第16話 『遺跡の中でお宝を発見する』

 

 正直、今更感が拭えないCランク昇格試験の当日の朝、俺はアイーシャに見送られて家を出て試験会場へと向かっていた。


 そういえばライラさんが以前にCランクになれば遺跡の調査依頼を受けられるとか言っていた気がするが、【迷宮ダンジョン】の第91階層を攻略中の俺に今更遺跡の調査とか必要なのだろうか?


 まぁ、もう試験の申し込みはしてしまったのだから、うだうだ考えていないで試験を受けるとするか。






 そうして俺は試験会場に到着したわけだが、何故か指定された会場が室内で机が並んで筆記用具が用意されていた。


(え? これは、まさか……)


 俺は嫌な予感を感じて周囲を見渡すが、俺以外は平然として用意された椅子に座って試験の開始を待っている。


 そうして時間が来て試験官が部屋の前に立ち……。


「さて。それではCランクの昇格試験を始めるが……最初は冒険者としての知識を確認する為の筆記試験を執り行う」


(やっぱりぃ~!)


 予想通りの展開に俺は心の中で絶叫する。


 筆記の予習なんて欠片もしてきてねぇよ!


 そもそもライラさんに聞いた試験の傾向と対策で筆記なんて一言も聞いていないのだ。


 だが周囲の者達に動揺が見られないということは、彼らは幾度かCランクの試験を受けた経験のある者達ということで、ライラさんが教えてくれなかったのは事前連絡を禁止されていたということだ。


(なんて意地の悪い試験だ! 初回クリアが絶望的じゃねぇか!)


 心の中で騒ぐが現実は覆らない。


 全く予習してきていないということもあるが、それ以前に常識的な冒険者の知識なんて俺にあるわけがないのだ。


 だが脳裏にギルドマスターのほくそ笑む顔が浮かんで唯で不合格になってやるのも業腹だ。


(……使うしかあるまい)


 俺は苦渋の決断と共に覚悟を決めて――【監視魔法サテライト】で堂々とカンニングすることに決めた。


 周囲には沢山の冒険者が一緒に試験を受けているわけだから、そいつらの答案を【監視魔法サテライト】で確認して統計として1番回答率の高い答えで埋めていくだけなので楽勝である。


 まぁ、統計を出すのはコンの仕事で、俺は言われた通りに解答欄を埋めているだけだが。


 結果として俺は筆記試験で過去最高得点を弾き出したのだが――後日ギルドマスターに聞いた話では試験の採点をした試験官にはカンニングしたことがバレバレだったそうだ。


 まぁ、周囲の答案から全ての答えを抜き出しているわけだから、見る奴が見れば丸分かりだわな。


 もっとも、試験中にカンニングを看破出来なかったのが悪いということになって問題にはならなかったけど。


 この場合、目を光らせていたくせにカンニングを許してしまった試験官の失態ということになるらしい。


 流石に【魔力視】のない人間に【監視魔法サテライト】のカンニングを見破れと言うのは無茶ぶりなので、ちょっと悪いことをした気分になったよ。






 ともあれ、筆記試験に合格した俺は次の試験に挑む権利を得た。


 ちなみに俺は数えていなかったが、筆記試験を受けたのは30名以上いて、合格者は11名だそうだ。


 流石Cランクの昇格試験だけあって結構難しかったらしい。


 そうして続く第2試験は冒険者ギルドから外に出て、町の外に集められた。


「第2試験は持久力の試験だ。今から町の外周を10周走って時間内に完走出来た者だけを合格とする!」


 この町はそれほど大きくないが、それでも1周5~6キロはあった筈。


 つまり合計で50キロ~60キロは走らされる計算になる。


 一般人の体力では完走は不可能な程の長距離だ。


「それでは始めぇっ!」


 そうして問答無用で試験が開始された。


「~♪」


 まぁ、俺は例によって例の如く【推進力場フォース・ドライブ】を応用したスケートのような走りで悠々と滑って次々と受験者達を抜き去っていく。


 え? 流石に反則だって?


