第12話 『弟子を魔法学院に通わせる』

 

「魔法学院?」


 俺がその話を聞いたのは週に1度のペースで来ている王都の拠点に滞在している時だった。


 昼間に来ると大抵の場合セリーナに部屋に引き込まれてしまうので、イセリアと話をするのは夜になってしまう。


 その夕食の席でイセリアから魔法学院の話が出たのだ。


「なんで今更?」


「えっと……私って5歳の時の魔法適正検査を受けていなかったので今回受けることになったんです」


 イセリアが5歳の時に必須で受ける魔法適正検査を受けていなかった理由は単純で、その時のセリーナはイセリアを育てるのに必死で1つの場所に居を落ち着ける状態じゃなかったからだ。


 意外と思われるかもしれないが、この世界は結構戸籍みたいなのがしっかりしていて、それに登録してある子供は5歳の時点で検査を受けるのが義務となっていた。


 イセリアは今まで戸籍登録されていなかったが、俺の屋敷で働くようになって余裕が出来たので戸籍を新規で登録することになり、そこでイセリアが5歳の時に検査を受けていないことが発覚したという流れらしい。


 その検査の結果、イセリアは魔法の資質ありと判断されて魔法学院への入学を進められたそうだ。


「資質ありって、どの段階の結果が出たんだ?」


「一応【高】の評価をもらったよ」


「へぇ、凄いじゃん」


【低】【小】【中】【大】【高】の5段階評価で1番高い評価を受けていた。


 本来は5歳の時点から通う魔法学院に途中入学を進められたということは、それだけイセリアの魔力が評価されているということだ。


「それで……どうしたら良いかな?」


「【魔力感知】や【魔力操作】を秘密に出来るなら通った方が勉強にはなるな。俺は本道の魔法の詠唱なんて知らないし」


 俺自身が無属性だった為に【属性変換】に欠陥と言い渡されてしまったが、イセリアには火と風に適性のある魔力があるのだから【属性変換】の方法だけでも学んでくれると非常に頼もしいと思う。


「えっと、それなら魔法学院に通ってみたいと思うんだけど、ちょっと問題が……」


「学費ならセリーナに預けてある生活費から出して構わないぞ」


「ありがとうございます!」


 やはり問題は金だったらしい。


 ぶっちゃけセリーナに預けた金は普通に生活していれば10年は余裕で暮らせそうな金額なのだから自由に使っても構わなかったのだが。


(なぁコン。俺の【収納魔法アイテムボックス】に入っている金って今どのくらいだっけ?)


《マスターの資産は現在白金貨1000枚以上です》


(……余裕過ぎる)


 普通に考えて既に一生を掛けても使い切れない金を貯め終えてしまっていた。






 昼にもセリーナには部屋に連れ込まれて色々と搾り取られたが、夜は夜でセリーナにワクワクしながら手を引かれて部屋に入った。


(MAXメロン!)


