第15話 『ドワーフの王国へ行ってみる』

 

 王都のセリーナの為にクラン[栄光の御手]にエリクシル1本で護衛を依頼出来た。


 色々と面倒な相手だったが、俺が依頼人となれば風聞を解消出来るということで問題も解決し完璧にセリーナの護衛を務めると誓ってくれた。


(それにしても白金貨400枚とか……【収納魔法アイテムボックス】の中に後6本も入っているんだけど良いのかねぇ)


 高い頻度ではないが暇つぶしに【迷宮ダンジョン】を探索していると見つける時には見つけてしまうのだから仕方ないけど。


 これを市場に流したら少し面白いことになりそうだ。


「……何か悪いことを企んでいるでしょ?」


「ナンノコトヤラ」


 ちなみに今は国境付近のユラの町でギルドマスターをしているエルティーナの家に遊びに来ていた。


 現在はソファに座ったエルティーナに膝枕してもらっているところだ。


 なんかアイーシャにしてもらって以降マイブームなんだよね。


「言い忘れていたけど、君が以前に狩ってくれたバジリスクとコカトリスの素材が合計して白金貨30枚で売れたわ」


「預かっておいてくれ」


「……気軽に言ってくれるわねぇ」


 ぶっちゃけ今更白金貨30枚とか誤差の範囲でしかないのだ。


「私が勝手に使ってしまったらどうする気なの?」


「その時は身体で返してもらおうかな♪」


「……随分と高く見積もられたものねぇ」


「エルティーナが金で買えるなら俺は白金貨500枚出しても惜しくないね」


「……冗談に聞こえないところが凄いわねぇ」


 割と本気で言っているしね。


「でもお金で買われるのもなんだか複雑だし、このお金は預かっておくだけにするわ」


「それは重宝」


 俺もエルティーナに金で左右される関係は求めていないしね。


 それに預けた資金が使われることがあったとしても、それはきっとギルドの運営に必要になった時くらいだろう。


「ね、ねぇ。そろそろ……」


 そして俺を膝枕しているだけという状況に先に我慢出来なくなったのはエルティーナの方だった。


 勿論、俺が拒否する理由などないのでお姫様抱っこでベッドにエスコートさせてもらいましたとも♪




 ◇◇◇




「知っていますか? クラン[栄光の御手]と言えば王都を拠点に活動している200人を超える構成員で組織された精鋭集団なのですよ?」


「……マジで?」


「おまけに団長のクライサスと言えば現状、王国で唯一のSランク冒険者です。貴族からの勧誘も引く手数多ですし、騎士団からの誘いも数え切れない程来ているでしょうね」


「……知らなかったんだもん」


 俺が右腕を切り落とした男の名前はクライサスと言ってクラン[栄光の御手]の現団長様だったらしい。


 王国随一の強化魔法の使い手で、身体能力だけでも王国最強の名を欲しいままにしているという有名な魔法戦士だった。


 ちなみにSランクというのはAランクに収まらないレベルだと判断された時のみに得ることの出来るAランクを超えた称号のようなものらしい。


「そんな王国最強の魔法戦士の右腕を気軽に切り飛ばした上に、エリクシルなんて超絶貴重品を対価に雇い入れるとか……君の頭の中はどうなっているのですかねぇ?」


「……だから知らなかったんだって」


「ちなみにクライサスの持っていた剣はオリハルコン製の特製品だったのですが、それを意味不明な魔法で輪切りにされたという噂を聞いたのですが……」


「知らなかったんや。仕方ないやん」


 あれってオリハルコンの剣だったのか。


 簡単に【魔戦輪リング・スラッシャー】で輪切りに出来たから、そんな大層な剣だとは思っていなかったわ。


 どうも簡単に降参し過ぎだと思ったが、オリハルコンを容易く切断出来る手段があるというのも理由だったのかも。


「君にはきっと【自重】という言葉が生まれつき欠落しているでしょうねぇ」


「…………」


「ところで今回めでたく君が王国最強になったわけですが、どんな気分ですか?」


「……そろそろ勘弁してくれ」


 今回は流石にやりすぎたというのは分かったから、チクチク苦言を呈してくるのはそろそろ止めて欲しかった。


「まったく。貴族に目を付けられたくないと言いながら何を気軽に王国最強になっているのですか。今回の件が王国側に漏れれば一気に子爵くらいには任命されてもおかしくない一件ですよ」


