第10話 『いつのまにか相棒が成長していた』

 

 ようやく王都でのギルドマスターの用事が終わって帰れることになった。


「いやぁ、大変でしたよ。特に誰かさんのことを秘密にしたままオークロードの討伐の話を誤魔化すのが大変でしたよ」


「……サーセン」


 悔しいが今は頭が上がらないので素直に謝っておく。


「そして君は今回も寝不足なんですね」


「……ナンノコトヤラ」


 うん。今日町に帰るということをセリーナに伝えたら昨夜はもう1回、もう1回と延々と求められて――気付いたら朝になっていた。


 同じようなことが前にもあった気がするが、きっと気のせいだろう。


 今朝、涙目で俺との別れを惜しむセリーナに家を任せてギルドマスターと合流して今に至る。


 そうして今は王都を出て馬車に揺られているわけだが……。


「そういえば君、【迷宮ダンジョン】の中で誰かに会いませんでした?」


「探索者になら沢山会ったけど?」


「いや。具体的には第46階層あたりで人助けとかしませんでした?」


「ああ、なんか重戦士が重傷を負ってポーションも魔法も切れて置いていく置いていかないの論議をしていたパーティなら接触したかも」


「それ、王都の【迷宮ダンジョン】に潜る探索者の中でも1番の実力を誇るAランク探索者パーティですから。君がどういうわけか早々に【迷宮ダンジョン】から帰ってきたのとは違って彼らは昨日【迷宮ダンジョン】から出てきて、助けてくれた誰かさんを探してお礼をしたいって言ってましたよ」


「……人違いってことでよろしく」


 Aランクの探索者とか絶対に貴族と繋がりがあるって。


 そんな奴らとは関わり合いにならないのが1番だ。


「でも【迷宮ダンジョン】の最高到達階層は第48階層なんだろ? なんで奴らは第46階層にいたんだ?」


「第48階層は歴代最高到達階層ですよ。そこに到達した探索者パーティはもう50年以上も前の人物で、彼らはその探索者に続いて最高到達階層を更新するんじゃないかと言われている期待の探索者です」


「へぇ~」


「ちなみに、あんまり聞きたくないけど君ってどこまで潜ってきたのですか?」


「ちょっと……第53階層まで」


「予想はしてたけど余裕でぶっちぎれるんだね」


 いや。言い訳するわけじゃないけど俺って【迷宮ダンジョン】と相性が良いんだよ。


 狭い空間なので【監視魔法サテライト】の有用性は薄れるけど、オークのように多数を相手にする必要がないから【魔戦輪リング・スラッシャー】で対処出来るし、移動は【推進力場フォース・ドライブ】で余裕だし、罠は【魔力視】で見破れるし。


 おまけに【迷宮ダンジョン】全体が魔力を帯びているからコンに介入させると簡単に迷路の地図が作れるんだよ。


 俺にとっては【迷宮ダンジョン】攻略というのはイージーモードだったのだ。




 ◇◇◇




 当たり前の話だが、王都近辺は治安が良くて、王都を離れる程に治安は悪くなっていく。


 そういうわけで王都を出発して10日近く経つ頃には魔物や盗賊に襲われる頻度も増えてきていた。


 勿論、瞬殺したけど。


「護衛が君1人だから物凄く安上がりで効率が良いんですよねぇ」


 ギルドマスターは何か言っていたがきっと気のせいだろう。


「普通、護衛って言ったら1パーティか2パーティなんで5人~10人は雇わなくちゃいけなくなります。そうなると当然足は遅くなるし食費だって馬鹿にならなくなる。おまけに襲撃を受ければ怪我だなんだで益々遅くなるし、盗賊を生かして捕えれば犯罪奴隷として売れば儲かるからと、また揉める」


「…………」


「そういう面倒なことがない分、今回の旅は非常に快適でしたよ」


「……それは良かったな」


 こんな後少しで町に着くってタイミングで言うのは物凄くずるいと思う。


 いや。別に照れてるとかじゃなくて、このタイミングでは護衛の追加料金とか取れそうもないからいやらしいという意味だ。


 このおっさんの面の皮で鎧を作ったら最強の防具が作れるんじゃないか?