「きゃぁっ♡」


 セリーナの胸部のメロン目掛けて飛び込んだので声には出なかったが、それでもセリーナは黄色い声をあげながら俺を受け止めてくれた。


 巨乳エルフメイドさんはやっぱり最高でした。




 ◇◇◇




 翌朝の早朝には俺は町に帰ろうと思っていたのだが、どうやらイセリアが魔法学院に入学するにあたって保護者の同伴が必要になるらしい。


 本来ならイセリアの保護者はセリーナで良いのだが……。


「お母さん、起きてこない」


「……サーセン」


 昨夜は1週間ぶりだったので思わず張り切ってしまい、肝心のセリーナが未だにベッドでスヤスヤとお休み中だったりする。


 起こせば良いだけの話なのだが、あんまりにも幸せそうに眠っているので起こすに起こせず結局俺が代理で保護者を務める羽目になってしまった。


 転移魔法で王都に来たことは知られたくないので知り合いに会わないことを祈るばかりだ。


「…………」


 王都の知り合いって例のAランク探索者くらいなので会う心配はなさそうだけど。






 そういうわけでやってまいりました王都の魔法学院。


 魔力適性検査自体は、どの町でも実施されているが魔法学院があるのは王都だけだ。


 俺も5歳の時に資質ありだったなら王都に移動して魔法学院に通うことになっていただろう。


 イセリアの入学手続き自体はスムーズに進行して、入学金を支払った後に身体のサイズを測って制服を受け取って終わりだ。


 問題があるとしたら魔法学院の生徒と思わしき少年少女達がイセリアに注目していたことだろう。


 どうやら途中入学する者が珍しいらしく、好奇の視線を向けてくるだけなら良かったのだが……。


「なんで今になって入学なの? 突然変異で魔力が増えたとか?」


「戸籍がなかったから5歳の時に魔力検査を受けられなかったって先生が言ってたよ」


「なんで戸籍がなかったの?」


「貧乏だったからだろ」


「へぇ~、可哀想」


「あっちの隣にいるのは?」


「保護者じゃね?」


「兄……じゃないよね? エルフじゃないし」


「エルフと人間の間に生まれたなら兄弟でも種族が違うことってあるらしいぞ」


「それじゃ兄弟?」


「……絶対違うだろ」


 本人達はヒソヒソ話しているつもりなのかもしれないが、こっちには丸聞こえだ。


「うるせぇぞ、ガキども!」


 イセリアの方は大勢の子供を相手にした機会がなかったのか委縮してしまっているようなので俺が抗議しておいた。


「この人……魔法使い?」


「違うだろ。この歳の魔法使いなら卒業生でも知らないってことはない筈だし」


「なんだ、雑魚か」


 俺の頭の中で何かがプチっと切れるのを自覚した。






 魔法学院の一角は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


 まぁ、ちょっと強めにお仕置きしてやっただけだし、流石に殺す程のダメージは与えていないので問題ないだろう。


 大半の生徒が泣きながら蹲っているけど。


「な、何をやっているんですかぁっ!」


 とか思っていたら教師と思わしき女に見つかってしまった。


 一瞬逃げるかと思ったのだが……。


「ここは神聖な学び舎ですよ! ここで野蛮な行為に手を染めるなんてっ……!」


 ガキどもと同じ匂いがしたので逃げるのはやめることにした。


「やかましぃっ! こんなクソガキ量産しやがって! ちゃんと教育しろ、能無しがっ!」


「なぁっ!」


 俺の暴言に女教師の顔色が変わった。


「魔法学院の教師を怒らせたら、どうなるかわかっているのですか?」


「そんな態度だから生徒が全部クソガキに育つんだろうが」


「……どうやら命が惜しくないようですね」


 そうして女教師は俺を冷たい目で睨みながら魔法の詠唱を開始して……。


「ぷぎょぉっ!」


 詠唱が完成する前に悲鳴を上げて地面にぶっ倒れた。


 流石に【魔戦輪リング・スラッシャー】だと死んでしまうので、球体状に固めた魔力の塊を操って側頭部を殴りつけただけだ。


 ガキ共も同じような縮小版でゲンコツのように頭に落として泣かせただけだ。


「うぅ~む……弱い」


 今まで盗賊とか迷賊くらいしか対人戦を経験したことがなかったし、魔法使いを相手にするのは初めてだったのだが想像以上に弱かった。


 というか目の前に俺が――敵がいるのに呑気に詠唱を始めるとか舐めているのだろうか?