 だって試験官は体力の試験ではなく持久力の試験だと断言していた。


 つまり、どんな方法を使ってでも町を10周すれば合格ということになる。


 結果として俺は何人かを周回遅れにしてトップでゴールを果たした。


 合格者は11名中、6人だったらしい。






 第3試験は再び冒険者ギルドに戻って、地下にある訓練場へと連れて来られた。


「第3試験は試験官との模擬戦を行ってもらう。必ずしも勝つ必要はないが勝敗も判断基準だとうことを宣言しておく」


(また無茶ぶりを)


 試験官を務めているのは実力的にCランク以上の実力を持った者達なので、現在Dランクである俺達が勝つのは難しい。


 よって通常は模擬戦の内容で合否を決めることになるのだろうが……。


「ほげぇっ!」


 殺さないように殺傷力の低い魔力の塊で殴打したら試験官は冗談のように吹っ飛んで行って気を失ってしまった。


「……それまで」


 審判を務めた試験官は顔を引き攣らせていたが、流石に文句を言ってくることはなかった。






 そうしてCランク昇格試験は終了したのだが、合格したのは俺を含めて2名だけだった。


 どうやらCランクの昇格試験は知力、持久力、戦闘力の3つの点を測るものだったらしいのだが、これでどうして遺跡の調査が可能になると判断されるのかと思ったら、どうやら最初の筆記試験で遺跡に関する問題が多めに出題されているのだそうだ。


 まぁ、どの道遺跡の調査に行かない俺には関係のない話だけど。






 家に帰ってアイーシャにCランクに昇格したと報告したら目一杯合格を祝ってくれた。


 勿論、夜には身体を使って大サービスだったよ♪




 ◇◇◇




「実は最近、森の奥に気になる遺跡が発見されましてねぇ。君にはその遺跡の調査をお願いしたいのですよ」


「……諮られた」


 そもそも考えてみれば、いくらエルティーナが俺の為に功績ポイントを捏造したからと言って、それを判定するギルドマスターが許可しなければ何の意味もないのだ。


 最初から俺に遺跡の調査をさせるつもりでCランクの昇格試験を受けさせていたと考える方が自然だった。


「相変わらず面の皮の厚いおっさんだな」


「あはは。誉め言葉として受け取っておきますよ」


 結局、断り切れずに遺跡の調査をする羽目になってしまった。






 遺跡というのは【迷宮ダンジョン】とは根本的に構造が異なるらしい。


迷宮ダンジョン】の方が自然に発生した魔物に例えられる構造物だとして、遺跡というのは太古の時代に人間が作り出した歴史的な建造物ということになる。


 それなら【迷宮ダンジョン】程に危険はないのかと言えば、警備装置や罠なんかが生きていることもあるので場所によっては【迷宮ダンジョン】の低階層よりも危険なことがあるそうだ。


 今回の遺跡はまさにその典型で、入った途端に矢が飛んでくるわ、落とし穴は起動するわ、毒ガスと思わしき気体を流し込まれるわで、完全に殺しに来ている。


 とは言っても矢に塗ってあったであろう毒は経年劣化により乾いて無害になっていたし、落とし穴の底に設置されていた槍は錆びてボロボロだったし、毒ガスに関してはただの臭い空気と成り果てていた。


 危険はあるが極悪という程ではなかった。


「コン、この遺跡の構造を調べられないか?」


《【迷宮ダンジョン】とは違って構造に魔力が使われていないので逆探知でスキャンすることは出来ません》


「そっかぁ~」


 予想はしていたが【迷宮ダンジョン】のように魔力を感知して階層の地図を作ることは出来ないみたいだ。


 罠も魔力で発動するタイプではないので事前に察知することが出来ない。


 思ったより遺跡調査って厄介かもしれない。






 数時間かけて第12階層までの攻略が完了した。


 今回は調査依頼なので遺跡の構造というか地図を地道にコンにインプットさせながらの攻略だったの手間が掛かってしまった。


 帰ってから地図を紙に書き出す作業が待っているのかと思うとゲンナリする。


 そうして第13階層に入った俺を待ち受けていたのは異常とも言える広さを持った大部屋だった。


「……ボスが出てきそうな部屋だな」


 その予想は覆ることなく、俺の入ってきた入り口がガタンと固く閉じられ、部屋の奥に鎮座していた巨大な岩の人形――ゴーレムが動き出して俺に光る眼を向けてきた。


 第12階層までは天井までの高さが精々3メートルというところだったのに、この階層に来てから10メートル近くに上がったからおかしいと思っていたが、この8メートル近いゴーレムを稼動させる為だったらしい。


 まぁ、俺のやることに変わりはないので、さっさと【魔戦輪リング・スラッシャー】で輪切りにして……。




 カキンッ!




「……弾かれた?」


 オリハルコンですら容易に輪切りに出来た【魔戦輪リング・スラッシャー】が?


