十六歳のわたし第14話
絶句された。
まあ、絶句、されるとは、思った。
わたしも言ってから、顔が爆発したんじゃないかと思うぐらい熱くなったし、結局涙が出てきたわ。
顔を覆う。
出てきた涙を必死に袖で拭った。
い、言ってしまった。
いや、こ、後悔したくないって、思ったんだもん!
これは自己満足!
そう、だから——!
「…………はい」
…………。
ん?
「…………え?」
「あ、え、えーと……」
あ、レンゲくんもすごく真っ赤だ。
…………。
当たり前だ!
わたしが言ったのは、結婚、ええ、プロポーズ!
まるでシィダさんのような……いや、あそこまで尊大な言い方はしていない! はず!
あばばばばばば!
あばばばばばばばばばばばば!
「……え、あの、ちょっと待ってね……え、ええ?」
「…………」
あ、ぁぁぁ足が震える。
やばい、帰りたい。
部屋に引きこもって閉じこもって布団をかぶって……それでも身悶えてゴロゴロとんでもないことになりそうと言うか穴があったら入りたいというか、あ、穴あるじゃないすぐ横に井戸という穴が!
入ったら抜けないかしら!?
いや、結構大きい井戸だしいけるんじゃない!?
いやあのもう断ってくださっていいですから早く帰ろうそしてしばらく会わないで生きよう!
「…………ティ、ティナが僕を……」
「っ〜〜!」
こ、声に出されると恥ずか死ぬ……!
「……、……っ、え、ええと、と、歳、ね、年齢的な……ぼ、僕こう見えて三千年は生きてるんだけど……! お、おじいちゃんだよ、人間からすると!」
「そ、その見た目でその言い訳は通用しないよ」
「み、見た目……」
「あの、わたしがそういう、えーと、恋愛対象的なものに見えないなら、そう言ってもらっていいので!」
むしろそれで終わらせてくれぇ!
いっそ綺麗に振ってくださいぃ!
「み……………………、……見え、ては、い、ます……」
「…………え……」
「……だ、だって、でも、あの、僕は……せ、性格はこんなだし、壊すのは得意だけど守るのは全然できてないし、根暗だし後ろ向きだし、趣味みたいなものもないし友達もいないし! 女の子とお付き合いもしたことないからどうしたらいいのかわからないし、ティナに、す、好きだなんて言ってもらえると要素が一つもないし……! だからどう言えばいいのかわからないし! 僕と付き合っても絶対楽しくないと思うし、そもそも付き合うとかよくわからないし、僕なんて絶対やめておいた方がいいと思うし、でもその言われたからには断るしかないんだけど断ったらティナが悲しむと思うし、でも断らないと僕なんかと、その付き合うというか、ティナがいう結婚も、僕なんか……」
あ、圧倒的ネガティブ……!
前世のわたし並みの卑屈……!
気持ちはとてもよくわかる……!
「……お、お付き合いならわたしも、彼氏いたことないからわからないし!」
「うっ、じゃ、じゃあ尚更僕なんて……」
「でもレンゲくんが好きになったんだもん。そ、その、お付き合いでどんなことをするのかとかは、とりあえず今後の課題ということで!」
「え、あ、えーと、はい……?」
「わ、わたしのことを、どう思っているのかは……教えて!」
…………。
な、なに言ってるのおおおぉ、わたし〜〜〜!
そこは素直に諦めればよかったんじゃないのおおぉ!?
ほぼ振られてたじゃない。
なぜそんなことを聞いてるの〜!?
自分で自分が止められなくなってる〜!?
「す、好きです!」
「!」
えぇ!?
え?
…………え? え? 本当に?
「ほ、ほんと……?」
「……す、好きか嫌いかだったら……」
「あ、そ、そういう……」
そういうのではないんだけど……やっぱり女の子としては見られていないということ、なの、かしら?
人として、という……。
いや、妹的な?
「…………、……あ、いや、違う」
「え?」
「……君が、男の人と話してると…………その相手を燃やしたくなる」
「…………。…………はい?」
「マルコスさんと話してるのは、割と平気なんだけど……当代やデイシュメールの従業員たちが君に話しかけると、お腹がグツグツする、感じが……して……」
しょんぼりととんでもないことを言っている気がするのはわたしだけでしょうか?
