十六歳のわたし第4話



 翌朝、かなり早朝に目を覚ました。

 城壁の周りを内側から散歩して、城壁外に溜まっていた魔物を浄化していく。

 去年破壊された城壁は、レドさんのドワーフ技術とシィダさんの魔法、そして、レドさんにレシピを教わってわたしが錬金術で作った『剛鉄石』によりものすごーく強化されているのだ!

 ……錬金術で金属も作れるって、あの時初めて知ったのよね〜。

 やっぱりドワーフの技術や知識ってすごい。

 亜人大陸には魔法があるからあまり錬金術は普及してないって聞いていたけど、もしかしてレドさんが使っていた『金属融合魔法』は錬金術で代用ができるんじゃないかしら!

 だって使うのはどちらも魔力だし?

 作っても作っても終わりが見えなかった『剛鉄石』の錬成を思い出すのは、若干辛いものがあるけれど……例えば、普通の石に治療薬を混ぜて錬成して治癒効果のある石にするとか!


「…………」


 ……珠霊石っぽいものができてしまう。

 というか、そんなの『珠霊人』にしか作れない、とかになったらわたしが『珠霊人』の生き残りってバレる。

 ダメダメ却下却下!

 それでなくともリスさんに『魔力回復薬』について色々突っ込まれて聞かれて、大変だったんだからー。

 ……けど、本当にこれでいいのかな。

『珠霊人』にしか作れない物……例えば『珠霊石』とか、わたし、作れるんじゃない?

『珠霊石』は『エデサ・クーラ』が独り占めしてるから、今ものすごく値段がとんでもないことになってて普通の人には手に入らなくなってるらしい。

 わたしが作ったら、魔法使いの人……例えばミーナさんとか……はすごく助かる、よね?

『魔力回復薬』が作れたんだし、作れてしまう気がする。

 どうしよう、作ってみる?

 大量に作っても……えーと、ほらデイシュメール内に保管してあったのを発見した! みたいにすれば、新しく作ったとはバレないと思うし。

 う、うん、これはいい考えじゃない!?

 他にもどこかに保管してあるかもしれない。

 探しておくので、見つけたらまた持ってきます。

 みたいに言っておけば、新しくまた作っても「新しく発見しました!」って感じで!

 め、名案!

 よし、この手で『珠霊石』……作ってみよう!


「あ、いたいた、聖女様ー」

「は、はーい! 魔物ですかー!?」

「いえー! 『ダ・マール』の騎士様の定期報告部隊ですー」

「わかりましたー、今行きまーす」


 今回は誰だろう?

 まあ、定期報告部隊とは割と名ばかり。

 旅のキャラバンの護衛をしたり、各国周辺の魔物をデイシュメールへ誘導したりするのが主なお仕事。

 わたしの様子を見に来て国に報告するのも、彼らの任務。

 しかし、こちらにあまり警戒をさせないために、わたしやお父さんやナコナ知り合いの騎士が来ることがほとんど。

 例えばリスさんやガウェインさんやベクターさんやミハエルやクノンさんなど。

 皆さん、もう自分の部隊を持ってる隊長さんなのよ。

 お父さんが『ダ・マール』の元青の騎士団副団長なので、割と皆さん「ティナリスちゃんのことを国に報告するのしんどい」と言って「とりあえず元気そうでしたって報告するけど、他になんかある?」と報告内容をわたしに聞いてくる始末。

 もちろん、部下の人がいないところでだけど。

 なので、最近は新メニューのレシピを紹介している。

 広まれ! 美食の輪!