《マスター、どうやら対象は魔力で全身を覆って防御性能を向上させているようです。本体の硬度と相まって【魔戦輪リング・スラッシャー】とは相性が悪いようです》


「……マジかぁ~」




『ヴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』




 更にゴーレムなのに絶叫しながらドスドスと勢い良く俺に向かって突進してきた。


「見た目の割に……速いな!」


 俺は【推進力場フォース・ドライブ】で天井付近まで浮き上がりつつ突進を回避する。


《恐らく魔力を纏うことで本体の重量を軽減していると思われます》


「それって俺と同じ技術が過去にはあったってことか?」


《確定ではありませんが、その可能性は高いと思われます》


「……最悪だ」


 まさか、ここに来て同格と思われる技術を持った相手が敵とは。


《マスター、対象はどう見ても生物ではないので、身体のどこかに魔力を供給する為の動力源がある筈です。それを破壊出来れば対象は停止すると思われます》


「内部構造は?」


《魔力によって防壁を張られているのでスキャン出来ません》


「厄介な相手だなぁ」


 暴れまわるゴーレムから【推進力場フォース・ドライブ】で飛んで逃げ回りつつ嘆息する。


 もう1度【魔戦輪リング・スラッシャー】で攻撃を仕掛けてみるが、やはり表面を少し削るくらいで容易く弾かれてしまった。


 これは当たり前のように大ピンチなのだが……。


「コン、俺の【魔力視】で見た限り、魔力を纏っているのはゴーレムだけのように見えるんだが……相違ないか?」


《はい、マスター。魔力を纏っているのはゴーレムだけであると断言いたします》


「それなら多少時間は掛かっても問題にはならなそうだな」


 俺はゴーレムの攻略法を見つけた。






 数時間後、ゴーレムは轟音を立てて床に崩れ落ちた。


《お見事です、マスター》


「……疲れたぁ」


 俺が何をしたのかと言えば、ゴーレム以外は魔力を纏っていないのなら閉じられた入り口を【魔戦輪リング・スラッシャー】で切り裂いて通路に戻り、大き過ぎて入って来られないゴーレムに一方的に攻撃を加え続けただけだ。


 どうもゴーレムには侵入者を排除するように命令がインプットされていたようで、俺が目視出来る範囲にいる限りは延々と無意味な攻撃を繰り返していたので楽勝と言えば楽勝だった。