「塵も残さず焼失させたいと思ってしまうんだけど……これは、ちょっと他の人にはなくて……」
「そ、そ、そそそそそう……」
いや、これはとんでもないことを言っているわよね?
え、えええぇ、でも、でも、それって……。
「え、え、と、それは、あの、や、や、やきもちを妬いてる、って、こ、こと?」
「た、た、たぶん……?」
「……じゃ、じゃあ……」
若干、やきもちの妬き方が過激な気がするけど、やきもちを妬いてくれているということは、つまり、わたしのことを女の子として意識してくれているという、そ、そういうことだと思ってもいいということ?
レンゲくんが、わたしを?
「…………。で、も、本当に、君は僕でいいの? 僕は幻獣だし、君は亜人だし、寿命も違うし……」
「寿命は、わたしの方が先にいなくなるよね。……でもその…………、わたしは、レンゲくんの子どもを、産みたい、です」
「っ」
「〜〜〜〜」
ああああぁぁぁ、なんてことを!
なんてことを言っているのかなぁ、わたしはぁ!
でも、でも〜!
「そ、そうしたら、レンゲくんには『家族』ができるでしょう? そ、そしたら……寂しくない、でしょ!」
「!」
「あ、あと、わたし以外にも、わ、わたしと結婚するとお父さんがレンゲくんのお義父さんになるし、ナコナがお義姉さんになるし、レネとモネが義弟と義妹になるよ!」
「…………」
「…………あの、だから……」
あ、まずい。
恥ずかしくて、顔が見てられない。
でも、わたしは……あの日、十六年前のあの時、わたしを助けてくれたあなたに、ずっと……手を、差し伸べてもらったから、今度は——。
「一緒に……生きたいです」
「………………」
目を見開かれた。
それから、くしゅ、と眉が寄る。
マフラーで顔は半分しか見えないけど、目許だけで気持ちや感情は十分伝わってきた。
差し伸べた手を握り返される。
「……一緒に、生きたい……僕も、君と」
顔が近づく。
レンゲくんの、顔が……。
顔が熱い。
でも、逃げたくない。
せっかく……だから、せめて目を閉じる。
額が、わたしの額のサークレットに当たった。
……あ、あれ? キスとかでは……ない?
「!」
「えっ」
熱!?
キスではなくて地味にがっかりしたけれど、額が熱くて思わず縮んだ距離を自分から台無しにしてしまう。
いや、だって痛い!
「い、痛……!」
「ティナ!」
なに!?
なにが……!?
からん、と地面に落ちるサークレット。
真ん中に埋め込まれていたはずの『契約石』がない。
そして、代わりにわたしの額は急激に痛みと熱を増していく。
あ、頭が、割れ……!?
それに、なんだか眩しい!?
「! ……わ、我が真名を、蓮華。幻獣ケルベロス族の血を受け継ぎし者なり。この娘との契約に、応じる!」
「っ……?」
レンゲくんがなにかを告げると、額の熱も痛みも消えていく。
な、な、なんだったの……?
「うっ」
「大丈夫?」
ふらつく。
レンゲくんが体を支えてくれて、なんとか立っていられる状況。
一体、なんだったの、今のは……?
「なにが、起きたの……?」
「……見て」
「?」
井戸の縁に座らせられ、レンゲくんが見せてくれたのは赤い石と二つに割れたような薄紫の石。
え? なにこれ……。
赤……え? 赤? まさか……。
「こっちの赤いのが『暁の輝石』」
「ひっ!」
「で、こっちの薄い紫の石は契約石。……驚いた、こんなことあるんだね。契約石が光を取り戻した」
「…………、……契約石って、確か……わたしの入っていた箱に一緒に入れられていたやつ……?」
「そう」
わたしがジェラから逃がされた時に、本当のお父さんが箱に入れたらしい、あの灰色の冷たい石。
レンゲくんはそれを契約石と呼んだ。
サークレットを見ると、レンゲくんがはめてくれた契約石が付いてない。
つまり、これがそう?
でも色が変わっている。
灰色から薄い紫へ。
なんで?
