No.4-13

 薄ら笑いの男が言った通り、別の研究員にエダの居場所を聞くと、すんなりとその場所を教えてくれた。

ただ、答えてくれた人のその表情には何か侮蔑と畏怖とが入り混じったような感じがあって、私はそれが気になるのだった。

彼女は……エダは地下の部屋に居た。

生命維持装置をつけられ、実験上許される範囲での治療が施された彼女の様相は、戦場で見られる最悪の事例の、その数歩前で留まったような、そんな状態だった。

銃撃や切り裂くような動作を行わない衝撃実験でありながら、包帯が巻かれた胴体に血が滲む箇所がいくつか存在する、ということは、打撃によって骨が折れ、骨断面が露出したことを表している。

そして、私が一回目に出した指示――私が意識を失う直前の――を出した時には、肋骨と胸骨を折るという指示を出したはずであるが、それだけに留まらず、太ももや腕にも処置が施されていることから、頸部や頭部、鳩尾のような急所を除いたほぼ全てが打撃の対象になったということが分かる。

彼女はどうやら気を失っているようで、眠っている時と同じく、目をつぶっているが、時折、骨折箇所が痛むのか、小さくうめき声を吐いて顔を歪めている。

その様子を見ていて、私は自然と涙をこぼした。けれども、すぐさまそれを拭った。その涙の原因は分かっても、それを流すに足るだけの誠実さが私には欠けているからであった。

この実験をやると決めたのは、私だ。勿論、このような非人道的な、倫理的問題のある実験をこの会社が繰り返し行ってきていて、その順番が私に回ってきたのだという事実は存在していても、最後にそれを、この実験を実行することを決めたのは、他でもない私なのである。

彼女は私の決断、私の意志でもって、今こうして痛めつけられている……そうなるだけの必然性を欠いた状態で。戦場に居るわけでもないのに、彼女は傷付けられている。

彼女が、エダが傷付けられている。

その事実を脳裏で反復するたびに、強烈な自己嫌悪と悲しみの波が私を包み込む。しかし同時に、私の中にいる誰かが、こう言うのだ。

『お前に何故、悲しむ権利が存在するのだ?』

 そう自問自答する、その声の主もまた私なのだ。

『お前の出した指示に全員が従った。事実はそれだけだ。彼女に、エダに直接手を下したのは君でなくとも、彼女を傷付け、このような状態に仕立て上げたのは、他でもない君の意志だ。そうではないのかい?』

 その通りだ。その通り。だから私は、お前に返す言葉を一つも持たない。

『そうか、そうか。殊勝な心がけだね。けれども忘れちゃいけないことが一つある』

 なんですか。これ以上何か、私に言いたいことがあるのですか。

『あるね。おおありだ……君はまだ、小狡い手段でもって逃避をしているという事実について、君は自分で理解をしなければならない』

 それは、どういうこと?

『……』

 何故答えないの。ねえ……。

声の主は何処かへと消え去っていった。ただ一人残された私には、困惑の感情だけが残った。

そこで一つ、私は気が付いたことがある。私がエダの居場所を聞いた時に、彼等が浮かべたその表情とはつまり、一線を越えた私に対する侮蔑の意識、そのものだったのである。

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