「あくまで下級貴族にしか任命してこない時点で王国の闇を垣間見た気がするわ」


 確か男爵と子爵が下級貴族で、伯爵と侯爵上級貴族だった筈。


「上級貴族になりたいなら娘しかいない伯爵家と婚姻を結んで当主を暗殺すれば直ぐになれるんじゃないですか?」


「まだ嫌味を言うか」


「いえ。現実的に君が上級貴族になる方法を模索しただけですよ。他意はありません」


 貴族になる気はないと言っているのに。


「そういえばクライサスが今回失った剣の代わりを作ってもらうためにドワーフ王国で随一の鍛冶師に依頼をするそうですよ。オリハルコンが余っているならついでに何か作ってもらっては如何ですか?」


「ドワーフ王国の鍛冶師が王国に来るのか?」


「まさか。クライサスの方からドワーフ王国に出向いて制作を依頼するのですよ」


「……ドワーフ王国ってどこにあるんだ?」


「君が最近頻繁に訪れている国境付近の町の国境を超えればドワーフ王国ですよ」


「ああ。あの先がドワーフ王国だったのか」


 エルティーナには何度も会いに行っているが、その先の国境を超えた先にある国には行ったことがなかった。


「とは言っても俺は別に剣で戦う戦士じゃないしなぁ」


 一応、冒険者になって初期の頃にダガーを買ってみたが【収納魔法アイテムボックス】の肥やしになっているような状態だし。


 そもそも俺が剣で戦うような状況というのは最高に追い詰められて後がない状態ということだ。


 そんな状況になったら剣があろうとなかろうと終わりだ。


「別に剣……というか武器に拘る必要もないでしょう。防具やアクセサリーなんかも作ってくれる工房はある筈ですよ」


「なるほど」


 防具は全く惹かれないがアクセサリーならプレゼントに良さそうだ。


 オリハルコンやミスリルは余っているし、チョロッと地図登録も兼ねて行ってみるかな。


「ああ、行くならついでにこっちの注文書を届けてください。冒険者からの発注なのですがドワーフ王国まで行ってくれる人が居なくて困っていたのですよねぇ」


「……絶対にそっちが目的だよな?」


 相変わらず面の皮の厚いギルドマスターだ。




 ◇◇◇




 今回は馬車を使わずに歩いて――途中からは飛んで行くことにした。


 というか国境付近のユラの町にはマーカーを設置してあるので直ぐに行けるし、アイーシャが寂しがる間もなく日帰り出来るだろう。


 国境を超える時には冒険者カードを提示するだけで済んだし。


(というか俺はいつまでDランクなんだろうな)


 Sランクのクライサスに楽勝で勝てたのに、どうして俺がDランクなのか至極疑問だ。






 国境を越えてからドワーフ王国の首都まで馬車で3週間の距離だった。


 勿論、俺は【推進力場フォース・ドライブ】を使ったので数時間で到着したが、王都から出発するクライサスは移動だけで相当時間が掛かるんじゃないか?


 心の中でちょっとだけ応援しておいた。






 そうして俺はドワーフ王国の首都に辿り着いたわけだが……。


(煙たい街だな)


 鍛冶が盛んな街だけあって街中に煙が充満しているような場所だった。


 俺には魔力を纏って周囲の法則を書き換える【環境適応魔法】があるので平気だが、普通の人間が長期間滞在した場合は病気になりそうな街だった。


 そんなことを考えながら俺はドワーフ王国の首都をウロウロしていたわけだが……。


「あ」


 バッタリと知り合いに会ってしまった。


 というかクライサスに会ってしまった。


 さっき王都から出発したなら相当な時間が掛かると、ちょっと心配したばかりなのに、どうしてこいつがドワーフ王国の首都にいるのか。


 そこまで考えて、俺は1つの可能性が抜け落ちていたことに気付いた。


「飛行魔法で飛んできたのか?」


「ええ。得意なんですよ、飛行魔法」


 そう。地道に馬車で来れば1ヶ月以上掛かる道のりでも、飛行魔法で飛んでくれば数日で辿り着くことは不可能ではないのだ。


「そういうニコラスさんも飛行魔法ですか?」


「……企業秘密ってことで頼む」


 正確には転移魔法と飛行魔法の両立だが、ともあれ内密に頼むことにした。


「ニコラスさんは色々と引き出しが多そうですね」


「……腕の調子はどうだ?」


 とりあえず話題を変える為に切断した腕の調子を尋ねる。


「問題ないですよ。寧ろ身体全体の不調が払拭したようで前よりも調子が良いくらいです」


「む。それは若い頃から無茶しすぎて身体にガタが来ていたということか?」


「あはは。自覚はなかったのですが、そうかもしれませんね」


 クライサスの年齢は26歳という話だったが、その若さでSランクに上り詰めるということは昔から無茶を繰り返していたということ。


 その不調が切断された腕と共にエリクシルによって解消され、以前よりも好調になったということかな?