 割と本気でそんなことを思いながら【地図魔法マップ】を確認すると――またもアイーシャが玄関の前でウロウロしているのを発見してしまった。


 これは帰ったら、また干からびるまで搾り取られるコースですわ。


 王都の方の地図情報に切り替えるとマーカーの1つはイセリアの部屋にある。


 恐らくは俺が教えた魔力を感じて動かす為の訓練をしているのだろう。


 更にもう1つのマーカーは――俺の部屋にあった。


(お前もかよ)


 どうやらセリーナもアイーシャと同じく俺のベッドに潜り込んで残り香で自分を慰める作業に従事しているらしかった。


 週に1度くらいは王都に飛んで欲求不満を解消させないとセリーナも爆発しそうだ。




 ◇◇◇




 冗談抜きで死ぬかと思った。


 俺がリセの町に帰還しギルドマスターに依頼の完了を告げられて家に帰ったら――アイーシャに捕獲されて殺されかけた。


 いや。別にセリーナのことがバレて怒られたとかではなく、純粋に寂しさを埋める為に求められて、求められて、求め続けられて――干からびて死ぬところだった。


(求められるのは良いが流石に1ヶ月くらいは我慢出来るようなって欲しい)


 なんだかんだ言ってアイーシャって2週間くらいで我慢の限界に達してしまうので迂闊に目を離せないのだ。






 そんな感じで2日くらいはアイーシャと愛欲に塗れた日々を送ることが出来たのだが、3日目にはギルドマスターに呼び出された。


「そろそろオーク狩りを再開してくださいね」


「……またオークかよぉ」


 結構、時間が経っているし大量に餓死してねぇかなぁ。


「悪い報告として森の浅い部分でオークの集団と遭遇して戦闘になったという報告が何件か入っています。散発的に広がった結果だと思いますが何割かがこちらに流れてきたのだとしたら困ったことになりかねません」


「そんなに近いんだったら、それこそ冒険者が討伐で良いんじゃないか?」


「勿論、近場のオークはそれで良いですが流石に1000を超えるオークだと対処出来ませんからねぇ」


「……分かったよ」


 面倒だが、これも仕事と割り切ってオークの偵察に行くことにした。


 町が襲われてアイーシャに何かあっても困るし。






 上空から見てみると予想通りオーク達は散り散りになっていたが、それでも3000近くは町の近くの森で密集しているのを発見した。


 こいつらを始末すれば暫くはオーク退治に面倒を取られることはなくなりそうだ。


(こういう時に広範囲攻撃魔法があればなぁ)


