第11話 『人為的に天罰を起こしてみる』

 

 勘違いして欲しくないのだが俺は別に目立ちたくないとか実力を隠しておきたいとか思っているわけではない。


 唯、貴族のような権力者に利用されて好き勝手に使われたくないと思っているだけだ。


 金はあるだけあった方が良いし、権力は大きければ大きいほどいいし、良い女は沢山自分の物にしたいと思う。


 俗物?


 寧ろ、俺の欲求というのは当たり前の欲求で、逆にそういう欲求のない奴や無理に抑え込んでいる奴の方が異常なのだと思う。


 折角、異世界に転生して力を手に入れたのだから、可能な限り可能な範囲で好き勝手に生きたいと思うのは当然の欲求だろう。


 つまり俺のコミュニティの中で俺の立ち位置は当然のように王なわけで、誰かに命令されたり誰かに良いように使われたりするのは我慢ならない。


 そういうわけで邪魔な貴族は普通に死ねと思うわけだ。






「君の存在が一部の貴族に漏れたみたいですねぇ」


 だから、こういうのは本当に困るのだ。


 今日もギルドマスターに呼び出されて要件を聞いたらそんな言葉が飛び出してきた。


「一応言っておきますが私が原因ではありませんよ。寧ろ原因は王都での君の行動にあります」


「……具体的には?」


「君が王都の【迷宮ダンジョン】で助けた例のAランク探索者達が君を探し回ってお抱え貴族に協力を要請したようです。その結果、彼らは君のことを貴族に詳しく話してしまったようで、そういう経緯で君の存在が明らかになりました」


「あんな奴ら助けるんじゃなかった、クソが」


「悪意のない無自覚な行動というのは厄介ですねぇ」


 俺は正に恩を仇で返されたわけだ。


「……どう思う?」


「どうとは?」


「その貴族、暗殺したら駄目かな?」


「……物騒なことを私に相談しないでください」


 いや。結構マジに暗殺を考えているのだが、流石に上級貴族を暗殺したら問題が大きくなりすぎるから相談してみたのだ。


 規模的に子爵以下なら大丈夫だと思うのだが、伯爵以上だと厄介なことになりかねない。


「ちなみに、その貴族って誰なんだ?」


「シャルギット伯爵ですね」


「ちっ。伯爵かよ」


「……本気で暗殺する気だったのですね」


「事故に見せかければ、なんとかならんかな?」


「だから物騒なことを私に相談しないでください」


 そうは言っても、こんなことをアイーシャやセリーナに相談するわけにもいかないし、俺の担当受付嬢のライラさんに相談するのは違う気がするのだ。


 そういえば最近余りライラさんと話していない気がする。


「それで状況はどうなっているんだ?」


「既に君の足取りは捕捉されて、探索者達は既にこの町に向かっているようですね。恐らく来週には到着することでしょう」


「……その情報どっから入っているんだ?」


「私にも秘密の情報網があるのですよ」


 王都からこの町まで馬車で2週間の距離だ。


 それよりも早く情報だけを届けるとなると伝書鳩か早馬、または魔法による高速移動ということになる。


 流石に通信用の魔法はないと思うが100%ないとは言い切れない。


(通信魔法か。イセリアが成長したら龍脈を通して連絡出来るか実験してみるのも面白いかもしれないな)


 流石に数年は時間が掛かると思うが、それでも非現実的な可能性とは思っていない。


 それまでに魔法の理論だけでも完成させておこう。


「少し癪だが、暫く町を離れて身を隠すとするかな」


 俺には転移魔法があるのでアイーシャやセリーナには簡単に会いに行けるし。


「そうですね。貴族を暗殺するよりは現実的な意見かもしれません」


「ちなみに他意はないが、そのシャルギット伯爵の評判ってどんな感じだ?」


「敢えて無礼を承知で言わせて頂くなら、外面は良いけど腹の中は真っ黒なので、もしも彼が誰かさんに暗殺されても泣く人よりも喜ぶ人が多いかもしれません」


「……本音は死ねば良いって思っているってことか」


「ナンノコトヤラ」


 このギルドマスター、だんだんはっちゃけてきた気がする。


「ともあれ、そういうわけなんで家に護衛を付けてくれ。金は払うから腕の良い女冒険者を」


「はいはい。手配しておきますよ」


 王都のセリーナは兎も角、この町で俺の家に住んでいるアイーシャは誤魔化しが効かないから護衛が必要になる。


 その辺りをギルドマスターに頼んで俺は帰ることにした。






 帰ってアイーシャに事情を話したら滅茶苦茶泣かれた。


 やっと俺が王都から帰ってきたのに、また直ぐに離れ離れになるのは嫌だと泣いて哀願された。


(むぅ~)


