No.6-9

「おーい」

 そう聞こえた。下から確かに、人の声がした。

「……死んでるのか?」

 私は答えた。

「いや。今ちょっと、動けないの」

 そう言いながら私は何とかしてその場から動こうと身体を動かす……すると、絡まっていた弦が解けて、私は地面へと落ちた。

「おい。大丈夫か、お前」

 恐らく声の主であったであろう兵士――不思議と、その顔には何か既視感を覚えた――は、呆けたような表情で私をじっと見つめている。

「ああうん。大丈夫です。きっと大丈夫です……ほら、欠けるところ一つないじゃないですか」

「……お前、自分の左手がどうなっているのか分からないのか?」

「え? なんかそんな……ああ、これは」

 言われて私は左手を見たが、中指は節目から完全に、そうあってはならない方向へ曲がり、薬指はほぼ取れかかっていた。

「それ、痛くないのか?」

「うん。私は、そんなに……あ、もしかして普通これって痛いのかな?」

「痛いだろうな……」

「そっかぁ」

 私が言うと、兵士は黙って私の方を、何か憐れむような目でじっと見つめてくる。

「……なあ、航空兵ってみなこうなのか?」

「分かんない。私、航空兵としか話したことないから。でもきっと、多分、そうなんじゃないかなって」

「……そうか」

 そう言ったきり、その兵士は黙り込んでしまった。

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