「あれ、えーと」

「やあ、覚えてるかな? 昔一度会ったことあるんだけど……」

「え、えーと……」


 見覚えがあるような、ないような。

 今日部隊の人たちは、五人全員が白の鎧とマント。

 白い鎧の人たち——白の騎士団の人たちは、初めて来たかもしれないわ。

 あれ、確か白い鎧の人たちって『ダ・マール』の国内を守るのがお仕事の人たちで、エリートと呼ばれる部類なのでは……。


「や、やっぱり覚えてないかー。俺、ギブソン!」

「はあ」

「こっちはルゾン先輩! 隊長なんだけど!」

「はあ」

「や、やっぱり覚えてないかー……」

「す、すみません」


 どこで会ったんだっけ?

 き、記憶が……。


「あ、あの、それより白の騎士様がいらっしゃるのは初めてですよね?」

「ああ、実は編成軍が今デイシュメールを目指して進軍中でね。俺たちの部隊はいわゆる先行隊なんだ。食糧の確認と……」

「相当の人数を収容可能と聞いたんだが、その確認も。あと、今後ここが『エデサ・クーラ』攻略の拠点の一つになる。ここにいる一般人は避難するか、従軍するか……選んでもらうことになるだろう」

「!」


 ……その話は、確かに以前から出ていたな。

 そうか、ついにこの時が来たのね。


「編成軍が来るのは大体一ヶ月後だろう。その後に、連合軍が到着する。我々はその準備のために先行してきた部隊の一つなんだ」

「そう、なんですね」


 うう、しかし弱ったわ。

 今、お父さんもレンゲくんもレヴィレウス様もいないから、そういう、戦い的な事はわたし全然わからないのよね。


「マルコス先輩や、ここの指揮官の幻獣たちは……」

「あ、すみません。今留守で……」

「る、留守!?」


 うわ、すごい驚かれた。

 そ、そうだよねー、普通に驚くよねー。

 お父さんの予定は聞いてるんだけど……お父さんは確か今週、亜人大陸のコボルト領でコボルト種の統合なんちゃらとかいうのに巻き込まれて大変だー……とか言ってたような?

 によによしたエウレさんと肩を落としたシンセンさんが一緒なので、余計にややこしいことになっていないといいんだけど……。

 ああ! 騎士様たちが全員顔を見合わせている〜。


「マルコス先輩はともかく、幻獣たちも?」

「幻獣大陸の幻獣王が危篤になったそうなんです。わたしも行きたかったんですけど、わたしはデイシュメールから離れられないので代わりに……」


 代わりにというか、幻獣のみんなは王様の最期に立ち会いたいもんね。

 ああでも言わなきゃ残りそうだったんだもん。

 ……お別れは、ちゃんとして欲しい。

 それに、どんなことがあっても明日の朝には一度戻ってくる、とレンゲくんが言ってくれたの。

 だからレンゲくんはそろそろ帰ってくると思う。

 過保護だなー、と思うのに、反面嬉しい自分がいる。

 それに、レヴィレウス様がわたしの作った『セント・エリクサー』を持っていった。

 アレどうなったかなぁ?

 クリアレウス様、飲んでくれただろうか?

 飲んでくれた場合、元気になってくれたかしら?

 それとも飲んでくれなかった?

 あるいは、レヴィレウス様がやっぱり力の加減を間違えて瓶ごと壊して……あ、ありうる。


「そうか……幻獣たちもいないのか……」

「はい、なので詳しい話は申し訳ないんですがみんなが戻って来てからでも構わないでしょうか? 多分、レンゲくんは……あ、幻獣王代行はそろそろ戻ってくると思うので、あまり待たずとも大丈夫だと思います。中で一休みされてはどうでしょう? 軽食や甘味などお作りしますよ!」


 ロフォーラの時のように!

 というか『エデサ・クーラ』や『原喰星スグラ』のことが片付いたら、デイシュメールを『元要塞型ホテル』として売り出して旅人の人が気軽に利用できる新たなる街道宿にできないかしら!

 で、最近ほぼ農民のごとく畑や家畜に掛り切りの人たちも中居さんのように働いてもらって……。

 い、いいと思う! すごくいいと思う!

