No.5-37
挙がったその二つの手は対照的な印象があるように思えた。
一人は、あの眼帯をつけた兵士シルヴィア・レインの運転手で、その手は土による汚れや爪の黒ずみがない、綺麗なものだった。
もう一人は、私の知らない兵士。その兵士は指が不揃いに欠けている。
エダ軍曹は言った。
「イヴ・リヴィングストン及び、アンネ・スカーシュゴード両名……この際、階級は問わない。問題はこの任務の本質である」
エダ軍曹は腕を組み、二人をじっと見た。まるで二人を睨むかのように、じっと。
運転手をやっていた兵士は、言った。
「僭越ながら申し上げます。この任務に耐えるだけの運転技術を持つのは、私以外に居ないでしょう」
「無論だ。私も十全にそれを理解している。しかし、君がマトモな身体をしていられるのはきっとそれが最後だ。いいのか?」
「それこそ、無論です。軍曹」
エダ軍曹は腕を組んだまま、瞼を閉じた。
もう一人の兵士が言った。
「わ、わわ私以外に、この任務をこなせる者はい、いいいいません!」
「何故だ。述べ給え、アンネ一等兵」
「だ、だだだ誰かがこれをやらねばならぬと言うのなら、今わ、わ私にその順番が回ってきたのだと。私は信じています!」
「……そうか。君達は……」
エダ軍曹は何かを言いかけた。けれどもそれは口に出されなかった。
「諸君、作戦の準備を……敬礼も復唱もなくていい。始めてくれ……十二時間以内に作戦を開始する」
一人の兵士が言った。
「作戦名は?」
エダ軍曹は即答した。
「『チェリーブロッサム』だ」
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