「嘘ぉっ! 実技のカミール先生が負けちゃったよ!」


「魔法を使ったようには見えないのに、どうやって攻撃したんだ?」


 泣き止んだガキどもが俺の戦いを分析していたが、ギロリと睨みつけてやると涙目で逃げ出した。


「イセリアなら簡単にトップを取れそうだな」


「うぅ……やっと同年代の友達が出来ると思ったのにぃ」


「……悪かった」


 ちょっと過激な学院デビューになってしまったが、これでイセリアが舐められて虐められるということはなくなったと思う。






 その後、家に帰ったらセリーナが起きていたのでイセリアの入学手続きの話をしておいたのだが――気付いたら結局部屋に連れ込まれていて町に帰るのは夕方になってしまった。


 無限ループって怖いよね。



 ◇◇◇




「王都の魔法学院に行く機会があったんだが、魔法使いのレベルってあんなもんなのか?」


「もう隠す気もないようなので私からは指摘しませんが、君からしたら王都の魔法使いのレベルなんてお遊戯みたいなものでしょう」


 今日も今日とてギルドマスターに色々と愚痴を零しに来たのだが、そういえば転移魔法を使えるのは秘密にしていたのだった。


「魔法学院の生徒というのは将来、国に仕える為に援助されているわけですから、幼少の頃からエリート意識を持つように育てられるのです」


「あれがエリートねぇ」


「学院では魔法を使えるように訓練しますが、逆に言えば魔法さえ使えれば良いように訓練されるので実戦を経験するのは国に仕えた後になりますね」


「……駄目じゃん」


 道理で隙だらけの詠唱を堂々と始めるわけだよ。


「というか俺は入学金を支払わされたんだが?」


「援助されるのは5歳の時に入学した生徒だけですよ。事情があって途中入学する場合は別途入学金が必要になります」


「冒険者や探索者の中にも魔法使いっていたけど……」


「学院の卒業生の中で落ち零れになると国に仕える前に追い出されるそうですよ。今まで育てるのに使った援助金を借金という形で背負わされて」


「それで冒険者や探索者になるわけか」


 寧ろ、そっちの方がマシな人生になるんじゃないだろうか?


「それ以外にも引退した魔法使いが余生を過ごす上で小遣い稼ぎに魔法を教えることがあるそうです。お金さえ払えば資質なしだった子供でも授業を受けることが出来るそうですよ」


「世の中金だなぁ」


 喩え金があったとしても【属性変換】の出来ない俺に普通の魔法は無理だったろうけど。


「ところで1つ聞きたいことがあったのですが……」


「ん?」


「君が頻繁にここに来ているのは、ひょっとして……アイーシャさんから逃げる為ですか?」


「…………」


 正解だよ、馬鹿野郎!


 うん。アイーシャさんってば前の晩にどれだけハッスルしようと、俺が家にいると昼間でもお構いなしにハッスルしようとするので夜まで回復の時間を稼いでいるのだ。


 基本的にアイーシャは俺が傍にいれば満足なんだと思うが、それはそれとして近くにいるなら求めてしまうのがアイーシャの性なのだと思う。




 ◇◆◇




 一方、魔法学院に通い始めたイセリアは頑張って勉強中だった。


 幸いなことに母親であるセリーナが元貴族の為、イセリアは物心付いた頃には読み書き出来るように勉強してきたので授業には普通に付いていけた。


 年齢さえクリア出来ればスリなんてしなくても普通に稼げる学はあったのだ。


 そうして授業を受けたイセリアは実技の授業中に早速魔法を使ってみることにした。


「●●●っ、●●●●っ」


 詠唱によって魔力が火に【属性変換】されてイセリアの左手の上に小さな炎が浮かぶ。


 初級の魔法なので種火程度にしかならないが、やっと魔法を使えるようになったことでイセリアは素直に感動した。


(出来れば精霊魔法が良かったけど、精霊が見つからないんだから仕方ないよね)


 そんなことを考えつつイセリアは左手の炎を維持し続ける。


 ニコラスに『イセリアは火と風に適性があるみたいだから、左手に小さな火を点けて、それを右手から燃料となる魔力を風で飛ばして引火させれば良いんじゃね?』とアドバイスされたからだ。


「あらあら。随分と可愛らしい魔法ですわね」


 その過程として左手の炎を維持するのに集中していると、同じく実技を受けていた1人の生徒が揶揄うように笑いながら近付いてきた。


「ですが、あなたにはお似合いの炎ですわ。おほほほっ」


「……そうかな?」


 イセリアは少しだけ気分を害しながら左手の炎を左手の人差し指の先に移して継続して燃やし続ける。


「ところで随分と長時間魔法を維持しているみたいですが……なにかコツでもあるのでしょうか?」


「ん?」


 イセリアはニコラスによって【魔力感知】と【魔力操作】の訓練を受け、それを今でも続けている。


 だから種火となる魔法に少しずつ燃料となる魔力を注ぎ込んで炎が消えないように維持しているのだ。


 最初は少し戸惑ったイセリアだったが、直ぐに慣れたので今なら10分くらいなら平気で炎を維持出来るようになっていた。


 ちなみに普通の生徒――というか普通の魔法使いだと種火程度とはいえ1分も維持出来ないのが普通だったがイセリア本人がそれを知らなかったので何を驚いているのかわからなかった。


「これはただの準備だよ?」


「……はい?」


「本当はこうやって、●●●、●●●●っ……」


 イセリアは少しだけ意趣返しの意味を込めて、まだ拙い【魔力制御】で右手に魔力を集めて詠唱を開始して――風で燃料となる魔力を広範囲に拡散させて、それに左手の炎を引火させた。




