良しとしないだろう。
ワルターの規則違反を軽蔑するウィリアムには、ジェラールに親しいことを利用して班編制を変えるなんて、卑怯なやり方に思えるに違いない。
ジェラール同様、ウィリアムの悩みを知るライナルトが班の再編を言い出さないのも、ジェラールと同じ理由だった。
「ウィリアムには頭が固いところがあるから、してやれることにも限りがある。ワルターとの関係は、あいつ自身の力で変えていくしかないだろう。班付きの指導員には注意しておくよう伝えておくが、できることと言えばそれくらいだ」
「真面目な上、正義感が強すぎて損をするタイプだよね。ああいう子、からかい甲斐があって僕は好きだけど」
カキドの正直な意見に、ライナルトが苦笑いをする。
似たような理由でカキドにからかわれてきたライナルトには、ウィリアムの苦労が容易に想像できるのだった。
「あの負けん気の強さと熱心さがあれば、いずれ、下位魔術師の枠に囚われない優秀な魔術師になるだろう。その時は、ぜひ指導員として活躍してほしいものだ」
ライナルトの言葉に、ジェラールがにやりとする。ジェラールもまた、ウィリアムの困ったところを〈素質〉として好意的に受け止めていた。
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