 勿論ゴーレムの攻撃によって通路が大分削られてしまったが、遺跡そのものを破壊する程の攻撃力はなかったようだ。


 大変だったのは寧ろ【魔戦輪リング・スラッシャー】で表面を削る程度のダメージしか与えられなかったことだ。


 彫刻刀で鉄の像を削るような作業で、動力源を見つけて破壊するまで偉く時間が掛かってしまった。


「疲れたし、この階層を攻略したら一旦帰るか」


 俺はゴーレムの残骸を乗り越えて大部屋に戻ると、周囲の調査を再開した。






 調査の結果、どうやら第13階層が最下層であるということが分かったのだが、大部屋に隣接した場所に倉庫と思わしき大量の【何か】が保管されている部屋を見つけた。


「これ……なんだと思う?」


《恐らく、古代の人間達が運用していた魔力を利用した兵器であると思われます》


「だよなぁ~」


 倉庫の中にあったのはゴーレムと同系統の魔力を利用した兵器群だった。


 流石に全ての構造や使い方が分かるわけではないが、それがとてつもなく危険な兵器だということは直ぐに理解出来た。


「これをゴーレムに使われなくて良かった」


 こんなのゴーレムが装備していたらエンカウントと同時にゲームオーバーだったわ。


「こんなのが世に出回ったら俺の首を絞めそうだから……全部俺が没収しておくか」


《イエス、マスター。兵器群の構造を解析し、研究を開始します》


「……好きにしてくれ」


 俺は洒落にならない兵器群を全て【収納魔法アイテムボックス】の中に収納して――ついでにゴーレムの動力も回収して帰ることにした。






 帰ったのが真夜中になってしまったので心配していたアイーシャに泣きながら抱き着かれて朝まで離してもらえなかった。


 拘束的な意味でも性的な意味でも。




 ◇◇◇




「君が倒したというゴーレムを研究員が解析したのですが、とても君が苦戦するような構造ではなかったそうです」


「ふぅ~ん」


「……何を隠しているのですか?」


 すっとぼけようとしたがギルドマスターの追及がしつこい。


「要するにゴーレムは動力源を破壊したから唯の岩に戻ったというだけの話だ。動力源が生きていた時は洒落にならないくらい強かったんだぞ?」


「その破壊された動力源の欠片も見当たらないと報告を受けているのですが?」


「……あんなのを研究されて実用されたらやばい兵器になりそうだから没収した」


「はぁ~」


 正直に言ったら深く嘆息された。


「まぁ、そんな物を貴族が見つけたら確かに君の懸念通りのことが起こりますから隠したのは正解だったかもしれませんね」


「だろ?」


「君が隠し持って研究しているであろうことは明白ですが」


「ナンノコトヤラ」


 正確にはゴーレムの動力源というよりも倉庫に眠っていた兵器群の研究だが、どちらにしても大した差はない。


「それで、隣の空っぽの部屋には何があったのですか?」


「……ナンノコトヤラ」


 まぁ、隣に倉庫と思わしき部屋があるのに何も残っていなかったら怪しいと思うよね。


「まぁ、良いでしょう。どの道、遺跡で発見された宝は攻略者である君の物ですし、何を隠しているかは追及しないでおきます」


「……どうも」


 理解があるギルドマスターで助かったよ。


「これで借りを1つ返したということにしておきますよ」


「へぇ~い」


 2つしかない貸しが1つ減ってしまったが、今回ばかりは仕方ない。






 俺は冒険者ギルドから出ると、次に町の外へと出て――そのまま【推進力場フォース・ドライブ】で長距離を移動して無人の荒野の上空まで移動した。


「コン、解析の終わった兵器のテストを開始するぞ」


《イエス、マスター》


 そうして俺の手に2メートル近い流線形の巨大な筒のようなものが現れる。


「……重い」


 重量としては俺が魔力を纏った状態でパワーアシストを受けてギリギリ持てる重さだ。


《【収納魔法アイテムボックス】に確保してある魔石から魔力をチャージします》


 そうしてコンの操作によって巨大な筒に魔力が急速に流し込まれていく。


 魔石の魔力を直接チャージしているわけではなく、俺の魔力バッテリーとして調整された魔石から俺を通してチャージするという仕組みだ。


《チャージ完了。発射準備が完了しました。トリガーをマスターに預けます》


「お、おう」


 困惑しながら俺は巨大な筒――【魔力炸裂閃光砲マナ・バースト・ランチャー】の引き金を引いた。


 瞬間、世界に光が満ちて――無数に分裂した光線が周囲に広がっていき……。




 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォッ!




 広範囲で連鎖爆発を繰り返した。


「これはあきまへんわ」


 空中とはいえ半径1500メートルの範囲内で洒落にならない爆発が連続で起こった上に、広範囲に衝撃波を巻き散らして被害を拡大させていた。


 使用者である俺でさえ魔力を纏っていなかったら吹っ飛ばされていただろう。


「なぁ、コン」


《なんでしょうか?》


「これって見つけた兵器群の中ではどのくらいの順位に入る兵器なんだ?」


《まだ解析中ですが、現時点で言えば中の下程度の威力であると思われます》


「おうふ」


 これで中の下ということは、俺の【収納魔法アイテムボックス】の中には更に強力な兵器が眠っているということになる。


《解析を中止いたしますか?》


「……いや、続けてくれ」


 確かに危険な兵器だとは認識したが、こんな物が現実に存在するということは他にもある可能性があるということ。


 そういう物を敵が所持していた場合、それに対抗する為の力が必要だろう。


「普段使いするには危険過ぎるから基本は封印だけどな」


《イエス、マスター。兵器群に個別でロックを掛けておきます》


「……よろしく」


 頼りになる相棒がいてくれて良かったよ。


《きっちり整備して、いつでも使用出来るように調整しておきます》


「…………」


 ちょっと過激なところが玉に瑕だけど。




 ◇◇◇




「んぅ~♪ んぅ~♪」


 頭をグリグリと俺に押し付けながら甘えるように俺にしがみ付いてくるセリーナ。


 今日はなんだか甘えたい気分のようで、さっきから子供みたいな態度で俺に接してくる。


 何があったのかと問うと、どうやらイセリアが魔法学院の合宿で数日留守にしているらしく、寂しさが募って甘えたくなったらしい。


「そっかぁ。イセリア留守なのかぁ」


「…………」


 俺の呟きの意味を理解したのかセリーナがピタリと動きを止めて――長いエルフ耳の先端まで真っ赤に染めた。


 うん。イセリアがいないなら、どれだけ大きな声を出しても大丈夫ということで、今日は遠慮はいらないってことだ。






「~~~っ♡」


 エルフの御馳走してくれる最上級メロンはやっぱり最高だったと明記しておく。



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