「今なら俺にも勝てそうか?」


「……勘弁してください」


 そうは言っても俺に挑みたいと思う程ではないらしい。


 まぁ、元からクライサスは戦闘狂って感じではなかったし、理由もなく戦いたくなる性分ではないのだろう。


「そもそも僕は誰かさんに輪切りにされた剣の代わりを作ってもらう為にここに来たんですよ。剣もなく強敵とは戦えませんよ」


「……オリハルコンの剣だと知っていたら輪切りにしようとは思わなかったけどな」


「寧ろ、知らずにオリハルコンを輪切りにしたんですか?」


「……偶々だ」


「誤魔化すなら、もう少し説得力のある言葉を選んだ方が良いと思いますよ」


 そりゃ偶々でオリハルコンを輪切りに出来るわけないしなぁ。


「それじゃ僕は剣を頼みに行ってきますが……ニコラスさんはどうしますか?」


「俺はギルドからの注文書を届けたらプレゼント用のアクセサリーを作ってもらおうと思っているんだが……腕の良い細工師とか知らないか?」


「僕が行く工房に腕の良い細工師もいますよ」


「それなら……御同行させてもらうか」


 ここで会ったのも何かの縁なのでクライサスと一緒に工房を訪れることにした。






「なんだ、こりゃぁっ!」


 クライサスが鍛冶師に俺が輪切りにしたオリハルコンの剣を差し出した結果、鍛冶工房にそんな叫びが木霊した。


 どうやらクライサスは輪切りになってしまったオリハルコンの剣を打ち直すことで新しい剣を発注しようとしていたようで、その輪切りになった剣も持参していたようだ。


「何を、どうしたらオリハルコンがここまでの残骸に成り果てるってんだ? しかも、こりゃ……明らかに鋭利に切断されてやがる」


「いやぁ~。ちょっと想像を絶する強敵と戦う羽目になりまして、まさか僕もオリハルコンを輪切りにされるとは思っていませんでしたよ」


 俺をチラチラ見ながら言うのは止めて欲しい。


「こんなことを仕出かす奴と戦って、よく五体無事だったな」


「ちょっと伝手があったので、無事ではなかったのですが以前より好調になる治療を受けることが出来たんですよ」


 だからチラチラと俺に視線を向けて来るのは止めて欲しい。


「しかし、こいつは……新しく作り直すにしても少しばかりオリハルコンが足りねぇぞ」


「えぇ~……何とか調達出来ませんか?」


「オリハルコンは常に品薄だ。在庫がある状況の方が珍しいんだよ」


「ん~。ちょっと伝手を当たってみますね」


 そう言って何故か俺の方へ寄ってくるクライサス。


「そういうわけでオリハルコンなんて余っていませんかね?」


「……お前も良い面の皮しているよ」


「あはは、これでもクランを率いる団長ですからねぇ。少しくらい図々しくないとやっていけないんですよ」


「……そうかい」


 俺は呆れながら鞄から取り出すふりをして【収納魔法アイテムボックス】からオリハルコンの原石を出していくつか渡してやった。


「まぁ、あの薬に比べたら入手難易度は低いから持っている可能性は高いと思っていましたが……あっさり出せるならそれなりの量がありそうですね」


「ナンノコトヤラ」


 クライサスは肩を竦めながら手に入れたオリハルコンの原石を持って鍛冶師の元へと戻っていった。


「どっから持ってきやがったぁ~~~っ!」


 鍛冶師の叫びが再び工房内に響き渡ったが、俺は明後日の方を見て気付かないふりをしておいた。






 それからクライサスから細工師を紹介してもらって、材料としてミスリルとオリハルコンの原石を渡したらまた叫ばれた。


 そういえば【緋緋色金ヒヒイロカネ】なんてあったがあれを見せたらどんな反応をするのだろうか?


《マスター、【緋緋色金ヒヒイロカネ】は現在加工中なので外に出すことは出来ません》


「……はぇ?」


 だが肝心の【緋緋色金ヒヒイロカネ】は加工中らしく、コンに外に出すことを拒否されてしまった。


(えっと……加工中って何をやっているんだ?)


