No.5-28

 日が落ち、ポイントPが夜の闇に包まれるまでの間、敵は来ず、私はスコープを覗き込んだまま眠りに落ちていた。

私を微睡みの中から引きずり出したのは、サリー・レーンだった。

「おはようアキヤマちゃん。敵っすよ。左に斥候兵。多分三人ぐらいっす……慎重に、一人を負傷させるっす。位置がバレないように。対物ライフルじゃ良くないっすね。狙撃銃の方でお願い」

「はい……目標視認」

 姿形がはっきりと見えたわけではない。だが、動く何かを目にしたことだけは確かだ。この際、それは都合が良かった。相手を負傷させればいいのであれば、急所でない何処かしらに弾が当たりさえすればいいのである。

私は引き金を引いた。

「命中確認。処女切るには上出来っすよ……一人が離脱を図ってる。生かして帰すな」

「確認。撃ちます」

 二発目の弾丸が放たれた。

「次、最後の一人っす」

 三発目。

「ここまで全弾命中! 斥候の未帰還を連中が判断するまでの時間を考えれば、一時間以内に敵が何らかの動作をを起こす。多分次は装甲車っすよ」

「……狙撃手の領分なんですか?」

「残念ながら今の私達が頼りに出来るのはアキヤマちゃんのデカブツだけっす。戦車が来たら逃げる準備しなきゃいけないかもしれないっすねえ」

「航空援護、砲兵火力支援……せめて対戦車ミサイル」

「贅沢はいいっこなしっすよ。ないもんはない。敵が主戦場からこちらへ戦車を持ってきたらそこで私達の勝ちなんすよ」

「で、そうなったらどう逃げるんです?」

 無線越しにサリー・レーンは笑う。

「あはは。その時に考える他ないんじゃないっすかね」

「冗談がきつい」

「冗談じゃないんすけどね」

 そうして、私の長い長い初夜は始まりを告げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る