No.5 サリー・レーン、メグミ・トーゴー、アリア・クーベルタン

No.5-1

 かつ。

かつ。

かつ。

かつ……。

軍服姿の二人の女性が廊下を歩いている。

「レディが二人も来るというのに迎えの一つもよこさんとは。全く、ここは粗忽者の集まりだ」

「無理もないでしょう。ここ半年の彼等を考えれば、思考が煮詰まってきて周囲に気を使う余裕さえなくなっているでしょうから」

 かつ。

かつ。

かつ。

かつ……。

小柄な東洋人の女性……いや、少女と言う方がこの場合は正しいであろう。その少女に対して、もう一人の……こちらは西洋人らしい見た目をしていて、背筋はすっと通っており、少女よりもずっと背が高い。少女と彼女には30cm以上の差がある。しかし、それとは裏腹に、彼女と少女の関係性は従者と主人のそれであった。

「ふふ、ふふふふふ……連中はどうしようもない奴らだ。そのへんにいるロクデナシだって自らの無能ぐらいは自覚することが出来るだろう。彼等はそれさえ出来ない」

「無能には無能なりの作法がある。そう、仰有りたいわけですね。閣下?」

 かつ。

かつ。

かつ。

かつ……。

廊下を歩く二人を見て、他の職員はそれを訝しんだ。ここはハイスクールではない。ここは、今も尚遂行されつつある某国家との戦争を遂行するために設けられた、当戦役の最高司令部なのである。

道行く二人を見て、ある一人の職員が声をかけた。

「君たちはそこで何をしているんだね」

 含みのあるその言葉に対し、少女は言い返す。その顔に無邪気な笑みを浮かべながら。

「今!

今ここで、この場所で……『何をしているか』だって?

全くお笑いだ。そうは思わんかね?」

 そのあまりに尊大な言い回しに、その職員は眉をひそめる。傍らの女性は言った。

「……あなたがどう思われているかは分かりませんし、どう思われても私達は問題ないのです。ただ明白な事実をあなたにお告げしようと思うのですが……階級章をご覧下さい。それこそが真実です」

 そう言われて職員は初めて彼女らが軍人であるということを認識した。そして、少女らしき人物の階級章を見て、職員は驚愕した。

「……少将」

 つぶやくようにそう言った後、職員は自身の無礼さを理解し、絶句する。

少女は言った。否、大見得を切った……という方がこの場合は正しいであろう。何であれ少女のその動作は舞台役者さながらで、その言葉は淀みなく饒舌に吐き出されていった。

「一度目だ。大目に見ようじゃないか。よく覚えておくと良い。今後、この司令部では私の姿を幾度となく目にするであろうから……私はメグミ。メグミ・トーゴーだ。多国籍陸軍少将。メグミ・トーゴー。この名前を、よく覚えておくが良い」

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