 転移魔法で直ぐに戻って来られると言ってもアイーシャにとってはそういう問題ではないのだ。


 アイーシャにとって重要なのは俺と一緒に暮らしているという事実なのだから、期間を置かずに直ぐに会えると言っても何の慰めにもならない。


 そうして泣いて俺に縋り付いてくるアイーシャを宥めていたら――だんだんムカついてきた。


(なんで俺がクソ貴族のせいで家を出なくちゃいけないんだ? なんでクソ貴族のせいで俺の女が泣かなくちゃいけないんだ?)


 腹の底からフツフツと怒りが沸いてくる。


「……止めた」


「え?」


「やっぱり出て行くの止めた。どうして貴族如きのせいで俺が出ていかなくちゃならないんだ」


「~~~っ!」


 堂々と宣言した俺にアイーシャが泣きながら抱き着いてきた。


 そして俺は貴族なんぞ皆殺しにしてやるつもりで生きていくことに決めた。


「…………」


 勿論、俺の中ではアイーシャとセリーナが元貴族だという事実はなかったことになっている。




 ◇◇◇




「で。実際問題どうすれば良いと思う?」


「……君は本当に女で身を持ち崩しますねぇ」


 1日考えてみたが解決方法が思いつかなかったので結局ギルドマスターの部屋に相談に来る羽目になった。


「現実的に考えれば、より大物の貴族に後ろ盾になってもらって守ってもらうというのが1番なのでしょうけれど……」


「却下。どんな対価を要求されるか分かったものじゃない」


「ですよねぇ~」


 どんな貴族だろうと平民の俺の為に行動する場合、1の労働の対価に100を求めてくるのが普通だ。


 本人に強欲の自覚はなしに、それが当たり前だと思っているのが貴族なのだ。


 そして、そういう貴族に限って自分は善人で良いことをしていると思い込んでいるので、より厄介だったりする。


 寧ろ、自分が強欲だと自覚している貴族の方が妥協を引き出せる分マシかもしれない。


 どちらにしろ貴族が厄介だという事実に変わりはないけど。


「いっそのこと貴族を片っ端から皆殺しにするのはどうかな?」


「君の場合、それが本当に出来てしまうから厄介なんですよねぇ」


 貴族と言っても所詮は普通の人間に過ぎないわけで、夜中に空から奇襲して目撃者諸共皆殺しにすれば相当な人数を殺せると思う。


「だが、それをやった場合、少なくない問題が発生するよな?」


「そうですね。貴族というのは面子を大事にする者達が多いですから、君がシャルギット伯爵を暗殺した場合は同派閥の貴族が草の根を分けてでも犯人を探し出そうとするでしょうね」


「イタチごっこになるというわけか」


 俺がシャルギット伯爵を殺した場合、シャルギット伯爵を殺した犯人を捜そうと他の貴族が乗り出し、その貴族を殺したらまた違う貴族が俺を探そうとして――という風に延々と終わらない鬼ごっこが始まるわけだ。


 つまり貴族を殺さないように大人しくさせる方法が必要になるわけだ。


「ふむ」


 これは、つまり俺だと確信出来ないような方法で、俺に手を出そうとすると酷い目に遭うのだと分からせれば良いわけだ。


「良い手を思いついたぞ」


「……嫌な予感がしますが一応聞いておきます。どんな方法です?」


「名付けるなら【天罰事件計画】ってのはどうかな」


 そうして俺はギルドマスターに詳細を話したら……。


「私には君が馬鹿なのか天才なのか分からなくなってきました」


 失礼なことを言われた。




 ◇◆◇




 その夜、シャルギット伯爵ことアリオト=レクラ=シャルギットは上機嫌にベッドに入った。


 既に50代を過ぎた彼は女に興味を失くして久しいが、それでも金と権力への欲望は日増しに大きくなっていた。


 表の顔としての彼は王都の学院や孤児院などに寄付を欠かさない善良な貴族という顔を持っているが、裏では平気で孤児や亜人種をゴミ扱いする屑だった。


 そんな彼の機嫌が良いのは、お抱えのAランク探索者によって【魔法の鞄マジック・バッグ】を所持していると思わしき平民がいるという報告を受けたからだ。


 具体的には【迷宮ダンジョン】で命を救われ、その礼をしたいから恩人を探して欲しいという話だったが。


 面倒だと思いつつも話を聞いたシャルギット伯爵は、その恩人が【魔法の鞄マジック・バッグ】か、それに類する代物を所持していると確信した。


(容量にもよるが、その【魔法の鞄マジック・バッグ】を手に入れられれば最低でも白金貨3000枚以上で売れる。良いカモがいてくれたものだ)


 シャルギット伯爵はほくそ笑みながら眠りに落ちて……。




 ドォォ―――――――――――――――――――ンッ!