恐る恐る触れてみる。
「あれ、温かい……」
「……契約の上書き……」
「上書き?」
「すごいな……珠霊人はこんなこともできたのか……」
「?」
な、なんだかレンゲくんが一人で納得しているのだけれど、わたしにもわかるように言ってもらえないだろうか?
「『暁の輝石』箱のまま瓶に入れて井戸の中に隠しておこう。いい?」
「う、うん。それはいいけど、あの、この、契約石はどういうこと、なの……?」
「ん〜……」
え? 照れてる?
なんでそこで照れるの?
「……いや、うん……。……この契約石は多分、君のご両親の契約石」
「わたしの、本当のお父さんとお母さん、の?」
「うん、君の本当の両親が……結婚した時に生まれた『暁の輝石』だと思う」
「……っ」
わたしが今、作ってしまった『暁の輝石』は楕円形。
そして、わたしの両親の契約石と思しきものは丸い。
確かにわたしの額の石はやや楕円形だった。
でも、あの灰色の石が本当の両親の……『暁の輝石』?
どういうことなの?
「『暁の輝石』は珠霊人の生涯で一度しか生成されない。そして、願いを叶えると輝きを失う。……君のご両親が、この『暁の輝石』になにを祈って色を失ったのかはわからないけれど……」
「…………」
————『貴女は生き延びるのですよ……』
————『生き延びてくれ』
「…………」
なぜ、その言葉を思い出すのだろう。
いまでもはっきりと思い出せる。
わたしの両親の願い。
『暁の輝石』が色を失った、たった一つの二人の願い。
「愛を誓い合うって、一種の『共生契約』なんだろう。……ああ、忘れてた……そうだ、僕の母さんと父さんも……」
「……レンゲくんの、お父さんとお母さん?」
「うん、愛を誓い合って、そして契約石という形で残っていた。父さんは母さんが死んだ時に、色の消えた石を持ってこの世界からいなくなった」
「…………」
「……『暁の輝石』は最初から一種の契約石だったんだね」
愛を誓い合って生まれる石。
あれ、でも……確か感情が昂ぶれば、それでも生まれるって言われたような?
「…………」
いや、違うかな。
感情を昂らせることができる『誰か』がいて初めて生まれる石だもの。
そうね、確かに、一種の契約石なんだろう。
強く、強く、誰かを想わなければ生まれてこない。
「えっと、それじゃあ……わたしとレンゲくんが……契約したから、わたしの額の珠霊石が『暁の輝石』になった、の?」
「いや、ティナのおでこに珠霊石はまだあるよ」
「ええ!? あるの!? あ、ほんとだ!」
額を触ってみる。
あ、ある!
感触が確かに!
…………これで普通の人間になれると思ったのに……。
「珠霊石から『生成』されるんだもん。あるよ、それは」
「う、うう……」
「……驚いたのはこっち。君の両親の『暁の輝石』の残骸。僕と君が正式に『共生契約』したから、正しく『契約石』として機能を取り戻したらしい。すごいね」
「……えっと、その『共生契約』って?」
「一緒に、生きていく約束」
「…………っ」
かぁ、と顔が熱くなる。
レンゲくんの目許も、ほんのり赤い。
「そ、その、本来は、お互いがお互いに生きていくのに必要というか、そ、そういう意味合いで使う契約なんだけど、なんというか、こういう意味で成立してしまったというか……」
「そ、そ、そ、そうなんだー……。え、えーと、つまり……なにか特別な効能とか力みたいなものがあったりする、の?」
「…………。そうだね、普通の『共生契約』の契約石だと、お互いの能力の一部を共有、使用できたりす——…………」
「? レンゲくん?」
突然固まっちゃった。
そして、なんだか驚いたような表情。
どうしたのかな?
説明してるレンゲくんが驚くのおかしくない?
「そうだ、なんで思いつかなかったんだ……契約石……共闘契約……!」
「へ?」
「いや、でもこの契約で……ティナ!」
「は、はい!?」
突然向き直られて、動揺する。
な、なに?
両肩をがっしり掴まれて、顔が! また顔が近……!
「倒せる! 『
「!?」
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