《以前マスターに許可を頂いた加工を行っています。完成までしばらく時間を頂くことになると思います》


(そ、そうですか)


 そういえば以前に真夜中にコンから何か要請を出された記憶がうっすらと残っているが、何を要請されたのかは全く思い出せなかった。


(えっと、その……頑張ってください)


《お任せください、マスター!》


 うん。今更覚えていないとか、何を作っているのか聞けない雰囲気だぞ。


 とりあえず使う予定のなかった物だし完成を待つことにした。






 この世界、妻や恋人に贈るアクセサリーの代表として腕輪が上げられる。


 結婚の際は指輪という通例があるが、プレゼントとして渡すなら腕輪が良いという風潮だ。


 だから俺の趣味に合わせてシンプルだがセンスの良い腕輪を注文したのだが……。


「いくら構造が単純だからって完成まで10日はもらうことになる。そもそもミスリルとオリハルコンの加工には時間が掛かるもんだ」


 思った以上に時間が掛かるみたいなので俺は10日後に受け取りに来ると一旦リセの町に戻ることにした。


 普通に考えて国境で冒険者カードを提示して個人の出国を登録したわけだから、再び国境を通って帰るのが常識なのだが――面倒だったからそのまま転移魔法で帰った。


 どうせ10日後にまたドワーフ王国に行って商品を受け取るのだから、その時に纏めて出国手続きすれば良いやと思った為だ。




 ◇◇◇




 そして10日後、俺は約束通りドワーフ王国の首都に舞い戻ったわけだが……。


「ひょっとしてニコラスさんって……」


 クライサスにはめっちゃ怪しまれた。


 そりゃ魔法に詳しいなら転移魔法の存在は真っ先に疑うわな。


「2本目の輪切りはいかがっすかぁ~?」


「……僕は何も見ていません」


 クライサスを黙らせるのは難しくなかったけど。


 うん。クライサスは超一流の魔法使いであり戦士だからこそ、俺を敵に回す危険を敏感に感じ取っているようだ。


 こういうタイプは余程無茶な要求をしない限り話を通すのは簡単だった。


 俺を敵に回すことで得られるメリットと失うデメリットを比較して、デメリットの方が大きいと判断したなら余程倫理観を無視した要求以外は受け入れてくれる。


 そして現状クライサスは俺を敵に回す気はないようなので、常識的な範囲でなら俺の秘密を暴露したりしないだろう。


 ちなみにクライサスは小声で『そういえば以前、王都で【天罰事件】なんて不可解な現象が……』とか呟いていたが俺は何も聞いていないのでセーフだったぜ。


 ともあれ俺はドワーフの細工師から俺の分も含めて4つのお揃いの腕輪を受け取る。


「それをどういう使い方をするのか追及する気はないが……刺されないように気を付けろよ」


「……へい」


 うん。アイーシャ、セリーナ、エルティーナの3人にお揃いの腕輪を贈るのはやはり危険だったかもしれない。


 でも俺とお揃いが前提なのでデザインを変えると最悪俺は3つの腕輪を交互に付け替える必要が出てしまう。


 そうなれば危険は増すばかりなので現状ではこれがベストだった。






 結論から言えばアイーシャは泣くほど喜んでくれた。


 セリーナは照れ臭そうに受け取って嬉しそうにはにかんでいた。


 エルティーナは渋い顔をしていたが口元はにやけていた。


 勿論、それぞれに渡した時は夜に目一杯サービスしてくれた。




 ◇◇◇




「あ。今更ですが君の功績ポイントが溜まったのでCランクの昇格試験が受けられるようになりましたよ」


「え? 俺って何かしたっけ?」


 ある日、唐突にギルドマスターからCランクの昇格試験の話をされて困惑した。


 少なくとも、ここ最近は常識的な範囲で冒険者として活動した記憶がなかったからだ。


「エルティーナが細工をして君の功績をチマチマ捏造していたみたいです。君がDランクというのはいくらなんでも不自然なので早く上げろとせっつかれていましたしね」


「それってバレたらヤバイ奴じゃね?」


「もしもバレたらエルティーナはギルドマスターの位を剥奪されて冒険者の資格も一緒に失うことになるでしょうが……その時は君に責任を取ってもらう気なのでしょう」


「ああ。だから強気で行動出来るわけか」


 寧ろエルティーナとしては俺に責任を取らせたいと思っているから堂々と不正に手を染められるわけだ。


「まぁ、この程度の不正を告発する暇人なんていませんけどね。本気で告発を受ける気なら一気にAランクの功績ポイントを稼ぐくらいやらないといけないのですが、エルティーナは根が真面目なので思いつかないのでしょう」


「……おっさんがエルティーナを語るのは超複雑な気分だ」


「同期なのですから、この程度の話題で嫉妬されても困るのですけどねぇ」


 流石にこの程度で嫉妬を剥き出しにするほど狭量ではないつもりだが、それでも面白くないのは事実だった。


「しかしCランクかぁ。どんな試験だっけ?」


「誘導尋問には引っ掛かりませんよ」


「ちっ」


 仕方ないので後でライラさんに試験の傾向と対策を教えてもらうことにしよう。


 試験内容を教えてもらうのはNGだが、試験に備えてやることくらいは教えてくれるだろうから。




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