「っ!」


 屋敷を揺るがすような轟音によって叩き起こされていた。


「何事だっ!」


 叫びながら部屋を飛び出した彼は使用人達に原因を問いただす。


 そうして混乱しつつも使用人が答えたのは……。


「なん……だと?」


 空から屋敷に巨大な岩が降ってきて、その巨大な岩によって屋敷の一角が崩壊したという報告だった。


 幸いなことに死者はいないようだが、先程の轟音によって多数の者が混乱して怪我をしたという報告も受けたが……。


(そんなことはどうでも良いっ!)


 シャルギット伯爵にとって問題なのは、彼の自慢の屋敷が一部とはいえ崩壊したという事実だ。


「原因を調査しろ! 動ける人員を全て動員して調査に当たらせろ!」


 そうして夜を徹して大岩が降ってきた原因を調査することになった。






 原因は日が明けて明るくなった時点ですぐに判明した。


「旦那様、これは……」


「…………」


 屋敷に落ちてきた大岩の表面に、どうやって書いたのかわからないが大きな文字が書かれていた。


【この屋敷を持つ者、天の意思に反する大罪人にて天罰を下すものなり】


 最高に目立つ巨大な岩に大きな文字で描かれていたので、その噂は瞬く間に王都中に広まっていった。


 そうして王都の人々はシャルギット伯爵が実は極悪人だったのではないかと噂し始めていた。






「ええいっ! まだ犯人は見つからないのかっ!」


 シャルギット伯爵は歯噛みしながら机を叩きつけて専属の執事に怒鳴りつける。


「しかし旦那様。犯人と言われても神が相手ではどうしようも……」


「馬鹿な! あんな真似をする者が神である筈がないだろうが! これは間違いなく神を語る人為的な犯行だ!」


「ですが、あれほど巨大な岩を夜中とはいえ周囲の誰にも気付かれないように屋敷に落とすことなど人の手で出来るものなのでしょうか?」


「そ、それは……」


 シャルギット伯爵の知る限り、喩え魔法を使ったとしてもあそこまで巨大な岩を周囲に悟らせることなく、しかも上空から落とすなど不可能だった。


「くっ! 兎に角、犯人は人間に決まっているのだから犯人捜しは続行するのだ!」


「……畏まりました」


 執事は一応恭しく頭を下げて了承したが、その顔はどう見ても犯人が見つかるとは思っていない顔だった。






 それからシャルギット伯爵の身には行く先々で事件が起こった。


 例えば、出先で昼食を食べている最中に石が空から降ってきた。


 今回は巨大な岩ではなく、手で簡単に持てるくらいの大きさの石だ。


 それだけなら子供の悪戯で済ませることが出来たが、その石が数百、数千も空から降ってきたとなると大事件だ。


 その石はシャルギット伯爵目掛けて集中的に落ちてきていたが、落石範囲は広かったので周囲の人々が巻き込まれて怪我を負う事件になった。


 勿論、落石の雨の中心にいたシャルギット伯爵は全身を石で打たれて全身打撲という診断結果を受けることになった。


 更に現場には小さめの岩が何個か落ちてきており、その岩にはシャルギット伯爵に天罰を与えたという旨が書かれていて、また周囲の噂は広まっていった。






 そんなことが幾度か繰り返されて、ついにシャルギット伯爵は王都の中で最も大きな教会へと逃げ込むことになった。


(くそっ! くそっ! くそぉっ!)