 未だに【魔戦輪リング・スラッシャー】以外の攻撃手段のない俺は何か手がないかと考える。


「……待てよ?」


 そうして思いついた攻撃手段。


 今回のオーク狩りには使えそうもないが、それでも確保しておいて損にはならないだろう。


 オークを適当に蹂躙しながら俺は攻撃手段を確保することに成功した。




 ◇◇◇




 ギルドマスターに近場のオークは殲滅しておいたことを報告した後、俺は自宅で魔法の研究に勤しんでいた。


 とは言っても今回は何か作りたい魔法があるわけではなく、【迷宮ダンジョン】から持ち帰った魔石の研究をしているだけだ。


「ふぅ~む」


 この魔石を【魔力視】で見ると倒した魔物に準じた属性の魔力を持っていることがわかる。


 例えば第50階層で倒した焦げ茶色のドラゴンが落とした魔石は純粋な黄色――土属性の魔力が篭っていた。


 ギルドマスターの話によると、この魔石を使って王都全体を覆うような巨大な結界を張っているそうだ。


 あくまで魔物かそれに準じた生物の侵入を阻む結界だそうだが、その結界を作動させる為の動力として魔石が使われているらしい。


「この魔石の魔力を俺にプラス出来れば相当な魔力を確保出来るんだがなぁ」


 それはきっと誰もが考えて誰もが挫折した道なのだろう。


 魔力を視認出来る俺でさえ、魔石に込められた魔力を俺自身の魔力に加算することは難しい。


 具体的には魔力の波長が違うので単純に取り込もうとしても必ず失敗してしまう。


 例えば一時的に俺の魔力を魔石の魔力と波長を合わせて取り込むことは出来ないでもないが、少しでも気を抜くと波長が元に戻って取り込んだ魔力が外に放出されて無駄になる。


 本気で取り込むならば俺の魔力ではなく、魔石の魔力を俺に合わせて調整する必要があるだろう。


「どうやってだよ?」


《マスター、魔石をマスターの魔力に馴染ませて魔力バッテリーとして運用することを提案します》


「…………え?」


 答えが予想外のところから返ってきて流石に困惑した。


「えっと。魔石の魔力を俺に合わせて調整とか出来るのか?」


《所詮は魔力なのでマスターの【収納魔法アイテムボックス】に入れて魔力に浸しておけば勝手に変質すると思われます》


「お~う」


 そんな簡単なことで魔石の魔力を変えることが出来るとは。


《通常であれば魔石の魔力も変質を繰り返すので不可能ですが、マスターの【収納魔法アイテムボックス】の中ならば……》


「時間が止まっているから変質は起こらないってわけか」


 魔石の調整で最初の準備が時間を止めることって、どんなクソゲーだよ。


 ともあれ、これで肝心な時に魔力が切れて何も出来ないなんて場面は回避出来たわけだ。


 魔力バッテリーになる魔石はこれから作るんだけど。


「というか、何気にコンって少しずつ頭が良くなってないか?」


《そのような事実は存在していません》


「……そっすか」


 コンは否定したが、ひょっとして【使い魔】も成長するのだろうか?


 もう少しコンに変化が現れたら本格的に研究してみるのも面白いかもしれない。






「あなた様。お仕事は終わりですか?」


「仕事というより趣味の研究だけどな」


 俺の部屋にお茶を持ってきてくれたアイーシャからカップを受け取って口を付ける。


 今は俺が家にいるのでアイーシャの心と身体は安定している。


 今更だがアイーシャが本当に求めているのは俺との性交だけではなく、俺が傍にいるという事実だ。


 勿論、傍にいるのに長期間抱かなければ寂しさは募っていくだろうが、それでも俺と引き離された状況よりは緩やかな寂しさだろう。


(想像以上に早く俺に依存してしまったな)


 初めて恋人のようにアイーシャを慰めて以来、アイーシャが死んだ夫や行方不明の息子よりも俺との繋がりを求めていることは気付いていたが、俺が思っていた以上にアイーシャは寂しがり屋だった。


 極端な話だがアイーシャの場合、盗賊に凌辱されていた時よりも1人でお留守番している時の方がダメージが大きいのだ。


 勿論、俺が迂闊に彼女を本気で慰めてしまった結果の話だが。


「……失礼いたします」


 そうして考えごとをしながらお茶を飲み干した瞬間、アイーシャは椅子に座った俺に正面から抱き着いてきた。


 1度ぎゅぅ~っと強く抱き着いてきて、その後に少しだけ拘束を緩めて正面から顔を合わせるように俺を見つめてきて――目を瞑ってキス待ちの顔で待機した。


「~♡」


 ここまでされてしない訳にもいかず、俺は少しの敗北感を感じながらアイーシャの求めに応じて唇にキスをした。


 そのままアイーシャにガッチリと両腕で頭をホールドされて、長いキスを末に舌が俺の口内に侵入してきて――情熱的なキスへと移行した。


 30分程もそんな状態が続いて先に我慢出来なくなったのは――俺の方だった。


「あっ♡」


 アイーシャの拘束を力ずくで解いて、そのままアイーシャをお姫様抱っこで抱え上げてベッドに移動した。


 これも最近気付いたことだが魔力を纏った状態なら僅かにだがパワーアシスト機能が働くみたいで、あんまりパワーに自信のない俺でもアイーシャをお姫様抱っこ出来るのだ。


「~~~♡」


 勿論、その後は滅茶苦茶●●●した。




 ◇◇◇




「おかえりなさいませっ!」


「お、おう」


 王都の拠点に転移魔法で移動すると、早速出迎えてくれたセリーナに――部屋まで連行された。


「あの……セリーナさん?」


「……寂しかったです」


 そうして部屋の中でぎゅぅ~っと抱きしめられて、目の前にエルフ耳が美味しそうに揺れていたので思わずハムッと甘噛みしてしまった。


「ひゃぁんっ♡」


 悲鳴とも嬌声とも取れるような声を上げたセリーナは、しかしそのまま体勢を維持して俺のされるがままとなっていた。


 そうして耳を甘噛みしながら抱き合っていて気付いたのだが――明らかにセリーナの胸が以前よりも大きくなっていた。


 どうやら以前のセリーナの胸囲はマックスではなく、栄養状態が改善された為にマックス状態に戻ったというのが真相のようだ。


 メロンはメロンだが、今のセリーナは確実にアイーシャよりも少しだけ胸が大きくなっていた。


 それに気付いてしまった以上、揉まないわけにはいくまい!