 結果、訓練場全体に広がるほどの巨大な炎が生まれた。




「あわわっ!」


 イセリア本人ですら想定外の事態で、慌てて炎を消したイセリアだったが――炎の消えた訓練場の中ではイセリアの炎で焼かれ、燃えた服の火を消そうと悲鳴を上げながら床をゴロゴロ転がっている生徒が沢山いた。


「あちゃぁ~……」


 まさかの結果にイセリアは頭を抱えていたが、そんなイセリアを見て目を輝かせている生徒もいた。


「やりますわねっ! あなたをわたくしのライバルと認定してあげてもよくってよ?」


「あ、うん」


 さっきまでイセリアを笑っていたのに少し実力を見せただけで掌を返してくる様に少しだけ引いていたイセリアだった。


(ごしゅじんさま、この魔法ってちょっと強力過ぎるかもしんない)


 結果的に、この日の授業は中止になり、火傷した生徒はイセリアに喧嘩を売るのはやめておこうと心に留めたのだった。




 ◇◇◇




《マスター、少し相談があるのですが……よろしいでしょうか?》


「んぁ?」


 俺がコンから相談らしきものを受けたのは真夜中のことだった。


 当然、俺は自宅――王都ではなくリセの町の方の自宅のベッドで睡眠中だった。


「~♡」


 更に言えば当たり前のように裸のアイーシャが腕の中にいて、さっきまで目一杯愛し合っていたので眠くて眠くて仕方なかった。


 昨夜もアイーシャは情熱的に俺を求めてきて『わたくし最高に幸せです♡』みたいな顔を見せられたので思わず全力で応えてしまった。


 アイーシャの暖かくて柔らかい身体が心地よくて猛烈に眠気を誘う。


(明日じゃ……駄目なのかぁ~?)


《はい。現在マスターのアイテムボ……に入っている……の使用許可を……加工には時間が……します》


(……好きにしてくれ)


 正直、眠すぎてコンが何を言っているのかも聞き取れなかったが、猛烈な眠気で思考が安定せずに確認もせずに許可を与えてしまった。


《ありがとうございます♪》


「……おやしゅみ」


 そうして腕の中のアイーシャを少しだけ強く抱きしめて俺の意識は落ちて行った。






 だから翌朝、目を覚ました時には昨夜のことはボンヤリとしか覚えていなかった。


(コン、昨夜は何かしたか?)


《現在、精密作業中の為、受け答えは出来ません》


(……そっすか)


 恐らくだがコンが夢中になっている調薬関係で貴重な薬品の使用許可でも求めて来たのだと思うが別に構わないだろう。


(そういえば【迷宮ダンジョン】で見つけた薬品関係を【収納魔法アイテムボックス】の中に入れっぱなしだったか)


 俺は最近、暇になると王都の【迷宮ダンジョン】に転移魔法で移動して階層の攻略を進めるということを繰り返していた。


 特に欲しい物があるわけではないし、セリーナの時のように時間制限があるわけではないので至極ゆっくりした攻略なのだが、それでも現在の攻略階層は第83階層といったところだ。


 相変わらず俺と【迷宮ダンジョン】の相性が良すぎるので攻略は順調すぎるくらい順調だった。


 この調子なら普通に第100階層まではありそうだし、最下層に何があるのか少しだけ楽しみになってきた。


 そういう感じで【迷宮ダンジョン】の攻略の際に大量の貴重なアイテムも手に入れていたのだが、あまりにも多すぎて【収納魔法アイテムボックス】に放り込んでコンに管理を任せていたので俺は殆ど把握していなかった。


(精密作業とやらが終わったらコンに聞いてみるか)


 なんて思ったのだが、直ぐに忘れてしまった。


「あなた様♡ 今日はお時間があるなら町でデートしませんか?」


「喜んで♪」


 アイーシャにデートに誘われたので、そっちに気を取られたのが原因かもしれない。






 そうして俺がアイーシャとのデートを楽しんでいる最中……。


《第一段階はクリア。続いて第二段階へ移行……同時にマスターの魔力に同期して【回路サーキット】の構築を開始》


 そんな物騒で意味不明な何かを構築していることなど知る由もなかった。




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