 彼は未だに神の仕業とは思っていなかったが、それでも周囲に神の怒りに触れて天罰を受けていると思われるのはまずいと判断して教会で神に懺悔する為に来たのだ。


 結果としてシャルギット伯爵が祈りを捧げている間に教会の一角に再び巨大な岩が降ってきて教会の一角が崩れた。


 勿論、大岩には大きな文字で天罰の文字が刻まれており、教会関係者はシャルギット伯爵に教会の出入りを固く禁止するように言い渡した。






「馬鹿な……こんな馬鹿なぁっ!」


 シャルギット伯爵が屋敷の部屋に閉じこもって出てこなくなるまで天罰事件は続いたという。




 ◇◇◇




「ふむ。大成功だな」


「……やりすぎだと思いますよ」


 シャルギット伯爵が完全な引きこもりになったことを確認して俺は【天罰事件計画】を終了させたわけだが、何故かギルドマスターは深く嘆息している。


 以前オークの集団を見て広範囲魔法攻撃が欲しいと思った俺は【収納魔法アイテムボックス】に巨大な岩を収納しておけば自由に敵の頭上から落下させて攻撃になるんじゃね? と思いついた。


 その為に俺の【収納魔法アイテムボックス】の中には巨大な岩や石が大量に入っていたので、それを空から落とすことで天罰ということにしておいた。


 岩に書いた文字は勿論【魔戦輪リング・スラッシャー】で削って書いたもので、この世界の技術では描けない不思議な方法なので神の御業とでも思ってくれるだろう。


「これで今後シャルギット伯爵が俺にちょっかいを掛けてくることはなくなったし、もしも他の貴族がちょっかいを掛けてきたら再び天罰事件が起こるって寸法だ」


「それだと君が犯人だと特定されませんか?」


「人間には不可能な事件なんだから、俺の所有物を取り上げようとすると天罰が起きるとか噂を流しておけば良いんじゃね?」


 更に言えば俺がやったという証拠はないし、俺は事件当日に町にいたアリバイが成立している。


 そういう矛盾点を突けば追及されたとしてもすっとぼけるのは簡単だろう。


「一応確認しておきますが、その噂って誰が流すのですか?」


「頼りになるギルドマスターが知り合いにいて俺は嬉しいなぁ♪」


「……はいはい」


 ギルドマスターは俺の頼みを快く引き受けてくれた。


 色々と面倒な仕事を押し付けられたし、このくらいは構わないだろう。


「ふむ。折角だし岩を落とす戦法を【隕石落としメテオ】とでも名付けるかな」


 実際には隕石が降るわけじゃないが、結果を見た奴からは違いは判らないだろうし構わないだろう。


「……好きにして下さい」


 ギルドマスターはゲンナリしていた気がするが、きっと気のせいだろう。






「おかえりなさいませ♡」


 家に帰ると御機嫌のアイーシャがハグ付きで出迎えてくれた。


 俺が家を出るのを中止してからのアイーシャは御機嫌な状態が続いており、夜は御奉仕という名目でたっぷりと俺を搾り取る作業に従事している。


 胸部に装備されたメロンは揉んだり吸ったり挟んだりするだけが使い道じゃないと最近思い知らされた。


 まさか、あんな使い道があるとは――アイーシャも侮れない。


 俺が居間のソファに腰を落とした後は、甲斐甲斐しくお茶の準備をしてくれて、その後は隣に座ってぴったりと体を寄り添わせて幸せそうなオーラを振りまいていた。


 きっと、ここで『行方不明の息子は良いのか?』とか聞かないのがマナーなのだと思う。


 実際アイーシャからは既に息子を探すという意思は感じられない。


 低い可能性を探して絶望するよりは、近くにある幸せを全力で守ることに決めたのだろう。


「あ♡」


 腰に手を回して抱き寄せるとアイーシャは全身の力を抜いて俺に身を任せてきた。


 最近は不定期ではあるが時々王都に転移魔法で移動してシャルギット伯爵に嫌がらせをしていることが多かったので、ゆっくり出来るのは久しぶりだ。


「~♪」


 勿論、夜にはベッドでアイーシャが張り切ってくれるだろうけど、今はゆったりとした時間を楽しむことに決めた。




 ◇◇◇




 数日後、予定通り――というか聞いていた通りに例の6人組のAランク探索者達が俺に会いに町を訪れてきた。


「その節は本当にありがとうございました!」


「……助かった……感謝している」


 代表はあの時に俺と交渉していた女性魔法使いで、重症を負っていた重戦士は口下手なのか途切れ途切れ俺に礼を言っていた。


 本来なら貴族に俺のことを報告して恩を仇で返したことに釘を刺しておきたいところなのだが……。


(余計なことを言うと、またシャルギット伯爵みたいなのが現れそうだから口止めだけにしておこう)


 彼らはあんまり駆け引きとか交渉は得意そうに見えなかったので、俺が貴族と関わりたくないということだけを話して礼を受けておいた。


 勿論、彼らはシャルギット伯爵に俺のことを話してしまったことを正直に打ち明けて謝罪してきたが――終わった話を蒸し返すほど俺は無粋ではないし暇でもないので聞き流しておいた。




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