「あっ♡ んぅっ♡ ハァハァ♡」


 最も胸を揉むのにふさわしい体勢ということでセリーナの後ろから抱き着くようにして胸を――おっぱいを揉みまくる。


 勿論エルフ耳も継続して甘噛み中だし、それ以外にも首筋にキスマークを付ける勢いで唇を這わせる。


「もっと……もっと私を求めてください、御主人様ぁ♡」


 それから延々とセリーナを慰め続け――落ち着いた頃には外は暗くなっていた。






「ごしゅじんさま、いつからいたの?」


 夕食の席でイセリアに困惑した顔で尋ねられたが――俺とセリーナは笑って誤魔化すことしか出来なかった。


 昼には居たのに延々と部屋に籠ってチョメチョメしてました、とは娘には言えない。


「魔力の訓練はどんな感じだ?」


「ん~っと……少しだけ魔力ってどんなものなのか分かって来たかな?」


 まだ訓練を初めて数週間だが、それでも魔法に長けたエルフだけあってコツを掴むのは早かったようだ。


 食後にイセリアと両手を繋いで魔力を流してやる。


 右手から魔力を流して左手から魔力を吸い取るような動きで、俺とイセリアの繋いだ手を円のように循環させると魔力の流れが掴みやすい。


「あ、凄い。これなら魔力の流れが凄く分かりやすい」


 俺にもこれをやってくれる先生が居れば、もっと早く魔法を習得出来たと思う。


「あの……御主人様、私にもやってください」


 セリーナが同じことを求めてきたが、きっと魔法の訓練をしたいんじゃなくて俺と手を繋ぎたいってだけの話だと思う。


 勿論、拒否する理由はないのでセリーナとも存分に手を繋いでやった。


「~♪」


 単純だが、それだけでセリーナは嬉しそうだった。


 今後は週1くらいでやって来て魔法の訓練を施そうと思う。




 ◇◇◇




 俺は【推進力場フォース・ドライブ】によって上空数千メートルの位置で地上を見下ろしていた。


「ふむ」


 今回は【地図魔法マップ】の完成度を確かめる為に上空から実際の地形と【地図魔法マップ】とを見比べていたのだが……。


「多少の誤差はあるものの殆ど完璧と言っても良い精度だな」


《恐縮です、マスター》


 本人は否定しているが、やはりコンの性能は僅かずつであっても上昇していると思う。


 だって受け答えが明らかに洗練されてきているし。


 ともあれ俺が活動する町を中心に半径500キロの範囲の地図は完成したと言っても良いだろう。


 これほど精巧な地図は、この世界には存在しない筈なので1つの財産と言っても良いレベルの代物だ。


 勿論、これを公開する気は更々ないけど。


 どうせ貴族どもの手に渡っても戦争くらいにしか使わないのだから俺が独占している方がマシというものだ。


 地図の精度も確認出来たし、そろそろ戻ろうかとも思ったのだが……。


《マスター、接近する敵影を確認しました》


「こんな上空に敵?」


 何事かと視線を向ければ、下の方から何か大きなものが上昇しながら接近してきていることに気付いた。


「鳥……じゃないな。竜か?」


《恐らく飛竜……ワイバーンだと思われます》


「ワイバーンってこんなに高く飛べるんだな」


 俺に接近していたのは手と翼が一体になったような竜――ワイバーンだった。


《恐らくマスターを見つけたので上昇接近を試みたのでしょうが……相当無理をして上がってきた模様です》


「もう既に疲労困憊に見えるな」


 いくらワンバーンでも、この高さは想定外だったらしく相当苦しそうだ。


「放っておいても死にそうだな」


《マスター。ワイバーンの尻尾に含まれる毒は猛毒ですので、それを確保してください》


「……何に使う気だ?」


《以前に個体名:セリーナの肉体を修正した際に薬品類を弄った影響で薬品や毒物の調合が可能になりました。ワイバーンの猛毒は貴重なサンプルになると思われます》


「おうふ」


 まさか独自に進化して調薬の技能を勝手に身に着けていたとは。


「OK。ワイバーンを確保する」


 俺は【魔戦輪リング・スラッシャー】をワイバーンに放ち……。


《マスター、可能な限り傷のない状態で仕留めてください。ワイバーンは血も貴重な素材になるのでなるべく零さないようにお願いします》


「あ、はい」


 意外と細かい注文を出されたので弱っている割にワイバーン狩りは結構大変な作業になってしまった。


 だが苦労した甲斐があって、ほぼ無傷で仕留めたワイバーンを【収納魔法アイテムボックス】に収納したら心成しかコンは満足そうな雰囲気を醸し出していた。






 その後、コンに要請を出されて調薬に必要な各種材料や器具などを買わされる羽目になった。


 勿論、俺は全部【収納魔法アイテムボックス】に放り込んだだけだが、中でコンが色々と弄り回して使い方を学んでいるらしい。


 なんか、その内凄い薬とか毒とか作ってくれそうな気がしてきた。




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