 空の『原喰星スグラ』は元気溌剌で今日も太陽を覆い尽くさんばかりだけど、わたしが『原始星ステラ』で浄化を続けていれば……いつかきっと縮み始めるはず!


「あ、ああ、それはいいな、うん、もちろん。……もちろん、そうだな、休みたいんだが、そうか……それなら……ティナリスちゃん、ちょっと教えて欲しいことがあるんだが……」

「はい?」


 なんだろう?

 少し困った顔。

 そして、歯切れも悪いルゾンさん。

 そんなルゾンさんに代わってなのか、門の外を指差したのはギブソンさん。


「あの魔物の浄化? ほ、本当にできるのか、実際見てみたいんだ。確認っていうか、さ。俺たちも一緒に行くから、見せてくれないか?」

「え? それなら城壁の上から……」

「いや! せっかくだし、近くで見たいんだよ! 頼むよ、な?」

「ああ! 俺も見てみたい!」

「俺も!」

「『ダ・マール』でずっとお偉方ばっか守ってて体も鈍ってるし!」

「うんうん!」

「と、いうわけで、珍しいもの見たさなんだ。頼むよ、ティナリスちゃん。危なくなったら俺たちが盾になるから」

「……え、ええ……」


 こ、困ったな。

 レンゲくんたちには城壁の外には出ないって約束しちゃったのよね。

 とはいえ、この人たちの言い分もわからないでもない。

 偉い人たちの護衛って絶対神経すり減るものね……こう、仕事の楽しみとか、娯楽っぽいものもないだろう。

 仕方ない、浄化なんて近付くだけで終わっちゃうから、別に面白くもなんともないと思うけど……サービスしてあげよう!


「わかりました。特別ですからね」

「ヒュー! さすが噂に名高い聖女様!」

「ち、違います! 錬金薬師です!」


 デイシュメール内で働いてる人たちは仕方ない。言っても聞いてくれないんだもん。

 でも、外から来る人たちには徹底的にわたしが『錬金薬師』であると主張し続けるわよ!

 というか、わたし『錬金薬師』としても結構有能なんだからね!

 なんで『原始星ステラ』と『聖女』の方が先行してしまうのよ!

 悔しい。

 悔しいから、わたしのオリジナルレシピ【レシピ公開不可!】ってことで『魔力回復薬』を大量に出荷してしまおうかしら?

 そうすれば『錬金薬師ティナリス、魔力回復薬を開発!』ってことで世界中の人々、主に錬金薬師や魔法使いから崇め奉られる存在に……崇められるはノーセンキューだわ……今と変わらない……。

 い、いや、他にも色々、色々使い道はあるわよ。

 錬金術だって魔力を使うもの。

 魔力回復技術のド下手な錬金術師は、わたしの魔力回復薬でこれまで不可能だった錬成が可能になる!

 そうだわ! それならわたしの錬金薬師としての有能さを知らしめられる! はず!

 ……でも、それで果たしてお祖母ちゃんに認めてもらえるかしら?

 魔力回復薬なんて水とわたしの魔力を混ぜただけの大変シンプルで大変簡単な超楽チンレシピ……ううん、効果はともかくわたしの納得がいかない。

 もっといろんな人の役に立つ、そこそこ難しくてわたしオリジナルの薬がいいわね。

 となると『上級治療薬プラス5』?

 でもあれ、結局『上級治療薬』の材料を集めて作らないといけないから大変なのよね……。


「ティナリスちゃん」

「はい! すいません! 魔物いましたか!?」


 しまった、考え事しながら歩いてた!

 城壁の外はそれなりに危ないのに——。


「っう!?」

「…………悪いね」


 な、に、この、匂い……頭が…………目を開けてられな——っ。


「こんなチャンス、逃すわけにはいかないんだ」


 なにか、嗅がされた?

 ……だめだ、むり…………なにが、どう……。


 レンゲ、く——…………。

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